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わがまま王女と駆けだし騎士の純愛譚  作者: 遥風 かずら
迷いと戸惑いの新たな始まり
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18.ルフィーナの企み:前編


 意外な所で意外な子たちに会えたけど、この先に何かが待ち受けていることを知らせてくれたという意味では、楽しみは増えたかもしれない。宿で休んでいたアスティンと、酔いを醒ましたハヴェルとで港町を離れたわたしたち。


「ルフィーナ、ごめんなさい! お、俺はあの……あの子、王女が悪いことを考えているように思えなくて、だから……」


「わたしはそこまで怒ってないわ。あなたが謝るのはわたしではなくて、ハヴェルだわ」


 アスティンと気持ちよくお酒を飲んで、飲まれて寝てしまったハヴェルはわたしたちのやり取りに、髭をいじりながら申し訳なさそうな言葉を口にする。


「いやー、何があったのか詳しく知らねえが、アスティンに置いて行かれたことに腹なんて立ててないぜ? 酒飲みってのはそんなもんだ。ドゥシャンと飲んでる時はどっちかは先に寝ちまうか、どこかに行っちまうしな。だからアスティン、気にすんな! 王女さんもアスティンを許してやってくれ」


「ハヴェル、ごめん。今度からは気を付けるよ」


「あら? あなたって意外に紳士なのね。ふふ、アスティンが信頼を置くだけのことはあるのね」


 アスティンが信頼している騎士なら召集をかけてもよさそうね。そうだわ、それが一番だわ!


「そういえば次はどこに行くの?」


「ラットジールよ。アスティンもきっと嬉しい所よ。早く、早く行きましょ」


「う、うん。分かったよ。じゃあ、急ごうか」


 うふふっ、アスティンとカンラートは同じ体験をするべきね。あの穴は埋めてしまったけれど、一度掘ったところって、案外簡単なのよね。今回はセラがいるから間違いなく、成功するわ。楽しみね~。


「王女さま、ここどこ?」


「ここはラットジールよ。畑を耕すことが出来るの。ハズナも是非、やってみて!」


「うん」


「テリディアはハズナといてあげてね。それと、ハヴェルも一緒に行きなさい」


「えっ、俺もか?」


「ええ、そうよ。わたしはアスティンとお話があるの」


「アスティンと? あ、あぁ。そ、そういうことなら俺も土いじりを楽しんで来るとするか! じゃあ、ルフィーナ様、この嬢ちゃんたちと行ってくるぜ」


「ええ、お願いね」


 アスティンとセラとであの場所に行かなきゃね。その為にはハヴェルたちには他のことをしてもらわないと駄目なのよ。


「姫さん、やっぱりアスティンに説教するのか?」


「ううん、しないわ。それよりももっと分かりやすいお仕置きが出来るの。ふふっ!」


「また何か嬉しそうないたずらを考えているんだな? 分かりやすいな」


 アスティンのお仕置きはともかく、カンラートの国は落ち着くわね。自然が豊かだし、とてもゆっくりとした穏やかな時間の流れを感じるわ。彼の生まれ故郷は自然が溢れていて素敵ね。


「ルフィーナ。俺たちはどこに行くの?」


 少し距離を取って風景を見ていたアスティンだったけれど、それに飽きてしまったのかしらね。


「とても素敵なところよ。あなたもきっと気に入るわ! セラ、このまま先へ進んでね」


「おうよ!」


 あ、そうだわ。ここにはジュルツの従士がいるって話よね。アスティンにお願いしておかないとね。ジュルツから騎士を呼ぶだなんて、きっとカンラートもヴァルティアお姉さまも予想はしていないはずだわ。


「姫さん、着いたぜ! ここだよな? ここは、また何とも言えない所だな。まるでここは――」


「ねえねえ、ルフィーナ! ここはジュルツの庭みたいなところだね! ここを見せたかったんだよね? うん、ここは俺も好きだよ。花も草木も賑やかな場所だし、そっか~ここがカンラートの故郷だったんだ。帰国前に訪れて気に入ったんだね? だから俺にも見せたかった。そうでしょ?」


「ど、どうかしらね~? でも、アスティンなら喜んでくれると思ってたわ! ふふっ! 良かった」


 後はアスティンには従士を探しに行ってもらうとして、セラとふたりで穴を掘らなきゃね。


「セラ、ちょっと耳を近付けて」


「ん?」


「(アスティンには今から、従士探しをしてもらうわ。セラはわたしに手を貸してちょうだい)」 


「(あぁ、報せをしてもらうのか。それで、あたしは何をすればいいんだい?)」


「(ここにね、以前はヴァルティアお姉さまに手伝ってもらったのだけれど、落とし穴を作ったの。そこには見事にカンラートを誘ってあげたの。弟分のアスティンにも味わってほしいなぁ、なんて……ふふっ)」


「(相変わらずのいたずら王女だねえ。しかし、そう何度も引っかかってくれるものかな? 出会った時からアスティンは落ちてるんだ。さすがに分かってしまう気がするが……)」


 セラは案外心配性なのね。ここならお庭よりも分かりづらいし、アスティンを誘いやすいはず。きっと上手く行くわ。そしてアスティンなら笑って許してくれるもん。


「ねえ、アスティン! この国にいる従士を探して来てくれないかしら~? そのまま伝令を伝えて欲しいの~」


「え? あ、ミストゥーニのことだよね? うん、分かった。さっき馬で見かけたからこの辺りにいるはずだよ。歩いて行ってくるね。騎士の召集のことだけでいいんだよね?」


「うん、お願いね!」


 アスティン、歩いて行ってしまったわ。この辺りに従士がいただなんて、予想していなかったわ。それなら早く実行しないとまずいわ。


「セラ、い、急いで掘るわよ!」


「お、おう。掘る……手でか?」


「あなたの武器は……槍ではないのね。剣でも何でもいいわ、は、早く! 彼が戻ってくるまでに、落とし穴を掘って掘って掘りまくるの!」


「わ、分かった」


 どうか、アスティン。時間をちょうだいね。あなたを驚かす落とし穴を作るためなんだから。

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