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147.王国の騎士たちと光


「あれは見習い騎士? なぜ王女様の傍にいるというの?」

「見習い騎士ごときが、ルフィーナ王女様をお守りするなんて……」


 庭に集う騎士たちには城からではなく、城門側から歩いてきた王女の姿に驚きを隠せないと共に、王女に付き添っている見習い騎士に、怪訝な表情を浮かべる者が少なくなかった。


「ルフィーナ王女がこの場におわしているのだぞ! 騒めきは失礼ではないか! 直ぐにその場で跪け!」


 騒めき出す淑女たち。それをかき消すように、シャンタルは声高に叫ぶ。彼女の言葉に気づき、庭に集う全ての騎士たちはその場で跪いた。


「ありがとう、ヴァルティア」


「――当然のことにございます」


 ヴァルキリーと近衛騎士、ルプルを除く全ての騎士たちが跪いている。その光景は、ルフィーナ王女への忠誠を即座に表したものだった。


「わたくしが眠っている間にも、随分と新しい彼女たちが増えたのね。それと、ジュルツらしからぬ騎士もいるのだけれど、ヴァルティア。あなた、ご存じかしら?」


「は。あの者たちは、アルヴォネン様が新たに加えた者たちにございます。未だ、素性などは明らかではございませぬが、腕は確かでございまする」


「あなたがそれをおっしゃるということは、戦ったのね?」


 ルフィーナ王女の問いかけに、声を発さず小さく頷きを見せるシャンタル。彼女の所作があの者たちを物語っていると理解したルフィーナもまた、頷き返すにとどめた。


「わたくしの騎士たち、いいえ、王国の騎士たち。顔をお上げなさい!」


 王女の言葉と同時に、全ての騎士たちが顔を上げ、王女に心を預け耳を傾けた。


「わたくしが長き眠りに沈んでいたことは、あなたたちに多大な迷惑をかけてしまったわ。それでも、わたくしは目覚めることが叶った。今この場にはいない友と、あなたたち忠義の騎士に頭を下げるわ」


「ル、ルフィーナ様……勿体ないお言葉」


 王女が騎士たちに頭を下げること、これには騎士たち全てが動揺するばかりだった。


「王国の騎士たち。これより、王国ジュルツをより盤石なものとするために、新たな騎士を含め新しい騎士団を任命するわ。この場にはいないけれど、王立騎士団も大事な騎士団であることを胸に刻みなさい」


「ルフィーナ王女、疲れは平気でございますか? 読み上げは我でも……」


「いいわ、ヴァルティアも名を呼ばれるまでは待機なさい」


「は」


 ルフィーナガーデンを埋め尽くす騎士たち。彼女たちは王女の言葉を逃さず、待つ姿勢を保っている。姿勢を崩す者は誰一人としていなかった。


「まずはジュルツが誇るヴァルキリー。ヴァルキリーたちは、本来であれば王女の傍に留まらず戦場の華となり、勝利を裁定する者であることは重々承知しているわ。それでも、わたくしはそれが全てではないとしているの。圧倒の力を見せつけることをわたくしは望まないわ。けれど、ヴァルキリーである以上、嫌でもひとたびの命じで、戦地に向かって頂くことになる。それがあなたたちの存在意味でもあるわ」


「「はっ!」」


「シャンタル・ヴァルティア。あなたは皆が知る通り最強のヴァルキリーだわ。とはいえ、子を授かってもいる。それ故、引き続きわたくしの傍に仕えて頂くことになるのだけれど、よろしくて?」


「我が身は、王女の望むまま」


「ジュルツを守護するヴァルキリーと、戦地に赴くヴァルキリーを新たに設けることとするわ」


 王国に留まるヴァルキリーは、シャンタルを筆頭にテリディア、ハズナそして――。


「あなた、名は?」


「……オティーリエ・ベルキ」


「では、オティーリエを加えた4人のヴァルキリーで守護していただくわ。そして、ルカニネ。あなたにはすぐに向かって頂きたい所があるわ」


「それが私の役目であるならば、どうぞ命じてくださいませ」


「ルカニネは王立騎士団に合流後、リーニズへ向かいなさい」


「え……は、はい」


「あなたと共にもう一人。近衛騎士マフレナ! あなたは王立騎士団に合流の後、アスティンに代わって副団長として団長カンラートを支えなさい」


「副団長!? わたしがでございますか? しかし王立騎士団は男のみの……」


「聞こえなかったかしら――?」


「い、いえっ、直ぐに!」


「マフレナとルカニネ。そして黒衣の騎士たちは、すぐに王立騎士団に合流をしていただくわ。異論がなくば、すぐに出立を」


 王女の命に逆らうものはなく、直ぐにその場を離れるルカニネとマフレナ。そして黒衣の騎士たち。彼女たちを向かわせたのは、カンラートを支えてもらいたい想いがあったからであった。そしてルカニネに関しては、王立騎士団に合流の後、フィアナのいる国に向かってもらいたい思いがルフィーナにはあった。


