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30.王女に従いし者たち


 わたしはあの国に近付いて来ている。あの冷酷非道な王のいる国に。あの国で遭ったことを知るカンラートはこの場にはいない。それを知っているのはわたしだけ。意識しないと言えば嘘になる。それくらい、嫌な場所に近付いている。こんな時カンラートがいてくれたら、きっとわたしは彼の胸に飛び込んでしまう。


「ルフィーナ様、顔色が優れないようですが大丈夫ですか?」


「王女さま、寒いの?」


「姫さん、寒いけどこの辺で暖を取るかい?」


 いけないいけない、皆に気付かれて気遣いをされているわ。あの国に行くわけではないのに駄目ね、わたし。負けた訳でもないのに、あの時の記憶が甦って来そうで嫌。


「セラ、ここは立ち止まりたくないの。霧の国に近付くまでは休まないわ。行きましょ」


「あぁ、分かった。だが、姫さんが無理してると思ったら容赦なく暖を取るからな」


「……えぇ」


 さっきまで自分と話していた時は笑っていて楽しそうだったのに、どうしてしまったのかとアスティンは気になっていた。


 雪原の国といえば、かつて自分の父と模擬試合をしたという場所だということを思い出していた。それだけの為に来たアスティンにとって、レイリィアル国のことは分からなかった。


 ただし、ルフィーナもカンラートもひどいことをされたと聞いていたアスティン。悪い国だということは理解していた。


「おいアスティン、嫁を暖めてやれよ。旦那だろ?」


「そんな無茶言わないでよ。確かに寒いけど、そういうことじゃないと思うんだよ。きっと嫌な思いをしたから気分が悪くなったんだと思うんだ。ここは父さまも長く警戒していた所だから、何となく分かるよ」


