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36.ヒゲ騎士のけじめ


 俺たちはルフィーナたちよりも先に、ミストゥーニの外ゲートを出た。俺が見習い騎士の時、さんざんシャンタルと世界の各地を見て回ったはずなのに、まだ見ぬ地があったなんて思わなかった。


「それにしても本当に狭すぎる道だぜ。こりゃあ、馬だと厳しいか? 王女様はこんな道を歩けんのか。そう思わねえか? アス坊」


「ちょっと、ハヴィ。アス坊はやめてよ~! ルプルもここにいるんだからさぁ」


「アス坊とは、アスティンさんのことですか? そ、それなら大丈夫です! わたし、どっちの呼び方でもいいです」


「ほぅ? 聞いたかアス坊。見習い騎士ルプルの言葉をよ」


「俺は副団長なんですよ? さすがに坊はないでしょ。だから、ルプルもアス坊とは呼ばないでね」


「は、はいっ! ごめんなさい」


 アダリナ姫から迫られていたハヴィは、しばらく何かを考えていたけど、張り切るルプルと俺を茶化す為なのか、すぐに元のハヴィに戻っていた。反対に、ドゥシャンだけが考え事でずっと後ろの方を歩いている。


「ドゥシャン、どうしたんだろ? 全然追い付いて来ないよ」


「へっ、どうせ彼女のことでも悩んでんじゃねえのか? あいつはあれでいて寂しがり屋だからな」


「あー、うん。それについては俺は強く言えないかな」


 ルフィーナには小さい頃から泣き顔ばかり見せて来た。成人してもそれは変わらずな俺。彼女の前では強がりも、意地張りも通用しない。ルフィーナの前では無力だと感じている。それでも彼女のことが大好きなんだ。


 だからこそ、ドゥシャンが好きな彼女のことを思い悩んでいる姿には、何も言葉をかけられないし、かけるほどの度量は持ち合わせていないんだ。


「悪ぃ~~! やっと追いついたぜ、この野郎!」


 ずっと追い付いて来なかったドゥシャンも、ようやく追いついて来て、俺たちは4人で狭い道を歩き続けている。ミストゥーニは、意図的に霧を出している国と聞いていた。でも、歩いてそんなに経っていないとは言え、霧はしばらく晴れることが無かった。


「しっかし、ミストゥーニって国が他国との境目になっていたとはな。どうりで知らねえ国がたくさんあるはずだぜ。アスティン、それにハヴェル。お前らも初めてなんだよな? なのに、何でそんなに落ち着いてやがんだ? もうちっとこう、あの見習い騎士みたく張り切ってみたらどうよ?」


 ドウシャンが顎で示した位置には、見習い騎士のルプルが物凄く嬉しそうにしながら、先陣をきって歩いていた。彼女は俺の部下でまだ見習い騎士。しかも、色々教えるはずだったのに俺とルフィーナが旅に出てしまったものだから、その後の彼女がどこまで育成されたのかは分かるはずもなかった。


「彼女はジュルツから出たことの無い正真正銘の新人なんだよ? それは張り切ってしまうでしょ。俺も、シャンタルと各地を見て回った時は、浮かれることが多かったわけだし」


「それはアレだろ? 麗しのシャンタル様と一緒だったからだろうが! アスティンのソレは比較にならねえな。なぁ、ハヴェル」


「だな。アスティンは王女様ってもんがありながら、無駄に女にモテすぎなんだよ! そりゃあ、嫉妬もするよな」


「くっ……な、何も言えない。そ、それじゃあハヴィはどうなのさ? ずっと女性には興味が無いとか言ってたくせに、実は密かに想われてたりするんじゃないの?」


 俺は見習い騎士の頃から、ルフィーナやフィアナ様、それにシャンタルとセラたちとも何気なく会えていた。港町で誰かに会った記憶があった気もするけど、それが誰だったのかは今はもう分からない。


 長髪と口が悪すぎるドゥシャンにしても、喧嘩しまくったルカニネと何故か想い合っているみたいだし、残るハヴィに関しては、いつもそういった話を聞いたことが無くて不思議に思っていた。


「俺か? 俺は……約束は守るぜ。だが今は、お前やドゥシャンとバカやってる方が楽しくて仕方ねえ。それに、ジュルツは居心地がいいからな。そこから離れるってのは、中々厳しいんだ」


「約束? 何だ、ハヴィにもそんな人がいるんじゃないか~。てっきり、いないかと思ってたよ」


「別に教えることでもないからな。だが、俺もいい歳になった。だから、今回の旅は俺にとってもけじめになるかもしれねえな。それに、アスティン。俺のけじめは、お前にとっては辛いかもしれねえぜ?」


「え? 何それ……何なの? 言ってる意味が分からないよ」


「いや、俺もそろそろ髭を剃る時が来たんだ。そして、あいつにまた会う時でもあるんだ。今はまだこの時間を楽しみたいだけだ。それだけのことだ」


 ドゥシャン、カンラート、そしてハヴィ。俺の兄騎士たちも、家族というものが出来てしまえば、幼き頃にずっと一緒にいた彼らも、いつも会うことが出来なくなってしまうんだろうか。


 ハヴィの言葉の意味はさっぱり分からなかった。だけど、何となく寂しい感じがした。いつか、みんなと離ればなれになり、騎士としても共にいることが叶わなくなるのだろうか。


 そんなことをハヴィは、俺に伝えているような気がしてならなかった。兄騎士たちと離れる、そんなのは考えたくない。俺のもう一人の兄騎士、イグナーツのように――

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