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27.兄騎士たちの奮闘記


「騎士ドゥシャン、お主には護衛を命ずる。王女をこれへ」


「お、王女を!?」


「あなたがドゥシャン様ですね。アスティンくんの兄騎士様と聞いておりますわ。此度の護衛では、そのお話をお聞かせ下さいませ」


 数日が経ち、彼だけが再び国王陛下に呼ばれて王の間に来ていた。王女の護衛としてとある国まで就くことになったのだった。彼は驚いていた。まさか目の前のお方が王女だったということに。


 王と近衛騎士でしか知らされなかったことだった。


「俺が……いえ、わたくしめが貴女様の護衛でよろしいのですか? 他にも騎士が……」


「いいえ、他の方では心許ないのです。アスティンの兄騎士様ということを聞いておりましたので、あなたに護衛して頂きたいのです」


「と、とんでもないことにござりまする。で、では、このドゥシャン。貴女様を御国へとお送り致しまする」


「ええ、お願い致します」


「では、騎士ドゥシャン。しかと頼む」


「ははー!」


 騎士宿舎――


「アルヴォネン団長殿、ささ、酒をお飲み下され」


「む。どうした、ハヴィ。何用か?」


「いえいえ、何用でもございません。時に、アス坊はお元気でございましょうか?」


「あぁ、アレについては心配はしていない。もうじき彼女が到着するからな」


「はい? 彼女? アス坊に何か関係がおありで?」


「うむ。奴はもうすぐ騎士の試練へ立ち向かわねばならぬ。それには奴の心を鍛えてもらわねばならぬ必要があるのだ。彼女ならきっと奴を強くしてくれるであろう」


「すると、アス坊に同行するのはその彼女ってことですかい?」


「ああ、そうだ。ハヴィが行きたかったのか? そうか、すまぬな」


 兄騎士の中でハヴェルだけが取り残されていたことの理由に、自分の髭が関係しているのではないかと考えてしまう彼。団長を呼び出し、酒を勧めたハヴェルは殊の外、落胆していた。


「い、いや、では俺は城の騎士として居残るので?」


「……いや、ハヴィには内密な任務がある。だからこそ、他の兄騎士とは距離を置いたのだ。それを聞く覚悟があるか?」


「アス坊……アスティンに関係があるということですか?」


「ハヴィよ、あの優しき騎士のことを覚えているか?」


「忘れるはずもありません。あいつが何か? 話では確か、帰らぬ人と伝え聞いておりますが」


「ハヴィ、いや騎士ハヴェル。お前には極秘に動いてもらいたい。期間はアスティンがいつか騎士として、外に出るまでに見つけてほしいのだ。頼まれてくれるか?」


「……では帰らぬ人というのは偽りでございますか?」


「ああそうだ。いや、ジュルツに帰れないという意味では正しいか。アレは生きている。だが、不明なのだ。そやつを見つけだして欲しい。やれるか?」


「それがアスティンの為になるのならばやりましょう。もし、見つけた場合、将来まで隠しておく。それで合っていますか?」


「頼むぞ」


「かしこまりました。では、この髭をさらに伸ばして表情を隠し通すとしましょう」


「……ふ。お前の髭がこうも役立つとはな。その長い髭を失くす時はその時ということになるか」


 ハヴェルの髭はジュルツの騎士はおろか、恐らくどの国を探してもいない。騎士は素顔をさらけ出すものである。彼のポリシーでもあった髭は、思わぬ形で伸ばし続けることとなる。髭で表情を隠す。これが後に、王命でのことだとは誰も知る由も無かった。


「しかし居残りだと思っていたが、俺にこんな任務が与えられるとは思わなかったな。俺もアスティンも気にすることは無かったと言うのに。もう一人の兄騎士イグナーツを見つけだし、いつかアス坊に会わせるのが俺の役目になるとはな。アスティンを悲しませるんじゃねえぞ、イグナーツよ」


 カンラートはもうすぐ何も知らない姫様の元へ行くことになる。幾多の国の王女や、姫に会って来た彼だったが、まだ小さき姫の前に出ることに緊張をすることになるとは、さすがに思っていなかったカンラートだった。


 宿舎に残し忘れた荷物を取りに戻ったカンラート。すると向こうから、彼女が向かって来ているのに気付く。久しく会っていない。随分と魅力ある女となったものだ。そう思い、声をかけたカンラート。 


「シャンタ……」


「無用。貴様にかける言葉はない」


 そういう女だった。恐らく、重要な任務に就くのだろう。だから戻って来たと悟ったカンラート。姫を守護するカンラート。彼女は誰を守るというのか、去って行く彼女の後ろ姿を眺めながら気になったカンラートだった。


「騎士カンラート、前へ」


「は、私めはカンラートにござりまする。ルフィーナ姫様、どうぞよろしくお願い致しまする」


「だ、誰? ア、アスティンはどこ?」


 出会った瞬間に分かったカンラート。小さく可憐な姫が、自分の姫様になるのだと。そして彼は目の前の小さき姫に心を奪われていた。彼が想い続ける彼女への想いと同様に。


 カンラートとルフィーナ姫との長き旅が始まろうとしていた。彼の想いは姫に知られてはいけないものだった。だからこそ、彼は騎士カンラートという壁を幾重にも巡らせて、しばらく心を開くことはしなかった。


 そして後々に聞かされるのは、彼女であるシャンタルも彼と時を同じくして、アスティンに就くと。彼女も自分と同様に、想いを馳せる乙女となりうるやもしれない、カンラートはそう思っていた。


 互いを想い合う心を持ち続けていればいつの日か、成就するという日がやって来るだろう。その日を待つ。それが想い合うということなのだと、カンラートは心に留めていた。

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