15.思い出の港町
「ガンディスト国からすぐの所でわたし、賊にさらわれたことがあるの」
「えっ!? そ、それは真ですか? カンラート様が不覚を取ったのですか?」
「本当よ、テリディ。カンラートってば、結構不覚を取っていたの。イチ、ニ、ん~……何度かあったから忘れてしまったわ」
わたしは訪れたくなかったガンディストを足早に退去し、そこから道なりに馬を進めていた。テリディア改め、テリディが話をしたそうだったのでアスティンの馬から、テリディの馬に移って話をし続けている。
「そ、それでその賊は……」
「そうね、懐かしいわ。ねえ、アスティン! 懐かしさもあるし、港町に寄るわよね?」
「そのつもりだよ。ルフィーナは外の、全ての場所に行くんだよね? だったら、寄ろうよ! 俺もあの町にいたんだし、懐かしいっていうのはキミと同じなんだ」
「そう、そうなのよね。後から知らされたけれど、賊にさらわれて連れて来られたのがあの町だったのよね。そこでわたしを颯爽と助け出したヴァルティアお姉さま! あぁ……素敵だったわ。その時、アスティンは何をしていたのかしらね? カンラートもホントにドジなんだから!」
「ご、ごめん。で、でも、カンラートはキミのことを必死になって探していたよ。俺はあの時、見てたから。だから許してあげてよ」
許すも何も怒ってもいないのだけれど。アスティンったら、カンラートが本当に好きなのね。
「ルフィーナ様、ではこのまま港町スンムールへ向かってよろしいですね?」
「ええ、それでいいわ」
そんなに大した距離でもないけれど、ハズナはまだ長旅に慣れていないだろうし、ハヴェルも何だか酒を飲みたそうな顔をしているような気がするわ。
「姫さん、スンムールに着いたらどうする? 浜辺にでも行くかい?」
「まぁ! もしかして水浴びでもしようと言うの?」
「そのまさかさ! さすがに水着というわけには行かないけど、あたしも姫さんも……いや、男たちを外して浜辺に行こうと思っていたのさ。いいよな、ハズナ、テリディ」
「王女さまが行くなら行く……」
「わたくしもルフィーナ様に従います」
「うふふっ! ちょっとした楽しみが出来るのね。さすが、セラね!」
「ふっ、伊達に姫さんの近衛騎士をやっちゃあいねえさ。ってわけだ、アスティンと髭のおっさんは酒でも飲んでなよ! あたしらは浜辺で風を感じて来るからさ」
「酒! いいねえ。おう、アスティン。お前も酒、イケるだろ?」
お酒にイイ思い出も記憶も無いとアスティンは嘆いていた。ルフィーナのはしゃぐ姿を間近で見たかったと思いつつも、女性たちだけではしゃぐことはこの先、簡単じゃないなと思って諦めるしかなかった。
「い、いいよ。ハヴェルに付き合うよ」
「おお! そう言うと思ったぜ。そうじゃねえと俺だけ酒場にいる所だったぜ。さすがの俺も泣ける」
ルフィーナも自分と同じ気持ちを抱いているはず。そう思いながら、ハヴェルに付き合うアスティンだった。
「ふふふっ!! 風が気持ちいいわ~! ほらっ、ハズナもこっちへ来て」
「うん」
「……良かった。ルフィーナ様はすっかり機嫌が直られたようだ。ハズナ……あの子もこの先、どうなっていくのか心配だ」
「セラ様も気にされていたのですね。それにあの子のことも……」
テリディとセラフィマはルフィーナの近衛騎士として就いていた。だからこそ王女の気持ちは見ていて分かるほどまでになっていた。しかし、ハズナと呼ばれる幼きヴァルキリーは何をしでかすのか正直言って分からないのが本音だった。
ヴァルキリーでは無いセラフィマ。それでも、いざという時には自分が何とかしなければならないと思っていた。
「まぁそうだね。ルフィーナ様には従順なようだが、アスティンには刃を向けるかもしれない。まして、ルフィーナ様もアスティンも婚姻されてから、そんなに経ってはいない。アスティンはハズナにあっさりと倒されてケガまでしている。油断は出来ない。だから、テリディア・ジュリアート。ヴァルキリーとしてあの子供のことをしっかりと見極めてくれ」
「はい。あの、ハヴェルについては……?」
「髭のおっさん? あの方はああ見えてもカンラート様と同等の強さのはずさ。素顔を髭で隠してるせいで、本性も隠してるようだが……ハヴェルのおっさんがいるからアスティンも安心していると思うぜ」
「そ、そうなのですね。わたくしはルフィーナ様のお傍にさえいられればいいだけですので、そこまでは気にしていませんでした」
「まぁ、長い旅になるし、その内分かって来るだろ。とにかく、あたしらはルフィーナ様に何かがあってはならないんだ。もちろん、アスティンもな。その辺、あんたも気を付けな!」
「かしこまりました」
「うふふっ!! ねえ~セラ、テリディ! あなたたちも早くこっちへ来て~」
「おうよ! すぐ行くぜ~」
「すぐに参ります! ルフィーナ様」
ルフィーナはもの凄く楽しい思いをしている最中なのだろうと、彼は後悔していた。自分は何故ハヴェルと愚痴を言いあっているのだろうかと。
「うぃ~~……ほらー飲めって、アスティン!! お前も俺と飲むのが好きらろぉ~~……うぃ~」
「う、うん。飲んでるよ」
お酒に飲まれてるのはハヴェルの方であって自分じゃない。そのことを呟きながらも、この先に寄るつもりのカンラートの国のことを期待しつつ、彼女が今元気にしているのかについても気になっていた。
もしかしなくてもあの王子と婚姻でもしているのかもしれない。アスティンにとってはそうした懐かしい出来事も、全てはルフィーナのわがままに付き合っているからであると彼女に感謝するしかなかった。
「ルフィーナ、キミの事は俺が生涯にかけて守るからね。俺は君の騎士なんだから」
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