 アスティンから聞かされていたルカニネの想い人ドゥシャン。彼のいる国そして、フィアナがいる国に行って欲しいという思いがルフィーナにはずっと残っていた。向かった後の判断は、ルカニネに委ねることを密かに思っていただけに、任命の儀は都合が良かったのである。


「ルカニネのこと、気づいて……?」

「ええ、もちろんよ」

「なるほど。さすがだな」

「それはお姉さまもよ、ヴァルティア」


 突然の命に動揺する騎士たち。それでも取り乱すことなく、王女の次なる言葉を待つ者たちばかりが、今か今かと待ちわびていた。


「春光騎士団ジネヴラ、そして見習い騎士ルプル。ここに」


「「は!」」


「ジネヴラ・アクセーン。あなたは春光から春花騎士団となり、春花の騎士団長とする。そして、ルプル・ネシエル。あなたは星光騎士団の団長になるのです。これに異を唱えなければ、口づけを添えなさい」


「このジネヴラ・アクセーンは、王女の命により、春花しゅんか騎士団、団長として謹んでお受けいたします」


「ルプル。あなたは?」


「わ、わたしが騎士団長でございますか? そんな、何故……」

 

 ルプルの動揺と同時に、その場にいる騎士の誰もが疑問を浮かべていた。しかしルフィーナは他の騎士たちも納得するような言葉をルプルにかけ始めた。


「ルプルは、アスティンに光を与えてくれた。光は星に還ることなく、星の傍で光を輝かせているわ。それがあなたなの。そんなあなただからこそ、星光せいこう騎士団をまとめて頂きたいの。どうか、お願いするわ。あなたの光を国の為に輝かせて」


 疑問の表情を浮かべていた騎士たちは、ルプルがアスティンを救った人物であることを知る。そして王女が認めた騎士であることで、疑問と疑念を浮かべる騎士は誰一人としていなくなっていた。


「かしこまりました。私、ルプル・ネシエルは今日より、星光騎士団の団長として輝くことを誓います!」


「ええ、お願いね」


春光しゅんこう騎士団長は、リヴィーナ・ハールス。星花せいか騎士団長は、レティシア・クロッツェルとするわ。そして、アグスティナ・ザーレスカ。あなたはマフレナに代わり、近衛騎士団の団長となるのです。よろしいかしら?」


「「ははー!」」


 王女の言葉に異を唱える者はいなく、みな一様に王女の手に口づけを添えた。


「ルフィーナ王女、あたしは……いえ、私はどのような?」


「セラフィマ・ニーベル。あなたはブリュンヒルデ……いいえ、王女と王婿の盾乙女として傍に仕えて頂きたいの」


「よ、よくわからねえ……分かりませんが、王女の盾となれるならば喜んでなりましょう」


「さて、最後に紅椿騎士団。団長は、ルヴィニーア・ジュリアート。他国いえ、レイバキアからジュルツに尽くしてくれていることは光栄であり、嬉しく思うわ。これからも王国の助けとなり、華を開かせて頂けるかしら?」


「ははーっ! わたくしはすでにジュルツの騎士にございまする。騎士団をお与え下さいましてありがたき幸せにございます」


「お願いね」


 ルフィーナガーデンに集った全ての騎士たちは、命ぜられた騎士団に編成されたことを素直に喜び、笑顔を溢れさせた。


 この日からが騎士王国ジュルツとしての新たな始まりであり、目覚めのルフィーナ王女にとって始まりを意味していた。


「ルフィーナ王女、そろそろ行かれますか? 彼の元へ」


「ふふっ、そうね。事実を伝えてしまうと泣いてしまうかもしれないけれど、その姿を見るのはわたくしだけで十分ですわ。それでは、セラ。お供を」


「御意にございます」


 かくして王国ジュルツの新たな騎士団任命の儀は終わりを告げた。そして、王女にとっての光、アスティンへ会うために、セラを供に彼の家へ向かうことにしたルフィーナだった。

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