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26.渦巻の思惑


「ここはやはり俺が行くしかないだろう!」


「いや、俺だろ! 髭面の騎士なぞを姫様にさらしたら、絶対に剃られてしまうにちげえねえ」


「お前だって後ろ姿だけで騙そうとしてるのがバレバレじゃねえか! ドゥシャン!」


「なんだ、何の騒ぎだ!」


「おっ、カンラートじゃねえか! いや、副団長殿とお呼びするべきか!?」


 私は陛下と団長殿に任命され、騎士団の副団長となった。それもあって、宿舎で時を過ごすことは少なくなっていた。アスティンとも会えなくなっていたが、彼は見習い騎士として直々に団長殿に教えを受けていることを知った。お父君でもあり、団長殿からの指導であれば間違いないだろう。


「なぁ、カンラートはどう思う?」


「何の話だ?」


「姫様のことだよ。どうやら近いうちに姫様は、王女となるための外交旅に出られるらしいぞ。それでな、姫様の傍に就く騎士を陛下が探しているらしいぜ?」


「その役目は俺がいいと思うんだが、カンラートは俺とドゥシャンとどっちが相応しいと思う?」


「む? むむ……難しいな、それは」


 教育係のナミュールが部屋に閉じ込められていた時に、探すつもりだったが会えずじまいだな。アスティンにいたずらをしている姫様か。あの頃より、少しは成長をされたのだろうか。


「ん? お前、盾はどうした?」


「あ、あぁ、実はな……アスティンに少しでも盾の重要性を教えてやるつもりで貸していたのだが、野菜や果物の皮が盾にこびりついていてな……あいつはまだ騎士の盾の使い方が分かっていないようだ」


「アス坊か。おぉ、そう言えばアス坊も試練の旅に出ると聞いたぞ。そしたら誰が行く?」


「それなら俺だろ! あいつは見込みがあるぜ? カンラートは甘えがあるだろうし、ハヴェルは遊びしか教えないから向いてないな」


 まったく、こやつらは気楽に考えるのだな。姫様を守護するということは、覚悟が必要だと言うのに。それにアスティンは優しすぎるからな。かくいう俺もだが、陛下のお心はどうなのだろうな。



 僕はまたしても、ルフィーナにいたずらをされてしまった。カンラートから借りることが出来た憧れの盾だったのに、彼女に少しだけ貸してあげたら野菜や果物を切るためのまな板代わりに使われてしまった。僕はカンラートに会うのが怖くて、こっそりと返すしかなかった。


 怒られるのは目に見えてて、それが嫌で僕はまたフィアナお姉さんのお部屋に来ていた。


「僕はどうしてこんなにも、ルフィーナにいたずらをされるんだろ」


「アスティンくんはあの子が嫌?」


「ううん、好き。だけど、いたずらばかりしてくるんだ。お姉さん、僕はどうすればいいの?」


「あの子はね、素直じゃないの。特にアスティンくんには素直になれないの。キミと会うたびにあの子はとってもイキイキしていてね、その度にわたしの前を行ったり来たりしていつもそわそわしているわ」


「じゃあルフィーナは、僕と会うのを楽しみにしてるの?」


「そうよ。キミがいつお城に来るのかをドキドキしながら待っているの。あの子は確かにいたずらが過ぎるのだけれど、アスティンくんって怒らないでしょう? いつも優しいキミにきっと甘えているのよ。だからどうか、許してあげてね」


 フィアナお姉さんはすごく優しい。ルフィーナにいたずらをされた後、僕はすぐにお姉さんに泣きついていた。嫌な顔をすることなくいつも僕に優しい言葉をかけてくれる。でも時折寂しそうな表情をする時があって、その度に僕はしっかりしなくちゃって気になるんだ。


「アスティンくん、あの子のことをずっと守ってあげてね。私は傍にいてあげられないの」


「えっ? う、うん。僕、ルフィーナとずっと一緒にいるよ!」


 お姉さんに頼まれたら絶対、守らなきゃだめだよね。僕はルフィーナをずっと守るよ。



「ハヴェル、ドゥシャン、陛下がお呼びだ! 王の間へ向かうぞ。急げ!」


「おっ! 姫様の騎士のことだな? 望むところだぜ! ドゥシャンでは品性が無さすぎるからな」


「俺だよな? なぁ、カンラート。ハヴェルじゃ無理だろ。髭のある騎士が歩けるのは国内だけだ」


「い、いや、まるで分からぬ。ともかく、急ごう」


 俺とハヴェル、ドゥシャンの3人は城から声が掛かり、国王陛下に拝謁をすることになった。王の間にいるのは、俺たち騎士と王妃様だけだった。主役の姫様には旅のことはおろか、同行の守護騎士についても最後まで明かさないお心のようだ。


