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わがまま王女と駆けだし騎士の純愛譚  作者: 遥風 かずら
迷いと戸惑いの新たな始まり
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19.ルフィーナの企み:後編


「セラ、急いで急いで~!」


「姫さん、そんなにあいつを落としたいのかい?」


「だってせっかくの機会なのよ? アスティンのことを叱るよりも、こういう恵まれたところで絶好のいたずらを披露しなくてはダメよ。ここにはカンラート兄様も落ちてくれたわ! 弟分のアスティンも同じ所で引っかかるのは運命なの」


「んー。姫さんがそう言うなら従うが、そう簡単には行かないと思うけどなぁ」



 ルフィーナに言われて俺は従士に報せを伝えた。これでまたジュルツの騎士たちは、気を引き締めて召集を待つことになるのかな。そうなると誰が派遣されてくるのかだけど、それを決めるのはルフィーナなんだよなぁ。ルフィーナの人選っていうのも不安ではあるけど。


 そろそろ戻らないとなぁ。ルフィーナに怒られたくないし、報せたことも教えてあげないと。俺はルフィーナたちが待っている所に戻ることにした。


「あ、いたいた。ル――」


 あれ? セラとふたりで何をやって……? セラが地面に何かをしているけど、ま、まさかルフィーナは俺にいたずらをするために慌てていたのかな。いたずらだけはやめられないんだなぁ。でも、素直に引っかかってあげるほど、俺は昔と違うんだ。たまにはキミにも体験してもらおうかな。


「ルフィーナ~! 知らせて来たよ」


「あ、あらっ? アスティン、早かったのね」


「間一髪だったな、姫さん」


「そ、そうね」


「何が間一髪?」


「ア、アスティンは気にしなくていいわよ。そ、そう言えばハヴェルたちは精を出して耕しているのかしらね? ふふっ、この国を出る時には髭が土だらけになっているんじゃないかしらね。ねぇ、アスティン?」


「え? あぁ、そうかもしれないね。それでもハヴェルならかえって男らしさが増すかもしれないね」


 土だらけの騎士たちご一行になってしまいそうだなぁ。そこに俺が加わることを目論んでいるみたいだけど、たまには土だらけの王女様になってもらおうかな。


「ね、ねえ、アスティン。こっちにあなたの好きなお花がたくさん咲いているの。ちょっと来て。一緒に見ましょ」


「うん、いいよ」


「セラは離れた所でわたしたちを見守っていてね」


「あぁ、そうするよ」


 姫さんの企みは上手く行くのかねぇ。アスティンもいい加減、気付いても良さそうなんだけどな。さて、助けを求めてアスティンを引き上げる用意でもしておくか。


「セラ様~」


 ん? あれはテリディ? どうしてここに来たんだ。確かハズナとハヴェルとで畑を耕していたのではないのか?


「息を切らせてどうした? なぜあんたはここに来たんだ?」


「は、はい、実はハズナが畑の一部を削ってしまいまして、それでその部分を埋め戻さなければならなくなりました。人の手が必要なのです。セラ様もお願いします!」


「ええ? あたしもかい? し、しかしそうするとこの場には姫さんとアスティンしかいなくなるが……」


「アスティンがいれば問題ないかと存じますが……何か問題でも?」


 こ、これはどうすればいいんだ? もしアスティンが予定通りに引っかかると、姫さんの力では引き上げられないだろうな。いや、畑さえ元に戻せばすぐに戻って来れるのか。仕方ないか。


「分かった。あたしも手伝うよ。案内してくれ」


「で、では、よろしくお願いいたします」


 すまねえな、姫さん。いたずらが成功することを祈ってるよ。それに、たまには二人きりにもなりたいだろう。



「ねえ、アスティン。わたしと初めてお庭で会った時を覚えているかしら?」


「勿論、忘れもしないよ。俺はあの日、父様に連れられてジュルツの城に来ていたんだ。だけど、父様は足早に城の中へ向かっていくし、俺は置いて行かれちゃったんだ。そうしたら、緑が豊かな所があって花もたくさん咲いていて、何だかその場所に惹かれてしまったんだよ。庭に迷い込んじゃったってことなんだけど、そこでキミと出会えた。キミは初めて俺を見たはずなのに、物怖じしないどころかすぐに名前を聞いてきたよね。アレが俺とキミとの始まりだったんだ」


