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35.ルフィーナと妹と騎士


「お義父さま、ロヴィーサお義母さまを残してこられて寂しくないんですの?」


「寂しくないと言えば嘘になりますな。ですが、騎士とヴァルキリーの夫婦は、考え方も想い方も違うのですよ。それはルフィーナ様が一番近くで見ていたのではないですか?」


「カンラートとヴァルティアのことですわね? そう言われればそうですわ! どちらかと言うと、騎士のカンラートの方が甘い、甘える傾向にありますわね」


「うむ。ですから、ヴァルキリーとはそのようなものなのですよ。アスティンは我に似た息子。ということになりますな」


「アルヴォネン様も甘えたい御方なのですね。ふふっ」


 アスティンのお義父様とこうして長くお話をしたことがなかったけれど、話してみると意外にも話しやすくて、それでいて素敵な騎士様だということが分かったわ。


「あ、あの、ルフィーナ様、アルヴォネン様。お話し中に申し訳ございません。わたくしたちは、いつ出発致しますか? アスティンたちが出てから、すでに数時間は経っており……」


 テリディアは真面目なのね。それに別動隊のアスティンたちのことも心配してくれているのね。


「テリディア、分かっていますわ。何もここでくつろいでいるわけではないの。アダリナも言っていたでしょう? 狭い道だから大所帯では通れないし、何も起きないという保証はないって。だからアスティンたちにすぐ追いついてしまうようでは意味がないの。それとも、テリディアはアスティンたちの方に行きたかったのかしら?」


「と、とんでもございませんっ!! わたくしはルフィーナ様のお傍から離れたくありません」


「テリディ、あんた意外に声が大きいぞ。あたしよりも忠誠が高いのは分かったから、落ち着けって」


「も、申し訳ございません」


 セラがなだめるだなんて、珍しいわ。セラが断らなければ彼女がヴァルキリーの筆頭でもあったのよね。そういう意味では、セラがいてくれて助かっているわ。わたしも、彼女たちにも。


 そうなると問題はハズナとルカニネだけになるのかしら。それでも、アルヴォネン様がいてくれて本当に頼もしいし、安心出来るわ。アスティンもお義父さまのように強く凛々しくなって欲しいものね。


「あ、ルフィーナ。彼らを見送って来たよ。あなたたちも、そろそろ行く?」


「そうね、そうしようとも思ったけれど、カンラートが来るのを待つわ。別に急いで行った所で変わらないもの」


「あ、そうなんだ。アスティン……彼と離れ離れになるけどいいの?」


「わたしと彼のパーティを分けた時点で離れるのだから、それは問題なしよ。それよりも、ジュルツへは知らせてくれたのでしょう?」


「ええ、すぐに来てすぐに帰るって興奮気味に返事が来たけど、ルフィーナの騎士だった人だよね?」


 妹から報せが来るとは思っても見なかったでしょうね。それもミストゥーニからだなんて。彼のことだから、急いで馬を駆けて来るでしょうね。仲違いの兄妹……本当の兄妹でもそうなるのね。


 しばらくして、ミストゥーニ付近にジュルツの騎士が到着したことを知ったアダリナが、わたしたちの部屋から離れて、地上へ向かおうとしていた。


「ルフィーナ王女、どちらへ?」


「ふふ、これであの人を驚かそうと思っているの。いいでしょ?」


「……霧に乗じてあなたの大事な騎士をケガさせてはダメだからね」


「もちろんよ! あなたの白地のクロークを借りるわね」


 アダリナと一緒に、わたしもカンラートを出迎える為、地上へ向かうことにした。すぐに帰らせるために、プルデンシアにも付いて来てもらうけれど。


「あの、ルフィーナ様。それは兄へのいたずらなのですか? 私が言うのもなんですが、兄は油断する人なのでほどほどにしていただけると……」


「よく知っているわ。カンラートは油断しても強いから平気よ!」


 喧嘩していても妹は兄を心配するものなのね。その辺をもう少し分かって欲しいものね、カンラートは。


 ミストゥーニ外門付近――


「我が名はジュルツ騎士団長カンラート・エドゥアルト。急ぎ、開門願いたい!」


 誰かが近づくたびに深い霧を発生させる国、ミストゥーニ。たとえ、一度迎えた客でも素直に迎える国では無い為か、再び訪れる客は皆無だった。それもあって、カンラートも若干、焦りを感じていた。


