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31.霧と心と妹


まさかカンラートの妹だなんて、なんにも予期出来なかった。確かにわたしが王女として接しているのは、騎士たちばかりではあったけれど、王女であっても民の全てを知っているわけではなかったわ。


 それにしても、結局わたしが知り得ている騎士たちがほとんど来てしまった。妹は別だとしても……ってあら? 一人だけ弱そうな子が来ているわ。確かアスティンの部下だったかしら。


「あなた、お名前は? アスティンのお見舞いに来ていたわよね」


「は、はい、わたしは見習い騎士のルプル・ネシエルと言います。あのあの、ごめんなさいっ!」


「あ、謝られること言ったかしら? それにわたしは怒っていないわ。顔をお上げなさい、ルプル」


「すみませんっ!! 王女様、わたしはダメですか?」


 あらら、怯えているのね。こういう弱そうな所を真似しなくてもいいのに。アスティンったら、本当に優しいのね。


「何が駄目だと言うの? あなたはアルヴォネン様に認められてここに来たのでしょう? それなら追い出しもしないし、ダメということはないわ。それに、わたしのことが苦手なのかしら?」


「い、い、いいいえ……」


 苦手だわ。騎士の中でもこんな子がいるだなんて。あの頃の見習いアスティンでも、ここまで弱々しくなかった気がするのだけれど。


「ルフィーナ~!」


 噂をすれば、向こうから戻って来たわ。まさかアスティンのお父様が来るとは思っていなかったでしょうね。これは幼き頃からの約束を果たしてくれたに過ぎないわ。だからこそ来て頂けた。まさに最強の布陣ね。


「ルフィーナ王女様。御久しゅうございまする。我が騎士団から、ルカニネ、ドゥシャン、ルプル。そして、騎士ではございませぬが、カンラートの妹君をお連れした次第にござりまする。この先の国にて必要との事、有難き王命でございまする」


「アルヴォネン様。こちらこそ、幼き頃よりの事をお守り頂けて光栄ですわ」


「あの、ルフィーナ。それに父様に聞いても?」


「何かしら、アスティン」

「ん? 何かあるか」


「幼き頃よりの事ってなに? 俺、知らないんだけど」


「あなたは知らないのでしょうけど、わたしとアルヴォネン様は一度だけ城の外に出たことがあるわ。それもまだ旅に出る前のことよ。教育係のナミュールを見送りする時に外に連れ出して頂いたわ」


「そ、そうなんだ。じゃあ約束もその時の?」


「うむ、そうだ。我とルフィーナ王女とで将来、困った時があったら、いつでもお呼び頂きたいと約束をしていたのだ。それだけのことだ」


 あの頃はそんなに信じていなかったけれど、さすが騎士の上に立つ御方ね。約束を何年以上も覚えておられたなんて。アスティンもいつかこういう感じになって欲しいものだわ。


「ルフィーナ様、アルヴォネン様。もうすぐミストゥーニ付近にございます。しかし、霧が濃すぎて馬が進みません。どうすれば?」


「ルフィーナ様。かの国では、出迎えが来られると言われておいででしたか?」


「そ、そう言われればそれを知る術が無いわ。あの子たちは来ているのかしら?」


「では、プルデンシアの出番であるな。こちらへ参られよ」


「はい」


 騎士では無く、普通の人なのかしら? いえ、こんな霧が深い場所でも物怖じしていないわ。何かの力でもお持ちなのかしらね。カンラートは努力の騎士なのに、妹はそうではないということなの?


「あなた、プルデンシア……プルゥでいいかしら?」


「ええ、構いません」


「プルゥは何者なのかしら? 一体何が出来ると言うの? カンラートの妹なら農民の出ではなくて?」


「その通りです。ですけど、兄と同じくして私も他国に旅立ちしました。それも世界の裏側に」


 故郷を捨てて旅立つなんて、でも考えてみればここにいる騎士のほとんどがそうなのよね。そう考えれば不思議な事では無いことかしら。


「それで、私はとある国で魔術……のようなモノを学び得ました。あくまでもそのようなものです。ですから、魔法は使えません」


 魔法は見たことが無いわね。この広い外世界ではあってもおかしくないけれど、そういう意味ではこの霧も魔術のようなものよね。


「それなら見させて頂けるかしら?」


「はい。ですが、正確にはお見せできません。わたしの術は、目に見えないものです」


 何なのそれは。それなら意味がないじゃない。どうしてそんな方を同行させたと言うの。


「「私の声が聞こえますか? ルフィーナ様」」


「あら? あなた、どこから声を出しているの?」


 目の前のプルゥを見ると、口が閉じられていて目を閉じている。どういうこと?


「「私の声は心の内に呼びかけられるのです。今、ルフィーナ様に聞こえている声は、心の中だけなんです。他の人には聞こえていません」」


「な、何ですって!?」


「ルフィーナ? 何を独り言を言ってるの? 大丈夫?」


「大丈夫よ、アスティン。気にしないで」


「そ、そう。それならいいけど」


「「邪心を振り払い、他人の心を通わせて話すことが出来る力……コミューンを得ました。これならば、霧の中にいる方と会話が可能なのです。大した力でなくてごめんなさい」」


「そうなのね。分かったわ。では、ミストゥーニにいるアダリナに声を届けて頂戴。わたしが来たことを知らせれば、きっとこの霧も晴れるわ」


「「分かりました」」



「姫さん、疲れてるんだな。ぶつぶつと……あたしらが不甲斐無いばかりに」

「王女さま。休ませたい」

「ルフィーナ様……宿でマッサージをして差し上げたい」


 な、何かとても情けをかけられている視線を感じるわ。でもこれで、霧は晴れるはずね。世界って広すぎるわね。そんな力の人がいるだなんて。そういうことなら、いずれ魔法を使える人にも出会えるのかしらね。だからといって、何かが変わるとは限らないのだけれど。ここからが見せ所ね、きっと。

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