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33.愛の再確認


「アダリナ、決めたわ。だから、発表も兼ねて騎士たちの所に戻りましょ」


「ふぅん……何か、覚悟を決めたっぽいね?」


 わたしと彼が一緒になってから何年も経っていない。だからこそ、彼にもわたしにも確かめてほしい。想い合う心を。


「あっ! ルフィーナちゃん、お帰り! もうー心配したよ。結構長い時間、話し合っていたんだね」


「……アスティン、あなた」


「うん? どうしたの?」


「――んんっ!?」


 夫婦でもさすがに騎士たちの前ではしてこなかった彼への口付けを、わたしからしてしまった。これにはアスティンも意表をつかれて驚きと照れで、何も言えなくなっていた。セラやテリディアも顔を赤くして、顔をそむけていた。


「ど、どどうしたの? う、嬉しいけど、ルフィーナちゃんからこんなこと……」


「アスティンはわたしのことが大好き。わたしもあなたのことが、ものすごく好き」


「うん。大好きだよ」


「ええ、それならきっと大丈夫ね」


 嬉しそうにしつつ驚く彼は、わたしの言った言葉が理解出来ずにキョトンとしていた。


「ジュルツの皆さま、私とルフィーナ王女との話し合いで道が決まりました。今から、彼女が発表することを聞き、各自で準備をされてください」


 今度は数年以上会えないとかではないけれど、会えない時間は確かに存在する。その間、わたしたちは再び想い合うことになる。そして彼もわたしも誰かに好意を向けられ、向けてしまうかもしれない。


 それでも、慕い続けて最後には愛を確かめたい。だからこれは、わたしからあなたへの試練。どうか、わたしを許してね、わたしの愛する旦那様。


「ジュルツの騎士たち、よくお聞きなさい。これより先、未知の土地へ向かうことになります。進む道が分断されているということもあり、騎士たちも二手に分かれて進むことになります。今からわたくしと共に進む者たちの名を呼ぶわ。呼ばれたら、わたくしのもとへ参りなさい」


 これには驚きを隠せずに騒めいているわね。アスティンは当たり前のようにわたしの隣にいるけれど、まさか別の意味で、名を呼ばれることになるなんて思ってないでしょうね。


「アスティン・ラケンリース、あなたも騎士たちの所でお待ちなさい」


「えっ? あ、そ、そうだね」


 またあなたを泣かせることになるのかしら。ごめん……ごめんね、アスティン。


「わたくし、ルフィーナ・ジュルツと共に進む騎士たちは、名を呼ばれたら忠節の印を我が手にお付けなさい」


 ルフィーナ王女。それが自分の奥さんなのだと、アスティンは感動しながら眺めていた。いつもはただのわがまま王女。それでも王女の威厳は別なのだ。彼女が傍にいれば、自分も誇らしく思えると感じたアスティンだった。


「アルヴォネン・ラケンリース、セラフィマ・ニーベル、テリディア・ジュリアート、ルカニネ・ロミン、ハズナ・イニバーゼ。以上がわたくしと共に進む騎士たちになるわ」


「えっ!? あれ、俺は呼ばれなかったよね。な、何で? ルフィーナ! 俺はキミの傍にいるのが当たり前だから、名を呼ばなかった。そうだよね?」


「控えなさい、アスティン」


「え、あ、う……」


「では、別の道より進む騎士たち。アスティン・ラケンリース、ハヴェル・ヴィジュズ、ドゥシャン・スィーン、リプル・ネシエル。以上の4名で準備出来次第、先へお行きなさい」


「そ、そんな。どうしてキミと別れなきゃいけないんだ。俺はキミと離れたくないのに。キミからこんなことを言われるなんて思わなかった。さっきのキスがそういう意味だったの? だから俺を外したの? そんなのってないよ……うぅっ」


 わたしに向かって、泣き声で訴えていたアスティンは、この場に居られなくなったのか、廊下へ出てしまった。だけれどここは厳しく行くわ。許してね、アスティン。


「王女よ。アスティンではなく、我でよいのか?」


「ええ、アルヴォネン様で間違いないわ」


「そうか、ならばよい」


「ルフィーナ様。わたし達ヴァルキリーは、いつでも出発出来ます」


「あたしも行けるぜ!」


「分かったわ。あなたたちはここでお待ちなさい。先に、アスティンたちを見送って来るわ」


「はっ!」


 きっとすごいショックを受けて今頃は泣いているわ。わたしがあなたを見捨てるわけないじゃない。


「いやーさすが、王女だよなぁ。ダンナと言えども、違う道を行かせるなんて流石、我が王女だぜ」

「あれこそジュルツの王って感じだな。まぁ、アス坊。アレはお前への愛情なんだと思うぜ? だからこそ俺らを一緒にしてくれたんだ。だから、いい加減泣き止めって! ドゥシャンだって彼女と別れを告げてだな……」

「彼女じゃねえっての!」


「そ、そうです。あの、アスティンさん。元気出して下さい」


「ルフィーナ……ぐすっ――嫌だよ、どうしてだよ……離れたくないよ。せっかく長い旅から解放されて、婚姻も果たして一緒になれたのに……俺と離れるなんて」


「――アスティン」


「ル、ルフィーナ。俺、オレ……」


「じゃ、じゃあ俺らは先にアダリナ様と行ってっからな」


 予想通りね。想像以上に泣きじゃくっていたわ。やはりあなたにはまだまだ心を鍛えて欲しいって思えるわ。ずっと別れるわけじゃ無いんだから。もっと強くなってよ、あなた。


「俺が嫌になったの? ルフィーナちゃんと一緒になれたのに、それなのにどうしてまた離れなきゃいけないんだよ。そんなの嫌だよ……」


「アスティン、いいこと? これはわたしとあなたの試練なの。いつだってあなたとは恋慕い合っているわ! それは紛れも無い真実よ。でもね、ずっと一緒にいれば周りが見えなくなることもあるの。それを今回のことで、あなたに再確認して欲しいの。だからアスティン。戻って来た時にはもう一度、確かめ合いましょ? あなたなら出来るわ! わたしの愛するアスティンですもの」


「ルフィーナちゃん……わ、分かったよ。俺、頑張るから。いつだってキミのわがままに付き合うから。だから、行ってくるよ。大好きだ、ルフィーナ。好きなんだ」


「……アスティン」


 今生の別れでもないのに、他国の町なかで抱きしめ合うわたしたち。信じているわ、アスティン。


「いいこ、イイ子。だから大好きよ、アスティン」


「は、恥ずかしいよ」


 昔の様に彼の頭を撫でて、彼は照れながら外門に向かって歩いて行く。これでいいわ。そうしないと、わたしもあなたと離れられないもの。


 彼の姿を焼き付けて、先に行かせることにした。だからどうか許してね。アスティン、愛しているわ。

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