「まぁな。俺も色んな国を見て来たが、寒い国の中でもここは閉ざしすぎているんだよ。受け入れるってことを知らないんだろうな。哀しいことだけどよ」


「うん……ルフィーナを安心させることが出来ればいいんだけど」


「お前じゃまだまだ足りないってことか。しっかりしろよ、アスティン!」


「分かってるよ。分かってるけど、そう簡単じゃないよ」


 ルフィーナと一緒にいた時間が長かったのは自分ではなく、カンラート。幼い頃のことではない。


 だからこそ、彼女のことをもっと知らなければいけない。頼られるようにしないと駄目だとアスティンは思っていた。


「ルフィーナ様、間もなく雪原を抜けられます。林の中で休むとしましょう」


「そうね、ありがとうテリディ」


「と、とんでもございません」


 王女ではあるけれど付き従う騎士たちに命じて、その通りに動いてもらおうなんて思っていない。立場だとか、身分の違いで区別するなんてことはしたくないから。


 だからこそ、レイリィアル国の王とは考えそのものが合わな過ぎたんだわ。人に手を上げるなんて最低以外の何者でもないわ。


 いずれ解決……あの国と戦うことになるのかしら。そうならないようにしなければならないわ。



「姫さん、雪原を抜けられたぜ。休むか?」


「そうね、そうしましょう。みんなも足を止めて休んでいいわ」


 まだまだ外に出て時間も期間も経っていないけれど、もうすぐ霧の国に着くのね。あの子たちの言葉通りなら、ジュルツの騎士たちの協力が必要だわ。


「……何か来る。王女さま、ここにいて」


「え? なに、どうしたの?」


 足を止め、林道の傍らでひと息ついていたわたしたち。そんなに時間が経っていない中で、ハズナを始めとして騎士たちの顔つきが警戒に変わっていることに驚いている。


「複数だ。それも相当な実力の持ち主のようだ。ちっ、ここは狭い場所だと言うのに。おい、アスティン! あたしらが王女様の傍に付く。お前とハヴェルとで相手に向かえ」


「分かったよ、セラ。ハヴィは俺の背中を頼むよ」


「任せとけ。お前の背中は俺が預かるぜ!」


「セラ、ハズナ、テリディ……何が来ると言うの?」


「分からないですが、あちらも複数です。それも賊とは違います。ですから、私達がお守致します」


「賊でもないのね。そう、それは変ね……」


 騎士たちはさすがね。わたしはまるで分からないのに、気配とかで分かってしまうなんて。休んでいても意識は他へ向けているってことなのかしらね。


「アスティン、そっちはどうだ?」


「……来ます。すでに剣を抜いて、俺の所へ近付いています」


「なに!? 何てことだよ、こんな威圧感たっぷりな敵がこんな所にいるなんてな」


「――くっ!? お、重い。こ、こんな……」


「……ふ、強くなったと思ったがまだまだだな。油断は命取りだ。たとえ近くにいる者を守りたいと思っていても、目の前の敵に集中していなければ油断は生まれるものだ。そう教えた筈だ。そうだろう、アスティン」


「――えっ? そ、その声は、まさか……」


「どうした、父の声を忘れたか?」


「と、父さまですか!? な、何故、ここに」


 アスティンに剣を向けて来たのは父だった。それも雪原で戦った時の強さじゃない。やはり強さは格段に違うと感じていた。


「そこの髭! 油断してんじゃねえよ」


「なに? その口の悪さ、お前……ドゥシャンか? 何でここにいるんだ」


「ん? 王命に決まってるだろうが! ハヴィでは頼りないと判断されたんじゃねえのか?」


「く、この野郎……」


 王女をお守りしなければならないのに3人の気配を感じていた。その内の一人だけが異常に強い気配。ここはテリディアとハズナに任せるべきなのか、セラは迷った。


「危ない、王女さま!!」


「ちっ、そっちに行きやがったか!?」


「油断は禁物ですよ~? 王女様。お久しぶりです! お元気でしたか?」


「あら? その声、あなたはルカニネなのね? ハズナ、剣を収めて良いわ。味方よ」


 味方だと分かり、アスティンの方に近付いていた気配はあの御方なのだとセラは見抜いていた。


(おいおい姫さん、何て方をお呼びしたんだ。親子を会わせてしまうとはな。さすが面白いことを考える方だな)


「あなたは?」


「は、はいっ、わたしは見習い騎士のルプルです。あの、よろしくお願いします」


「……そうですか。わたくしはテリディア。それで、そこのあなたも見習い騎士なのですか?」


「いいえ、騎士ではありません。私はプルデンシア・エドゥアルト。カンラートの妹です」


「え? 団長様の妹!? で、では、ルフィーナ様とは初めてお会いに?」


「そうです。アルヴォネン様からお声がかかりました」


「ルフィーナ様! こ、こちらへ来て頂けますか?」


 どうしたのかしら。冷静なテリディアが珍しく、取り乱しているわ。見たことのない騎士がいるわね。


「どうかしたの? テリディア」


「あ、あの、こちらの方ですが……その」


「初めまして、ルフィーナ様。兄がお世話になっています。此度の召集におきまして、アルヴォネン様からお声がかかり、こうして参った次第です。どうぞよろしくお願いします」


 いまなんて? 兄? 誰のことかしら。それもどう見ても騎士ではないわ。何が出来る子なの。


「私はエドゥアルトの妹なのです。ルフィーナ様」


「エドゥアルト? え、あ……!? カンラートのことなの!? 妹? そ、そうなのね。あなた、ラットジールにはいなかったわよね?」


「はい。私はルフィーナ様の国に移り住んでございます。騎士ではありませんので、ご存じなかったと思います。何より、兄とは仲違いしたままで会っておりません」


「まぁ! そうなのね。それで、あなたは何が出来るのかしら?」


「この先に待つ場所にて、お見せ致します」


「分かったわ」


 アルヴォネン様だけが来るかと思っていたら、さらにヴァルキリーが来てしまうとは思わなかったわ。それに、カンラートの妹? 騎士ではないのに呼ばれたということは、何かの力があるのね。


 アスティンの言う通り、大所帯になってしまったわ。わたしに付き従う者たち……なんて、安心できるのかしら。

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