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28.邂逅の城塞国


「ルフィーナ! アスティン!! 無事か!? 目を覚ましてくれ!!」


「王女さま、大丈夫?」


 んんん? 何か悲鳴に似た声がわたしたちを呼んでいるわ。一体、何事なのかしら? アスティン、アスティンもなにかあったというの?


「――んん、何かしら? あら?」


 アスティンと昔のことを話していたはずなのに、いつの間にか眠っていたのね。ふふっ、アスティンの寝顔が可愛いわ。口づけして起こしてあげなきゃ。


「……んー? ルフィーナちゃん、くすぐったいよ~」


「旦那様、起きて。あなた、起きる時間よ。さぁ、起きなさい! アスティン!!」


「ん? あれっ!? ルフィーナちゃん?」


「おいおい、あたしらが心配で探していたのに、お前と姫さんはふたりで眠っていたのかよ。それも、どうしてふたりで落とし穴に落ちていたのかをご説明願いたいね」


「まさか、王女様にお怪我を……? 騎士、覚悟をしろ」


「まぁまぁ、嬢ちゃん。アス坊は悪じゃないぜ? ちょっとばかしドジで優しすぎるだけだ。あいつにそっくりだ……」


「アス坊?」


「ルフィーナ様、さぁ、わたくしにお掴まりくださいませ」


 わたしはテリディアに掴まって、地上へ出られた。アスティンは髭騎士に掴まり、引き上げられた。長い事、昔のことを思い出していたけれどいつの間にか眠っていたのね。アスティンもきっと思い出したことでもあったのね。穴に落ちてしまったのに、何だかとても穏やかな表情ですもの。


「さて、姫さん。あたしらは無事に畑を耕し終えたぜ! もうこの国から出るかい? それとも、まだいたいかい?」


「ううん、この国には長くいても意味がないわ。あの人が一緒でなければ意味がないもの……行きましょう、城塞の国ルースリーへ」


「ははー! 王女様に従いまする」


 昔のことや過去のことは時々思い出せばいいのだわ。そうしたらまた、良き思い出と想いが心に問いかけて来るはずだもの。




「ハヴェル、さっき俺のことをアス坊って呼んでたけど懐かしいね。俺もハヴィと呼んでいい?」


「おっ! いいねぇ。俺はさすがにアスティンと呼ぶけどな」


「本当に懐かしいよね。思えば、ハヴィが俺にとって最初の兄騎士だったんだよね。それに、ドゥシャンとカンラート。みんなに可愛がられながら、俺もいつの間にか騎士になれて出会っていなければこうはなっていなかったなぁ」


「……もう一人いただろ」


「分かってるよ、ハヴィ。忘れるはずがないよ。でも、もう会えないんだ。そうでしょ?」


 イグナーツ。兄騎士の中の4人目。戦地に赴いたまま、帰らぬ人となったことを父から聞かされていたアスティン。


 こうして彼が外へと旅立てば、どこかで会えると信じていた。それなのに、そんなことを知ってしまった彼は、記憶から閉じ込めていたのかもしれない。


「……その、どんな形でも会えたら会いたいか?」


「――会えるならどんなでも会いたいよ」


「そうか。そういう想いを持っているならいいんだ。アスティン、この旅は長い。その時が来たら話そう」


「……うん」




「そこの騎士たちー! 何をこそこそお話しているのかしら? 髭騎士さん、あまりウチの旦那様に悪いことを教えないで下さる?」


「教えてないぜ? はははっ! 姫様、いや、幼き頃から変わらないな」


「そ、そうだよ。ルフィーナ。ハヴィは俺の兄貴なんだよ? そんなことを言う筈がないよ」


「ふぅん? ハヴィ? あら、可愛いのね。わたしもそう呼んでいいかしら?」


「光栄に思いますよ、ルフィーナ様。貴女様になら呼ばれても構いません」


「そうするわ。それにしても、カンラートと同い年なのでしょう? 素顔を見せればそこのテリディが惚れてしまうかもしれないのよ? どうして髭を剃らないのかしらね」


「はっはっは! 俺のポリシーなのでね。それにカンラートは俺の二つ下だぜ? あいつよりも俺の方が上なのだよ」


「まぁ! そうなのね。今は31で合ってるかしら? 十分お若いわ。いつか貴方の素顔を見せてね」


「左様にござりまする。素顔はお望みとあらばいつかお見せ致しましょう」


 確かカンラートとはわたしと8も離れているのよね。出会った頃は13と21……もうそんなに経っているのね。あの時の彼の年齢になってしまったわ。それでもあの頃よりも、彼はますます騎士らしいと言えばそうなのだけれど。アスティンもその年になればそうなるのかしらね。


