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135.遠き王女の覚悟と決意:前編


 霧の国ミストゥーニ。ジュルツに次ぐくらいにここに来ている気がするわ。それは仕方ないといえば仕方のない事なのだけれど。この国が他国との境になっていることを知った時には、なんて不便なのかしらとも思ったわ。だけれど、この国のおかげで外の国から攻めて来ないという恩恵もあるのよね。


 それでも、同じ大陸のレイリィアルは、いつ牙を向いて来るのか分からない。そうしたら、わたしの騎士たちが痛い目に遭うことになってしまう。そんなことにはしたくないのだけれど、そうも言っていられない。そんな時が近づいている気がする。そんなわたしは未だに目を覚ましていない。けれど、もうすぐその時が訪れる。そんな予感がするわ。


「で、では、私の水属性は完全に?」


「ええ、それでもお行きになりますか? あなたは遠い王国の王女。国を出たとはいえ、あなたには唯一残された属性なのでしょう? それを関係の無い他国の王女の為に失くさせる覚悟がおありですか?」


「いいえ、私はルフィーナ王女とは友誼を結んだのです。関係は十分にあります。それに、ジュルツの騎士ハヴェル。彼と一緒になると決めた時から、属性を無くすことの覚悟もありました。それが無くなっても、彼は関係ないとまで言ってくれましたから……」


「分かりましたわ。それでは、谷へは騎士セラフィマ様と我が国の姫である、アダリナとで行ってもらいます。他の方、特に男性の方は入ることを禁じておりますの。それでもよろしいですね?」


「はい。私はきっと、ルフィーナに出会ったことが運命だったのです。ルフィーナ王女を救う為に呼ばれたと言っても間違いではありません」


 まぁ……何て嬉しい事を言うのかしら。本当に無関係だったのに。わたしのおふざけと、騎士たちの行為に心からお詫びをするわ。そして、友達のレナータ。あなたの覚悟はわたしの覚悟。しっかりと見守っていてあげるからね。


「え? お、俺は付いて行っては駄目なのですか? 俺の王女……じゃなくて、えと……どう言えばいいんだ」


「ううん、ハヴィ。私は大丈夫。ルフィーナの為に必要な事なの。それに、ルフィーナの近衛騎士であるセラ様が付いて来てくれるのだから、何も心配はいらないの」


「だ、だけどよ……」


「おい、ハヴェル! あんた、ヒゲを生やしてた時の方が勢いがあったんじゃねえのか? あんたが傍にいたいのは分かるが、行けねえんだからしょうがねえだろ! あんたは宿屋で休んでな」


「くっ……セラか。ドゥシャンみたいな口の聞き方しやがって。分かったよ、お前に任せる」


「おうよ! レナータ様はあたしが守る。あんたは我が王女ルフィーナを守れ! いいな?」


「俺も騎士のはしくれだ。守るさ、必ずな! だから、行け!」


「いや、ルフィーナ様はわたくしがお守りします。ハヴェルは宿屋の扉で立っていてください」


「む? それでいいけどよ……全く、ルフィーナ様はスゲー女騎士ばかり揃えたもんだな」


 ふふっ、ハヴェル。ヒゲ騎士もいつの間にかいい男になっていたわ。何だかんだで、アスティンの兄騎士たちって、みんないい男たちなのよね。まぁ、ドゥシャンって奴もいたけれど、悪い騎士では無かったわ。


 カンラートも今頃はどこかで騎士様をしているのかしらね。そして愛するアスティン。わたしの目覚めはあなたが来ることなの。きっとあなたも苦しい思いをしているはずよ。でも、もうすぐなの。アスティン。


 ミストゥーニ・バレイ――


「こ、ここですか? 谷底は濃い霧で何も見えないなんて……」


「怖いですよね? でも、ここはかつて、ルフィーナ姫が震えながら下りた場所です。もちろん、彼女は一人で下りられました。どんなに障害があっても、どんなにひるんでも、底まで下りたんです」


「あなたがアダリナ姫? あの、底へはご一緒に?」


「ええ。今回は事情が異なりますし、私だけでご案内します。セラ様は谷の中腹までしか付いていけません。大丈夫ですか? レナータ王女」


「私はもう、王女ではありません。ですが、王女として行けるのであれば、行きます。ご案内をお願いします」


「分かりました。では、ゆっくりと付いて来て下さい。セラ様は後ろを」


「分かった。レナータさん、あたしは後ろにいる。途中までですまないけど、安心していいぜ」


「では行きましょう。上に戻る時には、ミラグロスとチュスラーナがお救いしますのでご安心を」


 レナータもわたしと同じように覚悟を決めて谷底へ下りるのね。それも今回はあなたの力を失わせて、わたしの為の万能草と引き換えることになるだなんて……レナータ。あなたのことはたとえ、今後会うことが無くなっても、ずっと助けて行きたい。それがきっと王女としての役目なのだわ。

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