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29.ジュルツ城の騒めき


 ルフィーナたちが旅立ってから一カ月以上が経とうとしている。ジュルツは平穏を保っている。だが、俺は胸騒ぎを覚えている。ルフィーナに何かが起ころうとしているのか? それともアスティンに……そう考えれば考えるほど、俺は落ちつけなかった。


「おい、何を慌てふためている。お前は団長だろう? お前が落ち着かなくて誰がこの国を護れる?」


「し、しかし、何かが起こってからでは民にも騎士にも動揺が走るではないか。お前は何故こうも冷静でいられるのだ? もうすぐレイリィアル国付近を通るのだぞ。何かがありそうに思えてならぬ」


「だからどうしたと? 起こっていないことでそうしたことを予期するのは貴様の勝手だ。だが、巻き込むな! 貴様は堂々としていなければいけないはずだ。そうでなければ貴様とは一緒にならなかったぞ」


「わ、分かった。シャンタルが言うならそうなのだろう」


 何故俺がここまで慌てているかと言えば、ルフィーナからの報せが届いたからに他ならない。報せによれば、彼女たちは俺の国ラットジールにたどり着いた後に、ルースリーへと向かっていったらしい。


 問題はそれではなく、港町でミストゥーニの彼女たちと接触し、良くないことを聞かされてルフィーナはむしろ意気込んでしまったらしい。全く、心配ばかりかけさせる。しかし俺はこの城、この国を護りシャンタルの傍にいなければならぬ。どうすればよいのだ。誰があの子……ルフィーナの元に行けばよいのだ。


「王女離れ出来ていないのはカンラート、貴様の方ではないか! 情けない男だ。ルフィーナなら心配ないのだぞ? 今は確固たる意志をお持ちなのだ。それを補佐する騎士たちが傍にいるではないか。何を騒ぐ?」


「で、では、誰を派遣すればよいのだ? 王女の傍に就く騎士は、心が弱くては務まらぬぞ……」


「失礼する!!」


「あ、あなたはアルヴォネン殿ではございませぬか! な、何かあったのでございましょうか?」


「カンラートよ、お主は団長だ。そのこと、忘れておらぬであろうな?」


「勿論にござりまする」


「では、聞け。ジュルツは強固な騎士でもっている国だ。上に立つ者が焦りを見せていては、下の者は不安を覚え、弱さをさらけ出してしまうぞ。それとも、我の見立ては誤りであったか?」


 そ、そうか。アルヴォネン殿は俺のことを言っているのだな。俺は何をしているのだ。シャンタルだけでなく、アルヴォネン殿にまで伝えてしまっているではないか。気を入れねばならぬな。


「いえ、問題なきことにござりまする。ご足労をおかけして申し訳ございませぬ」


「アルヴォネン様、して、城へは何用で来られたのですか? カンラートへの叱咤が目的ではないのでしょう?」


「うむ。シャンタルよ、我が王女ルフィーナの報せを聞いたのだが……」


「……盟約を発動されるのですね? 我が妹のこと、よろしくお願い致します」


「そういうことだ。我と数人の騎士、見習い騎士と共に発つ。国の守りは団長に任せる。頼むぞ」


「はい、アルヴォネン様もお気を付けて」

「はっ! お任せを」


「ではな」


 ルフィーナのわがままが、早くも偉大な御方を動かした。あの頃に約束をしていたのを確実に守られるアルヴォネンにはさすがとしか思えなかったシャンタル。


 かつて幼き姫に名を聞かれた時は驚いたシャンタルだったが、それで良かったと今は思えた。そして早く子を育てて、復帰しなければならない。カンラートでは頼りない、そう思いながら。




「……以上が、王命である。各々準備をし、出立に備えよ」


「ははっ! 直ぐに」

「かしこまりました、急ぎ装備を整えまする」

「わ、分かりました」

「は、はい」


「うむ」


「あ、あの、わたし……まだ見習い騎士なのです。わたしもお供してよろしいのですか? まだ騎士として強くも無いのに」


「ふ、お前はアスティンを慕っている騎士であろう? ならば何も問題ない。あやつも見習い騎士であった期間が長かったぞ。もちろん、強くは無かった。だが、成長を遂げたのだ。あやつを慕うのであらば、信じて進むがよい。あやつを想うのならばな」


「はいっ! そ、それでは、見習い騎士ルプル・ネシエル。出立の準備を致します! 失礼します」


(ルフィーナ様、かつてのお約束を果たしに参ります。我が息子の騎士ぶりを近くで見られることの機会を頂き、光栄にござります)




 ルフィーナたちは数日ほど滞在した、ルースリーを後にした。ジュルツの騎士だった者が、一国の王妃となっていたのは驚いたものの、それも彼女の運命だったということを認めていた。


 国は違っても想いが違うことはないはず。少なくとも、ヴァルティア配下だった騎士は、そんなにやわでは無いはずだから。


「ルフィーナ~ちょっといい?」


「なぁに? アスティン」


「この先の雪原は通り過ぎるのは分かっているけど、その先って霧の国だよね? ジュルツから騎士を召集しているんだよね?」


「あら、気になるの?」


「そ、そりゃあそうだよ。だってここには俺もハヴィもいるし、セラもいるし、ヴァルキリーがふたりもいるんだよ? そこから更に騎士を呼んだら大所帯になっちゃうよ」


「それが心配なのね? 誰が来るとかは気にしていないのね?」


「え? う、うん。騎士は沢山いるけど、騎士団は大きいから誰が来るかなんて問題じゃないよ」


 アスティンの近しい騎士を密かに呼んであるルフィーナ。彼がそのことを気にしていないのならきっと大丈夫と思っていた。


 この先の未知な国では、アスティンとも離れる時間が必ずある。だからこそアスティンには落ち着いて欲しいと願っていた。


「それならいいわ。ミストゥーニに近付くとどの道、進めないわ。近付いてから、騎士達の到着を待ちましょ。アスティンが驚くような騎士を呼んであるわ。うふふっ、楽しみね」

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