「アスティンがお庭に迷ってこなければ、今のわたしたちは無かったのかもしれないのね」


               × × × × ×


「アスティンはどうしてここへきたの?」


「ぼ、ぼくは、えっと、父さまといっしょにおひめさまにあいにきたんだ」


「そうなの? おひめさま……アスティンはおひめさまがすき?」


「わからないけど、ぼくはおひめさまとけっこんするってきかされたんだ。だからすきだよ」


「ふぅん、そうなんだ。わたしもアスティンがすきよ。わたしとアスティンはずっといっしょにいることがきまっているの。きょうからずっと、ずっとなかよくしてね」


「うん! ルフィーナちゃん」


               × × × × ×


 懐かしいわ。あそこにアスティンがいなければ、王女になるまでにきっと面白くない日々が続いていたのかもしれないのよね。それが今は最愛の旦那様だなんて。それでも、まだまだアスティンには油断をして欲しくないわ。どういうわけか、アスティンってば騙されやすいし……それも女性だけに。


「アスティンには好きな子はいなかったのかしらね?」


「えっ? キミに出会った時からってことなら、いないよ。そ、そりゃあ、フィアナ様には憧れみたいなものはあったけど、ルフィーナに抱いていたのとは違うし、だからいなかったよ」


「ふぅん……ねえ、あなた。わたしの近くに来て」


「いいよ」


「アスティン――」


「――ルフィーナ……好きだ」


「……ん、わたしも好き」


 セラが離れた所で見ているのかもしれないけれど、わたしは彼と久しぶりに口づけを交わした。夫婦関係になってから、王女と騎士で互いに忙しい毎日を送っていたけれど、ふたりきりでゆっくりとした時間を過ごす日は少なかった。こうして離れがたい彼の傍にいられるだけで、こんなにも胸が熱くなるなんてあの頃には想像も出来なかった。


「そ、そろそろ戻りましょうか?」


「え? あ、うん。そうだね」


「セラー! 戻るわよ! あら? セラがいないわ。どこへ行ったのかしら」


「ホントだね。何かあったのかな?」


「何かって、ここはとても平和な国よ? 何かがあるなんて考えにくいわ」


「んーでも、あの子……ハズナは力の加減を知らなさそうだから、もしかしたらそれで呼ばれたんじゃないかな?」


「それならわたしたちも行きましょ!」


「そうだね」


 アスティンと一緒にいるだけなのに、わたしったら何をしようとしてたのかしら。本当に怒られるべきはわたしの方なのに、彼はいつも優しくしてくれているわ。もう、いたずらは控えなければいけないわ。


「ルフィーナ!! 危ないっ!!!」


「え? きゃ、きゃーーーーう、嘘!? これって、セラに掘ってもらった穴の……」


「ルフィーナッ!! つ、掴まって」


「アスティン。あ、あのね、わたしね……」


「い、いいから俺の手に……」


「う、うん」


 油断したわ。まさかアスティンを引っかけようとした穴の位置を忘れて進むなんて。何てことなの。


「っ、ルフィーナ、引き揚げるからしっかり掴まって……って、わあああああああああ!?」


「キャーーーーーー!? な、なに? 何でこんなに土が深くなっているの……!?」


 あ……! カンラート向けに掘ってもらったヴァルティアお姉さまの力は、とんでもなかったということなのかしら。こんなに脆くなっているだなんて。


「い、たたた……ルフィーナ、大丈夫? 怪我なんかしてないよね?」


「へ、平気よ。あなたが庇ってくれたから。そ、それよりもまさかあなたまで落ちて来るだなんて思わなかったわ。どうすればいいのかしら」


「うーん、ここはセラたちがここに来るのを待つしかないよ。土だけの穴は、力だけでは上がれないんだよ。石か何かが混ざっていれば良かったんだけど、ここは庭の土よりも柔らかいし」


「ご、ごめんね、アスティン。こんなことになるなんて」


「ううん、キミと落とし穴でも一緒にいられるなんて俺は、嬉しいよ! これもキミの魅力なんだ」


「アスティン……」


 彼だけを落とす企みが、わたしと彼とで同時に引っかかってしまうなんてね。これもまた思い出になるのかしら。セラたちが近くに来ている気配を感じられないわたしたちは、穴の中で出会ってから離れ離れの旅に行くまでのことを思い出しながら、お話をすることにした。

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