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132.ルフィーナ王女に②


「それで、アスティンは無事だったのだな?」


「……は」


「では下がれ。マフレナ」


「はい」


 騎士の宿舎に戻っていたシャンタルは、娘のヴァルヴィアを世話しながら王女の帰りを待つことにしていた。宿舎には疲れ果てた見習い騎士たちも姿を見せていたこともあり、すぐに一人ひとりを呼び出しては報告を受けていた。


「ではルプル・ネシエル。お前がアスティンを?」


「はい。おそれながら彼の部下でもありましたので、処置を致しました。このことで王女様に何を言われ、何をされても私は全て、受け入れます」


「今は何も無い。お前はこれまで通りに稽古に励め」


「分かりました」


 騎士ルプルがアスティンにしたことの意味は、彼女自身がよく分かっていた。自分もかつては、アスティンを愛しく想っていたのだから。


 しかし報告を受ける限りではその想いが彼自身からは消え、自分の心の奥底に沈めたままの想いが自分にだけ残っていると思うと、シャンタル自身はやりきれないとしか思えなかった。


「シャンタル様、見習い騎士の処遇はどうします?」


「我は何も構わぬ。全てはルフィーナに任せるのみだ。して、アレはそのまま残ったのか? ルカニネ」


「カンラート様と騎士団は残られました。それも最初からアルヴォネン様のご指示だったようですよ」


「ふ、引退などまるでする気が無いのだな。それもこれも、やはりアスティンのせいか」


「アスティンは自宅に戻ってずっと眠っているみたいですね。無理もありませんけれど」


「……そうか。ならば、我が見舞いにでも行くとしよう。ルカニネは城の守りを頼むぞ」


「はい! お任せを~」


 アスティンが良くないことに巻き込まれることは想定していたシャンタル。それでも、彼はルフィーナにとっても自分にとっても、かけがえのない男。数年以上も一緒に世話をして来たのに、助けてやることが出来なかった。このことがシャンタルも自分自身を悔やむことに繋がっていた。


「アスティン……お前との想い出もお前の中から消えてしまったのか……そんなことになるとは思っていなかった。長い試練の旅の記憶、心が消えてしまうなんてそんなのは認めたくない。アレ以外で、我が愛したただ唯一の男、アスティン。お前の弱さが招いた結果とはいえ、くっ……アスティン――」


 カンラートとルフィーナのように、シャンタルもアスティンと長きに渡って一緒に過ごし、好きになり愛した。自分がカンラートと晴れて結ばれた時も喜んでくれたアスティン。そして、ルフィーナと共になった時も、ようやくのこととして誰のことよりもアスティンを祝ってあげたシャンタル。


「……唯一はルフィーナ。我の命である主君のことだけがお前に残った。それだけでいい。それだけでも、お前のことを守るに値する。アスティン、我……わたしは、お前を愛せて良かった、良かったぞ……」


 誰に見せるでもない涙と、泣き声。シャンタル・ヴァルティアは一人、部屋の中で涙を流し続けた。


 ※


「ヴァルキリー、シャンタルにございまする」


「あら、もしかしてアスくんの見舞いに来られたのかしら?」


「……ええ」


「どうぞ、中へ。あの子も喜びますわ」


「……」


 アスティンの寝室に通されたシャンタル。珍しく緊張した面持ちで、アスティンに声をかける。


「そ、そのな、アスティン」


「ヴァルキリーが僕の見舞いに来られたのですか!? す、すみません、あの……副団長なのにご迷惑をおかけして申し訳ありません!」


「――あ」


「ど、どうかしたのですか? 何故そんなに辛そうに……」


「何故、我のことをそう呼ぶ? お前にとって我はもう、姉ではないのか? お前だけは我のことを呼んでくれることを許しているというのに……それも覚えてないのか?」


 密かに部屋の扉の前で様子を窺っていたロヴィーサは、シャンタルを信用して部屋を離れた。それに気付いたアスティンは、ようやく彼女のことをいつものように呼びかけた。


「そ、そんなことないよ。シャンティ! 僕は何も、全てを失くしたわけじゃ無いんだよ? えっと、だ、だから、あの……な、泣かないで」


「あぁ……アスティンっ! お前を守れなくてすまなかった。すまない、アスティン……」


「いいよ、シャンティのせいじゃないんだ。僕はルフィーナのことでずっと煩って、自分を弱くしていたんだ。その結果がこうなっただけなんだよ。だから、僕の事でヴァルキリーが泣いてたら駄目だよ」


「――アスティン」


「カンラートとシャンティは、僕にとっての兄と姉なんだ。そして、ルフィーナにとっては欠かせない騎士なんだ。だから、もう僕の為に悲しまないで……シャンティ」


「ああ……ありがとう、アスティン」

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