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139.一陽来復の訪れを前に


「で、では、俺は……じゃなくて、わたくしめはレナータの為にも騎士をやめるべきではないと、そう申されるのか?」


「ええ、それが懸命と存じておりますわ。すでにご承知の通り、レナータ様の属性である水の魔法力は失われましたわ。それが彼女の覚悟であり、決心でもあったのです。ハヴェル様は、騎士の力に頼らずともこれから先の人生において、レナータ様をお守り出来ますか?」


「お、俺はあいつが王女じゃなくても愛してる。たとえ、魔法なんぞに頼らなくても一緒になるって誓いを立てた。だが、魔法はルフィーナ様の為に失われた。それはつまり、守る盾となるのは俺ひとりだけになった。そういうことだろ?」


「その通りですわ。ハヴェル様、貴方様のご覚悟をお聞かせ願いたいのです」


「――決まってらあ!」


 ミストゥーニの女王陛下に謁見していたハヴェルは、レナータの覚悟を聞かされて己の覚悟と、今までの騎士生活はそう易々と捨てられるものではないと判断していた。その答えは迷うことなくすぐに出たのだった。


「フフ……そのお言葉を信じておりましたわ。では、騎士ハヴェル様。あなたの可愛がっている弟騎士をお迎えにあがって頂きたく思いますわ」


「ははっ、弟騎士なんぞにそんな敬いの言葉は要らねえぜ……では、ディーサ陛下。騎士ハヴェルが迎えに行きまする。引き続き、我がジュルツの為にご助力をお願い致す」


「かしこまりましたわ」


 宿場では、ルフィーナ王女と力を失ったレナータが隣り合わせで眠っている。テリディアはセラたちの帰りをずっと待ち続けながら、待ち望みの時間を過ごし続けていた。


「……もし――ジュルツの騎士さま?」


「何用ですか?」


「間もなく騎士アスティンと騎士団の彼女たちが到着されます。出来ましたら、騎士様も彼らをお迎えに行って頂きたく……」


「それは無理なお願いですね」


「何故です?」


「ふ……扉越しの声でしか存在を明かさぬあなたに、わたくしが動くとでもお思いですか? ただの騎士であればあなたの声に耳を傾けたでしょう。ですが、わたくしには通じませんわ。姿をお見せして、それでもその隠せない敵意を出し続けるのであれば、容赦は致しません」


「……――……」


「ふふっ、去りましたか。案外と利口ですね。最後の最後で、隙を窺うなどと……油断の出来ない御方ですね。ミストゥーニの女王様」


 ミストゥーニ外門では、騎士ハヴェルとアダリナ姫がアスティンたちの到着を待っていた。


「あんた、全てお見通しなんだろ? 俺とアスティンがここから外に出た時から分かっていたよな?」


「何のことでしょう? わたしはただ、ディーサ様のお言葉通りにご案内をしたまでのことですよ」


「へぇ、相変わらず生意気な姉ちゃんだな。でもまぁ、今回は助けられたぜ。ありがとよ!」


「何のことだか分かりませんね。それよりも、そろそろ来られます。剣を構えて下さい」


「は? アスティンたちが来るのに何で剣を? っというかだな、宿に置いたままだぜ? 無理な事を言うものだな、あんた」


 アダリナの言葉通り、ハヴェルの眼前の霧が晴れたと同時に、アグスティナの剣がハヴェルの喉元の間際にまで迫っていた。


「お、おいおい……俺は味方――」


「ちっ……ヒゲが無いから判断が付かなかった。もう一度、伸ばせ」


「お前アグスティナか? 出世しやがったな。よく見りゃあレティシアとリヴィーナまでいやがる。肝心のアスティンは……って、セラ様!? し、失礼しました! その短い髪はどうされたのです?」


「あん? あんた、ヒゲ騎士……ヒゲがないじゃないか! 伸ばさないとてんで分からないねえ。アスティンなら、疲れてあたしの背中でお休み中さ。あたしの髪に気付くとは、あんたも成長したんだな」


