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141.ルフィーナ王女の帰国


「ねえ、アスティン……起きて。あなた、起きなさい」

「うーん……もう朝なの、ルフィーナ――!? えっ……ル、ルフィーナちゃん? キ、キミ……」

「あら? どうしたのかしらね。あなただけ夢でも見ているの? 何なら、わたしのほっぺでもつねってみる?」

「じゃ、じゃあ……」

「い、痛いわ。もう少し優しくつねって欲しいの」

「あ、あぁぁ……ルフィーナちゃん! ぼ、僕のルフィーナちゃんが目覚めたんだ。よ、よかった」

「ア、アスティ――んんっ……」

「愛してる、愛してるんだルフィーナ……もうどこにも行かせない。眠らせたくないんだ、ルフィーナ」


 あらあら、それは困るわね。さすがにアスティンの傍をずっと離れないわけには行かないし、眠るなだなんてそれは辛いわ。もちろんそういう意味じゃないことくらいは分かるけれど。


「ふふっ、それは駄目よ、アスティン。わたしは王女なの。目覚めた以上は忙しくなるわ。それに疲れたら眠るわ。もちろん、そのまま眠り続けるなんてことにはならないから安心していいわ」


「約束できる?」


「あら、わたしがあなたとの約束を破ったことがあるのかしら?」


「な、無いよ。僕も今一度、誓うよ! キミを悲しませない、キミをずっと愛し続ける!」


「な、何だか照れるわね。わたしも誓うわ。あなたとの口づけをもって、誓うわアスティン」


 こんな会話が出来るだなんて、やはり起きているのが一番ね。それにしても今回も、ミストゥーニの女王陛下に救われてしまったわ。結局、わたしと異なる力をお持ちの女王には何も抗えない……そういうことなのかしらね。


「姫さん、そろそろ着くぜ。心の準備はいいか?」


「ふふっ、緊張しているの? それにしてもセラは随分と可愛くなったわね」


「そ、そうかい? 気に入ってもらえて何よりだ。アスティンのおかげだな」


「え?」


「何でもないさ。気にすんなよ、アスティン」


 セラとの戦いの最中、アスティンの意識は自分を取り戻した。それでも、彼はルフィーナの目覚めで泣き崩れ、そのまま深い眠りについた。彼が眠っている間、ミストゥーニの女王陛下ディーサは彼に残っていた黒い霧を回収した。その霧が誰の仕業で、どういったものだったのかは誰も聞くことは無かった。


 ルフィーナもまた、アスティンに起こった出来事を詳しく聞くことも無く、故郷に向けた馬車に大人しく乗り込むことを決めたのだった。


「ねえ、アスティン」

「うん、何かな?」

「……ううん、今はまだいいわ。疲れたものね、お互いに」

「そうだね、はは」


 ルフィーナが突然の眠りに入ってから、数か月いや、もうすぐ1年が経とうとしていた。国が今、どうなっているかなどと、彼女にとっては全て分からないことだった。それでも、愛する夫アスティンと共にようやくの帰国を果たすことが出来たのである。


 ジュルツ街区門――


「まぁ! ア、アスティン……すごいわ! 民たちがわたしたちを歓迎しているわ!」

「歓迎って、それはそうだよ。というより、ルフィーナは王女なんだよ? おかえり、ルフィーナ」

「うん、戻って来たわ! ふふふ……やりたいことが山ほどありすぎる気がしてならないわ!」

「ほ、程々にね」


 馬車はそのままジュルツ城前まで進み、歓声が上がると共に止まった。王女の帰還が果たされたことを意味するものであった。


 城門の前にはジュルツの騎士たちが勢揃いをしていた。その中には、ルフィーナの父と母の姿もあった。いち早く気付いていたルフィーナだったが、両親よりもひと際目立つ彼女しかすでに見えていなかった。


「――ヴァルティア……!」

「ルフィーナッ!!」


 王女とヴァルキリー……今はその関係では無く、絆を深めていた彼女たちはただひたすらに涙を流して互いに抱擁を交わしていた。ルフィーナの傍でずっと嘆き苦しんでいたシャンタル。彼女が待ち望んでいた、王女の目覚めは現実のものとなって帰ってきた。


「す、すまないな。取り乱した」

「いいのよ、お互い様だわ」


 落ち着きを取り戻した彼女たち。シャンタルは騎士団の前に立ち、騎士たち全てと共に王女に跪いた。


「我らジュルツの騎士団。ルフィーナ王女に忠誠を誓う者! 我らは、全てあなたの下にござりまする」


「……ええ、お願いするわね」


「「ははーー!!」」


 ルフィーナ王女の言葉は多くを語らない。それが王女であり、王女の下に騎士団は成り立つものであると、その場にいる誰もが心に誓いを立てていた。ルフィーナ王女の帰還と共に、再びの光が輝こうとしていた。

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