「むぅ、相変わらず面倒な国だ。なぜこの国にあいつがいるのかも分からぬな……むっ!?」


 霧の向こう側へ向けて声を張り上げた騎士に向かって、どこからか弓矢が放たれた。すかさずカンラートは身を翻して、矢を避けた。継続して放たれてくるわけでもない矢の方角を見定めながら、彼は霧が晴れるのを待ち構えていた。


「あらっ? 当たらないわね。てっきり油断しているものだとばかり思っていたのに……」


「むっ!! そこか!」


「ま、まずいわ! 隠れなきゃ」


 隠れる前に辺りの霧は薄くなっていたこともあり、カンラートはクローク姿の者の姿を見つけ、弓を取り上げながら詰め寄って、そのまま相手の動きを封じるために外門の壁に叩きつけた。


「きゃっ!? い、痛いわね!」


「それがミストゥーニの使者の挨拶か! 以前も弓を放ち、我が姫に無礼を働いたばかりではないか! 使者であれば顔を見せよ!」


 むーー! フードを取ろうにも抑えつけられてたら、取れないじゃない! こういう所がカンラートなのよね。


「使者ではなさそうだな。ならば、貴様の顔をこの目で見るまでだ!」


「な、何て言おうかしら。まさか自分の国の騎士、しかもカンラートに襲われるとは思っていなかったわ」


 抑えつけていたカンラートは、クロークのフードを上に上げて、呆気に取られた。


「お、お前……なに、してるのだ。ルフィーナ……いたずらにも限度があるぞ」


「い、いらっしゃい、カンラートお兄様。ご機嫌いかがかしら……」


「はぁーーーー……ルフィーナ、お前、すでにアスティンたちと先へ進んだのでは無かったのか? 何故こんな所にいるのだ。それに俺に矢を放つなど、いたずらを越えているぞ!」


「当たらなかったからいいじゃない! カンラートこそ、このわたくしに向かって抑えつけて動けなくするなんて、ひどいわ! 痛かったのよ!」


「敵だと思ったからだ。その気持ちが分かったか? 全く、お前と言う奴は変わらぬな……痛くしてすまなかった」


「素直なカンラートも好きよ。だから、妹にも素直にね」


「お兄ちゃん……あの」


「俺はいつも素直に……ん? お前、プルデンシアか?」


 同じジュルツに住んでおきながら、会わずに喧嘩していた兄と妹がまさか、他国で出会うなんてね。緊張をほぐしてあげたのだけれど、ほぐれたのかしら。


「うん……あ、の……」


「――早く乗れ」


「あ、うん。そ、それではルフィーナ様、ありがとうございました」


「ええ、ジュルツに戻っても仲良くね」


 カンラートがまたがる馬に乗り、兄の腰に手をしっかりと回して掴まる妹のプルデンシア。その表情は照れながらも、すごく安心しているようにも見えた。


「ルフィーナ王女よ。アルヴォネン殿と、我が騎士たちをよろしく頼むぞ! ジュルツは俺と彼女に任せておけ。あと、お前もくれぐれも怪我をするような真似はするなよ? アスティンが悲しむからな!」


「ええ、分かったわ」


「では行くぞ、プル」


「はい」


 実の妹を後ろに乗せて、馬を駆ける騎士カンラートの姿はやはり格好いい。すぐに霧で見えなくなったけれど、彼が進んだ先をずっと見送り続けてしまった。


「なるほどね、アスティン君よりも好きになっちゃったカンラートかぁ。分かる気がする」


「な、何のことかしらね。さぁ、戻るわよ」


「そうだね、戻ろうか。ルフィーナたちの出発は明日にした方がいいよ。もうすぐ日暮れだし」


「霧で気付かなかったけれど、そうなのね。じゃあ、そうするわ」


 アダリナが言ったことは間違いではないけれど、今はもうアスティンが全て。カンラートとは、実の妹でもないけれど、特別な妹として接してくれているからそれでいいわ。わたしはもう迷わないのだから。

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