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わがまま王女と駆けだし騎士の純愛譚  作者: 遥風 かずら
迷いと戸惑いの新たな始まり
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2.アスティンと少女


 ルフィーナのわがままっぷりはアスティンと一緒になってからますます磨かれていた。そのわがままは誰に対しても迷惑をかけるものではなく、彼とカンラートくらいにしか言わないものだった。


 それはつまり、好きな人限定へのわがままでもあるということを意味していた。いたずらは以前よりはしなくなったが完全にしなくなったわけではない。ただどちらかと言うとわがままな方が可愛く、許せてしまうものだとアスティンは思っていた。


「いくら忙しいと言っても、隣国への挨拶はさすがに王女が行くべきなんだよなぁ。今すぐの話じゃないからいいけど」


 そんなことを考えながら、アスティンは直属の配下騎士である新人のルプル、ハヴェルとで城下町を見回っている。彼の配下騎士は全部で6人いるものの、自分自身が駆けだし副団長であることから、面倒を見れる人数に留まっているのが現状だった。


「おぅ、アスティン! 調子はどうよ? いや、副団長殿と呼んだ方がいいよな」


「ハヴェルの方が先輩でしょ。いつものままでいいですよ」


「あ、あの、副団長。城下町は安全ですか?」


「んん? うん、そりゃあね。ジュルツは騎士がきちんと守っている国だからね。普通に歩くだけなら怖いことはないよ。怖いですか? ルプル」


「わたしまだ地理を分かってなくて、でも覚えていくのでご指導お願いします!」


「うん、頑張って」


 騎士らしくない髭を生やした騎士ハヴェル。年齢はアスティンよりも全然上の先輩である。それでも、彼が見習いの時より世話になっていた頃からの仲ということもあり、親し気に話が出来る騎士でもあった。


 一方、新人のルプルは従士を経て見習いになり、最近になって騎士となった女の子。まだ剣も盾も覚えてないことから、上官であるアスティンがこれから教えていく感じなのである。


 アスティンもかつて見習い騎士の頃、色んな先輩騎士に付いていた。それだけに苦労は何となく分かっており、副団長になったからといってすぐには、カンラートのような騎士になれるわけではなく彼自身もまだまだだと感じていた。


「アスティン! 町中が何か騒がしいぜ? 様子を見に行くか」


「そうですね、行きましょう! ルプルも」


「は、はいっ」


「ふざけるな! コレはアタシが買ったものだ。一度買ったモノを返す義理はナイ!」


 随分と口調が荒っぽい気がしていたものの、ガラの悪そうな人だったらどうすればいいんだろうかと慌てふためくアスティン。こういうことはハヴェルに任せるか、あるいは部下に手本を見せてやるべきかどうかを迷っていた。悩みながら騒ぎの場所に目を見やると、そこには驚きの光景があった。


「へ? お、女の子!? し、しかもまだ……子供?」


「おいおい、荒っぽい子供だな。どうしたってんだ? そこの人、どうした?」


「は、はぁ……女の子がウチから短剣を買ったのですが、声だけで判断して売ったもののまさか子供だとは思わずに。それで返品をしてもらおうかと……」


 声だけ聞けば低音で大人っぽい。しかし彼の目からは、どう見ても子供に見えていた。さすがに武器を買うには早い気がすると思ったアスティンは、優しい口調で声をかけていた。


「えっと、こんにちは。アスティンっていうんだけど、キ、キミにはまだ武器なんて必要ないんじゃないかなぁ?」


「何だキサマ?」


「あ、あのね、その刃先が短いモノは武器と言って、人を傷つけてしまうものなんだ。だから、危ないモノなんだよ。まだキミには必要のないモノで……」


「どけ!!」


「あっ!? 行ってしまった……説得も出来ないとは参ったなぁ」


「アスティン、逃がしちまったけど、平気じゃねえかな? どう見ても子供だったし、町中で何かしそうには見えなかったしよ。まぁ、気にすんなよ!」


「そ、そうですよ! 副団長にだって出来ないことはありますよ!」


「いやーはは……子供相手かぁ。ルフィーナのようには行かないなぁ」


 女の子相手は得意ではない。アスティンは素直にそう思った。それでもルフィーナはあんなに怖くなく、言葉だってキツくはなかった。それだけに騎士として一番難しい仕事なのかもしれないと感じていた。