「ルフィーナ様、間もなく国内に入ります。こちらからの書状はすでに届いているものと思われますが、そのまま城へ向かわれますか?」


「ええ、真っ直ぐに向かうわ。わたしを待っている。待たせては失礼になるわ。セラもそうでしょう?」


「はい。あいつは口うるさいですから、すぐに向かわねばなりません」


 ルースリー城――


「ジュルツ国王女、ルフィーナ・ジュルツですわ」


「おぉ! 美しさは変わらずですね。お久しぶりでございます、ルフィーナ様」


「世辞は無用ですわ。ヘンリーク王子、いえ陛下かしらね?」


「いえ、本音でございますよ。おっと、そうでした。王子が会いたがっておりました。お呼びしましょう」


 いかにも趣味の悪そうな玉座に座っているヘンリーク陛下。口の軽さは直っていなかった。


「ルフィーナ様。クリストフェルです。私のことは覚えていますか?」


「まぁ! あなたがクリストフェル? 素敵になられたのね。ふふっ、あれからもいたずらには磨きがかかったのかしら?」


「はい、あなたの愛弟子ですから」


「嬉しいことを言ってくれるのね。ありがとう、王子」


 ルースリーへ訪れたのは、全ての国に寄ることだからだけれど、わたしにはもう一つの目的があった。わたしにはあまり接点がなかったけれど、アスティンとそしてセラにはどうしても会いたい人がいる。それが一番の目的かもしれない。


「さて、彼女にお会いになられますか?」


「ええ」


「クリストフェル、王妃を呼んでくれないか」


「はい、陛下」


 王妃? 確かにそう言ったわ。まさか、本当に?


「ジュルツの皆様、懐かしきことにございますわ。わたくしは、ルースリー陛下の妃でもある、ユディタ王妃。ようこそ、お越しいただきました」


「は? おいおい、ユディタ。お前、何の冗談だ? 王妃だぁ?」


「ふふっ、セラフィマ。久しいわね。お元気だったかしら?」


「なっ!? マ、マジなのか……」


「ユディタ、えっと、元気だった?」


「アスティンも。よかった、ルフィーナ様にお会い出来たのね」


「う、うん」


「コホン、えー、簡潔にお話致しますと、私ヘンリークは騎士ユディタの優しさに惚れこみまして、求婚をしながらこの国に引き留めておりました。彼女も諾をしてくれまして、それで一緒になったわけでして」


「あなたが騎士ユディタですのね? いえ、元騎士かしら。その節は、我が姉シャンタルと我が騎士アスティン、そしてセラフィマによくして頂いて身に余る思いですわ。その想いをどうか、大切に持ち続けて陛下に尽くし続けていかれることをわたくしは望みますわ」


「ルフィーナ様、あの……お許し頂けるのですか?」


「あら? わたくしはむしろ応援しているわ。特にここの陛下はキザで軽くて信用に足りない御方なの。誰かが傍にいてあげないとダメダメな御方なの。あなた、ユディタは存分に尽くしなさい」


「ルフィーナ様はキツイねぇ。アスティン、キミの姫様は変わらずの輝きを放っておいでだ。そこがいいのかい?」


「いや、はは……」


「ふむ、何日かはいられるのだろうし、城下町で酒でも飲もうか」


「そうですね」


 セラの気持ちはどうなのかしら。同じようにヴァルティアに就いていた騎士が、任務を棄てて他国に嫁ぐなんて。


「では、わたくしたちは失礼するわ」


「では後ほど、うかがいます」


 王の間に長居しては失礼に当たる。わたしたちは、すぐに場を離れて部屋を出て行く。彼女たちだけがその場に残っていたのを、わたしやアスティンも知りながら後にした。




「何故だ? 何故あたしに黙って離れた?」


「セラはルフィーナ様に仕えることが決まっていた騎士だわ。でも私はそうではなかった。そうなったら、騎士を続けてジュルツにいても、仕方のないことだわ!」


「だが、シャンタル様は深く悲しんでおられたぞ! お前は身勝手にしすぎたのだ。そのこと自覚しているか?」


「……そ、それは」


 セラは目の前のユディタに手をあげていた。王妃だとか関係なしに。ずっと一緒に組んできた騎士。だからこその気持ちだった。


「――っ!?」


「それはあたしの気持ちだ。その痛みは今後も忘れないでおけ。あたしの相方は、強くて世話焼きでそれでいて友達思いの女だ。そうだろ?」


「そうね、そうする。あなたに言わずに離れてごめん。ありがとう、セラ」


「まっ、元気そうで良かったよ」


「ふふっ、セラもね。ルフィーナ様に仕えて良かったのでしょう?」


「まぁな! あの方の傍にいることがあたしの幸せだからな。お前も今の幸せを逃すんじゃねえぞ? 約束だ、ユディタ」


「そうね、約束しましょ。セラ」

 

 セラとユディタはお互いにヴァルキリーになり損ねた騎士。それでも互いが切磋琢磨していた仲だった。今は進む道が違うが、それでよかったと思えたセラ。


 これでまた彼女自身もルフィーナに尽くして行ける。それがセラフィマ・ニーベルの生きる力なんだと思いながら。

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