34.兄騎士たちと妹騎士
ルフィーナちゃんにあんなことを言わせるなんて、俺もまだまだ未熟ってことなんだな。彼女の想いを心に留めて、俺は進むよ。そしてキミにもっと似合う騎士になってみせる。
「待たせてごめん……って、何してるのアレ?」
「おぉ、アスティン。待ちくたびれていたぜ。俺にもさっぱり分からねえが、どういうわけかハヴェルがもてはやされてやがる。なんか、ムカつくぜ」
「アスさん、大丈夫ですか? というより、わたしが一緒にいて足手まといになりませんか?」
そうか、父さまは見習い騎士の子も連れてきたんだった。それも俺の部下を。ルフィーナと同じように、父さまも俺を試しているってことなのか。それなら俺はこの子も守りながら、行くしかないよね。
「心配ないよ、ルプル。キミは俺やハヴィたちの背中を見て、強くなっていけばいいんだ。同じ騎士なんだから、足手まといになんかならないよ。俺もずっと見習い騎士だったんだからね」
「アスさん。はいっ! わたし、頑張ります」
「俺のヒゲがそんなに珍しいのか? 何も出て来ねえぜ?」
「いえいえ、あなたのヒゲには印があるはずなんですけどね~」
「はぁ? なんだそりゃあ。さっきから人のヒゲを触りまくりやがって、失礼なガキだな」
「ガキとは何です! わたしはこれでも姫ですよ? 王女ではないけれど、あ……あなた、王女に見初められたりしていませんか?」
「王女ぉ? ルフィーナ王女はアスティンのモノだぞ? 俺にそんな王女はいねえな」
「そんなのは分かってます! 私が言いたいのは、ルフィーナ王女以外の王女様と出会ったことがあるのかと聞いているのです。いますよね?」
ルフィーナ王女以外の王女で、ハヴェルが思い付いたのはフィアナ王女だった。フィアナ王女のことだとしても、自分では無くアスティンに好意を寄せていたことを知っているハヴェル。
その時点で自分のことではないと思っていた。ハヴェルのもう一つの記憶の中には、かつてイグナーツ探しに出かける時、双子王女に会ったくらいであると思い出していた。
「まだ若い時に、それこそルフィーナ様がまだ姫様だった時に出会った嬢ちゃん達なら、いることはいるが、それのことか?」
「それです! あなた、ヒゲ騎士は双子王女に出会ったことがあるのでしょ? その時に見初められたはずだわ」
「そうは言われてもな。いちいち覚えてねえぜ、そんな昔のことなんてよ」
「今に分かりますよ。私から言えるのはここまでです……それでは、ジュルツのヒゲ騎士様、ご武運を」
そう言うとミストゥーニの姫は嬉しそうに戻って行った。
「キナ臭いが、一国の姫が他国の騎士を頼るとはな。ルフィーナ様も何を考えて、俺らだけ別動隊にしたのかねえ。アスティンは強いが、それでも何が起こるか分からねえってのに。考えるよりも行動するしかなさそうだな」
「ハヴィ、行こう」
「おぅ!」
アスティンとドゥシャン、見習い騎士。カンラートはここにはいない。それでも懐かしい顔ぶれがここには揃っている。そこにハヴェルの探している彼もいれば違っていただろうと思うハヴェル。
あの頃と同じ4人の騎士。それを知っているのか知らないのか、ルフィーナ王女は粋な事をしてくれる、そう思ったハヴェルだった。
「ハヴィとドゥシャン。それにルプル。嬉しいなぁ。兄騎士と妹騎士で、旅の続きが出来るなんて」
「アスさん、わたしも嬉しいです! あのあの、よろしくお願いしますっ!」
「アス坊、俺は考えることがあるからしばらく話しかけなくていいぜ」
「あ、うん」
あの姫様に何か気になることを言われたのかな。ハヴィが珍しく悩んでいるなんて。まだ国から出たばかりなのに心配しちゃうよ。
「アスティン! ヒゲのことは放って置いていいぜ? 俺と話でもしようぜ。それにしても、ここにカンラートがいねえのは残念なような、ホッとするような……何にしてもたまにはこういうのもいいな! なぁ、アスティン。お前の王女への泣き顔は中々に傑作だったぜ?」
「わ、忘れていいよ。それよりも、ドゥシャンこそ寂しいんじゃないの? 彼女と別々になって」
「まだそんなんじゃねえって言ってんだろうが! ったく、アスティンと違って俺は女々しくねえぜ」
「女々しくなんかないよ! 寂しいものは寂しいってルフィーナにでも訴えておけば良かったんじゃないの?」
「へっ、お前は本当に変わらねえな。王女様絡みだと途端に強くなりやがって。口の減らねえガキ……いや、今は副団長だけどよ。お前が俺らの弟騎士だってことは変わらねえんだ。だから態度は変えるつもりはねえぜ? それでいいんだろ?」
「うん、俺の兄騎士は4人のままで変わらないよ」
「……それならいいんだ」
「俺、早歩きで前を歩いているルプルの面倒を見るから、先に行くね。ドゥシャンもちゃんと、追いついて来てね」
「あぁ、分かった」
4人の兄騎士。ハヴェルとドゥシャン、そしてカンラートには、かつて共に過ごした騎士がいた。弟騎士であるアスティンは、その騎士のことを忘れてはいなかった。口には出さないアスティン。気持ちを押し殺してここまで過ごしてきた弟騎士を、黙って見守るしかないとドゥシャンは思った。
「せめてあいつ、イグナーツの行方さえ分かりゃあな。俺にはあいつが生きてるかどうかさえ分からねえ。どうなるか分からねえが、兄騎士の俺と妹騎士のルプルとハヴェルとでアスティンを支えるしかねえよな。前団長なら何か知ってるかもしれねえが、たとえあいつの行方が分かってもどうなるか分からねえな」
モノローグを修正しました。