 国王陛下のお言葉があるまで、俺たちは顔を上げずに跪いたまま、王の命じを待つしかないようだ。


「ジュルツの騎士たちよ、何故呼ばれたかすでに承知だと思うが、我が娘にして姫であるルフィーナの守護騎士についてのことである。知っての通り、我が姫はいずれジュルツの王女となる。それ故、守護騎士と共に、外の国を回ってもらう旅を命じようと思う。姫はこのことをまだ知らぬ。知った日に守護騎士も知るということになるだろう」


 それが陛下のお心か。その日で無ければ知らされないと言うのも、姫様にとっては厳しいだろうな。


「では、名を呼ばれた騎士は我が前にて誓いを立てよ。我が姫に尽くすことを約束し、王妃へ心を示せ」


 いよいよか。アスティンの試練も気になるが、俺はアスティンの婚約者である姫様に会ったことが無い。どんな子なのか、ずっと気になっていた。直接的ではないが、ハヴェルは幼き頃の姫様を間近で見たことがあるらしい。ドゥシャンも城の警護中に何度か見ているようだが、俺だけが無かった。


 いたずらが大好きでいつも、アスティンを泣かせては無邪気な笑顔を見せているらしい姫様は、どんな子なのだろうな。接点の無い姫様の守護騎士になることが出来たら、この命を閉ざすまでお守りしたい。


「……ト。聞こえぬか? 副団長、カンラート!」


「も、申し訳ございませぬ。陛下、私めをお呼びでございまするか?」


「二度は言わぬ。王妃ビーネアに誓いを立てよ」


 む? まるで聞こえていなかった。王妃様に誓い……さて、それはどういうことなのだ?


「(おい、カンラート。お前が守護騎士だ。早く王妃様の前で跪け)」


 なんと!? お、俺が命ぜられていたのか。そ、そうか、良かった。姫様に会えるのは俺か。


「王妃様、騎士カンラート・エドゥアルトは、この身を我が姫君ルフィーナ様に捧げることを誓いまする」


「カンラート。我が娘は世を知らぬ子供。大人であるあなたが全てを教え、王女へ導きなさい」


「ははっ! 我がルフィーナ様を導くことを仰せつかりましてございまする!」


「頼みましたよ」


 そうか、俺がルフィーナ様と旅か。ずっと会いたかった姫君に、これからはずっとお供をすることになるのだな。アスティンの婚約者だから丁重に扱わねばならぬ。騎士として言葉遣いからお見せしていくことにしなければな。


「さて、我がルフィーナと同様に見習い騎士アスティンの試練にも、騎士を付けることにしている。それについては、騎士団長のアルヴォネンに一任をしておる。おって、沙汰が下るだろう。話しは以上だ」


「はは! 失礼致しまする!」


 姫君の守護騎士に決まった俺と、声のかからなかった2人と共に王の間を後にしようとすると、ドゥシャンにもお声がかかったようだ。


「騎士ドゥシャン。お主にも後日の内に、王命を下す。沙汰を待ち、過ごすがよい」


「は。分かりましてございまする」




「何だ、俺だけがお留守番か? つまんねえな。こうなればアスティンの試練に決まることを祈って、団長殿にこびへつらってみるしかないか」


「ハヴェルにも機会は訪れるはずだ。腐らずに、まずは髭を剃れ! そうすれば声がかかるだろう」


「カンラートは姫様だからいいだろうが! それにドゥシャンも何かの王命が下るだろ? 髭がダメなのか? しかしこれだけはいかに陛下でもなー」


 姫様だからいい、か。どうなるかそれは俺にも分からぬ。会ってみなければ分からぬことだ。ルフィーナ姫は、俺の姫に似た御方なのだろうか。ヴァルキリーと呼ばれる彼女に似ていなければ良いのだが。

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