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149.光、満ちるとき


「……アスティン――愛しているわ……」


「僕もだよ……ルフィーナ」


 わたしと彼が婚姻を果たしてからどれほどの時間が経ったのだろう。ようやく一緒に暮らすようになっていたのに、互いの立場は王女と騎士。それもアスティンは副団長という位に立たせてしまった。これは全て、わたしの勝手な取り決めに過ぎなかった。それなのにあなたはそれを受け入れて騎士の役目を背負ってくれた。


 アスティンはわたしの運命の騎士様。お父様同士が取り決めた出会いだったけれど、初めて出会った時から感じていたわ。あなたこそ、わたしを照らす光であると。そんなあなたをわたしは、闇に突き落とした。眠っている間に辛い思いも、辛すぎることも味わわせてしまったわ。でも、もうあなたを離すなんてことはしたくない。


「あなた、ごめんね……ごめんね――」

「キミは何も悪くないよ。僕の方こそ、弱くて、弱すぎたんだ――だから、君の為に強くなるよ」

「ううん、いいの。アスティンはそのままでいいの……これからは、ずっと傍にいてくれたらそれだけでいいの」

「でも僕は騎士団の――」

「今は……何も言わないで、ね?」


 いずれ分かることでもあるし、わたしから彼に伝えなければならない。だから今は、彼との時間を大事にしたい。愛する人との時間は大事なことで、必要なことなのだわ。


 しばらくして、下で待たせていたセラの声が聞こえてきた。彼女は何かを察してくれたのだろうか。


「ルフィーナ王女、そろそろお城へお戻りくださいませ」


「分かったわ。すぐに向かうわ。先に外でお待ちなさい」


「は。御意に」


「アスティン、あ、あの……あのね、アス――んんっ……」


 彼の口づけはいつも驚かされるけれど、いつも優しくて温かい。彼の想いが注ぎ込まれてきてとても嬉しい。城へ戻ったら、言わなければいけない。彼に真実を。


「ルフィーナ王女。僕はあなたの騎士だ。キミのすることを僕は疑わない。どんなことになっていようと、どんなことが待ち受けていようと。だから、キミはずっと光り輝いていて欲しい。僕の運命のお姫様なんだから」


「ア、アスティン? まさか、あなた――」


「さぁ、セラが待ちくたびれているよ。大丈夫、僕は大丈夫だよ。また後でね、ルフィーナ」


「う、うん。ま、待ってるわ。城の中であなたを待ってる! そ、それじゃあね、アスティン」


 ああ、優しくて温かい心が流れてきたわ。あなたがいればいい。わたしにはあなただけだから。


「ロヴィーサお母様。明日、騎士アスティンを城へお願いいたしますわ」

「はい、かしこまりましたわ。ルフィーナ王女」


 限られた時間の中で、わたしとアスティンは心も体も通わせることが出来た。ずっと離れていた距離、そして心の在り処。ようやく、彼の近くに戻ることが出来た……そんな気がした。


 ラケンリース家には何となく寄り付けなかった気持ちがあった。けれども、彼はわたしを許し、再び受け入れてくれた。わたしの心は彼の心。運命の光がようやく、満たされたことを感じられた。


「姫さん、あいつは元気だったか?」


「あら、セラも会いたかったのかしら?」


「そ、そんなことはねえよ。まぁ、これからはずっと傍にいるわけだ。あたしが姫さんとあいつの盾となるさ!」


「盾と言っても、彼はあなたに大人しく守ってもらわないかもしれないわよ?」


「あははっ! それは違いないね。それならそれでいいさ。あいつは姫さんを。あたしはふたりを守ってやる。それがあたしの生きがいなんだ」


「セラ、ありがとう」


「て、照れるね。で、では参りましょうか、我が城へ」


「ええ、お願いね」


 ◇


 王女の命により、ルカニネ、マフレナ、そして黒衣の騎士たちはカンラート率いる王立騎士団に合流を果たしていた。アスティンのことを含めて、一切の報せを受けていなかったカンラート。彼女たちの姿を見ると同時に、激しい小言を繰り返していた。


「な、なにっ!? アスティンを副団長から外して、お前が副団長に? バカな……何故だ。何故、あのわがまま王女はそんなことをしたというのだ! そもそも王立騎士団は、アルヴォネン殿の代から男のみで構成された由緒ある騎士団なのだぞ? それをあっさりと変えよって! むむむむ……」


「し、しかし、私も王命とあらば頷く以外は無く……それに、アスティンの状態はご存じですよね。ですから、それも含めてのことだと」


「むむむ……今すぐにでも城へ行って説教をしてやりたいくらいだ。だが、レイリィアルは完全に我が国を敵と定めた。今ここでこの地を離れて、油断を誘うわけにはいかんのだ。しかし、むむむむむ」


 カンラートとマフレナの無駄なやり取りはしばらく続いた。ルカニネは、その光景に飽きを感じ、外の騎士たちにちょっかいを出しながらも、眼前にそびえ立つ氷の国城を睨みつけていた。


「して、マフレナ。お主が副団長なのは分かった。ルカニネもここに居続けさせるのか?」


「いえ、彼女には別の任務があります。この地の脅威をある程度除いてからしかるのち、リーニズへ向かうと思われます」


「脅威を除く? それはつまり、仕掛けるという意味か?」


「いえ、彼女は他のヴァルキリーとは異なりますから。恐らくそのやり方で……」


「む……そうか。あの女もそうであったな。それで、あの者たちは何だ? ジュルツの者か?」


「ええ。アルヴォネン様が連れて来られた騎士たちですが、私やルカニネには口を開きません。恐らく、王女や上の位の者にしか従わないのでは?」


「全く、ルフィーナめ。そういう時にばかり頼りよって。後で兄として説教をせねばならんな。兄として」


「照れられておいでですか? 何故強調を……」


「と、とにかく俺はあの者たちと口を交わすことにする。マフレナは俺に代わり、外にいる騎士団に指示を出すがよい」


「はっ! お任せを」


 カンラートにとって、逆らえない王女であり同時に、かつては愛した姫であり今は大事な妹としての気持ちがあることから、言葉では小言を繰り返していたものの、頼られたという思いが彼の気持ちを高揚させていた。


「このカンラート、王女の為に尽くしてやろうではないか! 待っておれよ、我が愛しの王女よ」

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