「い、いえ……」


 騎士ハヴェルは、ヴァルキリーのシャンタルの前すら出られない程、自分よりも格上の女性騎士には頭が上がらなかった。セラもまたシャンタルと同様に王女の近衛騎士だったことから、それだけで緊張してしまうほど、ハヴェルにとっては身に余る思いを感じていた。


「私らと態度が違う。ハヴェルのくせに!」


「お前らはいいんだよ。お前らがガキの頃から知ってるからな! 今さら変えられないぜ」


「ハヴェル、ムカつく」


 騎士団の筆頭である彼女たちと騎士ハヴェル。その関係はアスティンを可愛がる兄騎士そのものだったこともあり、セラは思わず微笑んでしまう。背中に眠るアスティンにも、優しく微笑みを見せていた。


「さて、ハヴェル。姫さんたちの宿に行く前に、女王陛下に謁見をしたい」


「あぁ、それはこの姉ちゃんが……」


「セラ様。わたし、アダリナがご案内いたします。陛下の前には、セラ様とアスティン様だけでお願い致します。申し訳ありませんが、ハヴェル様と騎士団の女性達には先に宿場へ向かって頂きたいのです」


「何か問題が?」


「たとえ、国内で会っても良くない気配の輩は入り込んでいるのです。宿場にもソレは向かうことでしょう。ですから、急ぎ――」


「おい、姉ちゃん。それは心配要らねえぜ? 宿にはテリディアが引っ付いているんだ。あの姉ちゃんだけいれば何も問題なんて起きねえよ。むしろ、レティシアたちが行くだけで問題が起きそうだぜ」


「この~~……」


「で、では、ハヴェル様と騎士の皆さまは、宿へ向かって下さい。王女とレナータ様をよろしくお願いします」


「はははっ! 任せておけ」


「ハヴェル……星花と星光を敵に回した。後で覚悟しとけ」


「ん? 何か言ったか? ほら、行くぞ、ガキども!」


 ◇


「セラ様、そちらがアスティン様?」


「ええ、まぁ……疲れて眠っていますが、な、なにを――!?」


「悪い気配が彼の身体にまとわりついていますわね。これを取り除きますわ……」


「は、はぁ」


 アスティンに向けて手をかざすディーサ女王。セラの目には何かが霧状となって出て行ったように見えていた。


「……う、ん……あれっ? セラ? それとあなたは……」


「アスティン様、わたくしはミストゥーニの女王陛下ディーサですわ。今までの苦労と苦しみ、よくぞ耐えられましたね。ですけれど、あなたはもう何も心配いりませんわ。さぁ、宿へお行きなさい」


「え? あ……は、はい」


「アダリナ、アスティンと共にこれをお持ちなさい」


「はい、それでは行って参ります!」


 アスティンとアダリナ姫は、ディーサ陛下に頭を下げて宿へと急いだ。


「アスティンに何が付いていたのです?」


「アスティン様は少しの間に多くを感じられてしまった。それは王国であったり、過去の騎士であったりですわ。知らずの内に身体も精神も疲れが溜まっていたのです。そこにルフィーナ王女が眠られたことで、心を強く持ち続けることが叶わなかったのでしょう。敵はそこを狙ったにすぎないのです」


「よくは分かりませんが、アスティンとルフィーナ王女はもう大丈夫ですか?」


「しばらくはセラ様を始めとした、ジュルツの方々でお守りくださいませ。セラ様もいい顔をしておられますから、きっといい方に向かいますわ。では、貴女様もルフィーナ王女の傍にお行き下さいませ」


「恐れ入ります」


 騎士の彼女たち、ジュルツの者たちにとって長きに渡った王女の眠りはようやく、終わりを告げようとしている。


「フフフ……運命の騎士アスティン様と騎士団。ルフィーナ様と我がミストゥーニは、もっと関係が深化して行きますわ。その為にはまだまだ頑張って頂かなければ――」

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