「よし、城に戻ろう!」


Audience Chamber――


「失礼致します! アスティン・ラケンリース、戻りましてございまする」


「お! 城下町の様子はどうだった? アスティン」


「カンラート! いやぁ、それがその……女の子がキツくて大変だったよ」


「副団長殿は中々に大変そうだな。部下にも示しがつかなくなるしな! あぁ、女の子と言えばな……」


「え、あっ! ヴァルティア! 体調はどう?」


「アスティンか。うん、悪くはないぞ……ん? 気になるか?」


 ヴァルティアが抱いている子の小さな手、小さな顔の女の子がアスティンに微笑みかけている気がして、思わず彼は照れを見せていた。


「私に似て良かっただろ? カンラートのような奴に似なくて本当に助かったぞ」


「お、お前、それは無いだろ」


「あはは……そ、その辺で。またカンラートが泣いてしまうし」


「アスティン、こっちへ来て!」


「あ、うん。今すぐに行くよ」


「ん? あぁ、行って来い。気にするな」


 アスティンはヴァルティアとカンラートに軽く頭を下げ、ルフィーナのいる部屋に向かった。かつて可愛がっていたアスティンに優しく微笑みながら、ヴァルティアは団長であり夫でもあるカンラートに彼のことを率直に問いてみた。


「アスティンは、やっていけそうか? 団長から見てどうなんだ」


「あぁ。まだ分からぬが、初めての配下騎士を得たのだ。だからこそ、余計に張り切っているのは確認出来ている。だが、まだまだ駆け出しなのだ。長い目で見るしかなかろう」


「ふっ、そうか」


 ルフィーナの部屋――


「な、何かな、ルフィーナ」


「あのね、アスティンに次のヴァルキリーの子と戦って欲しいの。候補となる子がすごいの! 9歳の女の子なんだって! ロヴィーサお母さまが言うには、強さはすでにヴァルティアお姉さまを越えているらしいわ。ね、すごいでしょ?」


「ヴァルティアよりも強いんだ。それはすごいね! ……ん? その子とどうして俺が戦うの?」


「それは……だって、あなたは騎士団の副団長だから。強さはカンラートよりも上なのでしょう? わたしもあなたの強さは少しだけ知っているわ。だけど、本気の強さは知らないもの。だからお母さまがアスティンとそのヴァルキリー候補の子と戦わせてみるのが一番だって言ってたわ!」


「ええええ!? 相手は9歳の女の子なんでしょ? い、いくら強さがヴァルティアよりも上って言ったって、子供じゃないかー。いくら何でも俺とは相手にならないんじゃないかな?」


 小さな女の子に本気の剣を当てる。そんなのは騎士としてどうなのだろうとアスティンは思ってしまった。


「怖いの?」


「へ?」


「その女の子に負けるのが怖いんでしょ?」


「な、何を言うんだよ~? そんなはずないよ。で、でもそれって大人げないことだと思うし……」


「ふぅん……じゃあ、お母さまにはそう伝えとくわね。アスティンは女の子に負けるのが怖いし、大人げないから戦えませんって」


「そ、そんなの、ずるいよ~! ルフィーナはすぐお母さんに言うんだもんなぁ。そんなこと言われたら従うしかないじゃないか」


 彼の母はすでに引退しているものの、最強のヴァルキリーでもあった。現役のヴァルティアですら攻撃を当てられなかった。その強さを今でも保っているのがアスティンの母親である。


 彼の母はルフィーナのことがお気に入りで、アスティンは母親と王女ふたりには何も言えずにいるのが現状だった。


「違うの。わたし、あなたの剣技が見たいの。ねえ、お願い! わたし、アスティンの戦う姿が見たい」


「ル、ルフィーナ……そ、そこまで言うなら戦うよ! そのヴァルキリー候補の女の子と戦えばいいんだね? しかも本気で」


「うんっ! だから大好きよ、アスティン」


「い、いや、はは……」


「ふふ……アスティンの強さも見たいけれど、やっぱりヴァルキリー候補の女の子に興味があるわ。アスティンには悪いけれど、たぶんその子は相当な強さだわ。色んな意味で期待してるわ、アスティン!」

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