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131.ルフィーナ王女に①


 わたしを優しく見守りながら寄り添っているテリディアとレナータ……と、所在なさげなハヴェル。さすがに馬車の中では横になることもままならなくて、ふたりに支えられながらわたしはミストゥーニに向けての馬車に乗せられていた。


「いや~、テリディアとは久しいねえ。リーニズ以来か? まさかあんたがヴァルキリーになってるなんてあん時は思わなかったね」


「あなたもまさか、こんな王国の王女様を見初めるとはわたくしは全然思いもしませんでした」


「……あはは……あ、あの、ハヴィとはどういう?」


「レナータ様。ご心配には及びません。わたくしは身も心もルフィーナ様に捧げている身にございます。ヒゲ騎士……今は綺麗になっているようですが、彼とはリーニズという国で、ルフィーナ様の姉上様を護衛しておりました。その時に一緒になっていただけのことにございます」


「そうなのですね。ハヴィって自分のことを卑下しているんですけれど、女性には優しいので少しだけ心配になってしまいました」


「ま、参るねぇ」


「……」


 レナータってば、天然ということなのかしら。こうして彼女たちの声を聞いていると、それだけのことなのに、まるで心がわたしの中に入って来ているような感覚さえするわ。


「それにしてもこうしてお傍に、それも寄り添っているだけでわたくしは涙が出そうになります。ルフィーナ様が倒れられてから、ただの一度も目を覚まされていないということに、わたくしは胸が締め付けられそうになります」


「ええ、それはわたしも同じです。あれだけ元気だったのに、彼女の声を聞いていません」


「こんなに穏やかな寝顔を見せられているのに……まるで目を覚まされないだなんて」


「……はい」


「なんだぁ? 何をしんみりとしてるんだ? ミストゥーニで目を覚まされるんだろう? だったら、二人が笑顔で王女さんを支えないでどうするよ? 少なくとも、俺は心配なんざしてねえぜ」


「言わせておけば――!」


「いやっ、落ち着けって!」


「ふん……ハヴェルは騎士ではなく、ただの民。不本意ながら、あなたも守らねばなりませんね。レナータ王女の為にも」


「悪いねぇ」


「くっ……」


「あ、あはは……ルフィーナの騎士たちはみんないい人たちなのね。見ていて分かるわ。だからこそ、私も覚悟を決めて彼女に――」


 わたしの為にレナータをあの谷に向かわせてしまうだなんて、本当に駄目ね。それでも、関わるはずの無かった王国の王女が、ジュルツに来てヒゲ騎士に出会って……そこから彼女の運命は決まっていたのかもしれないわね。それだけに、ヒゲ騎士……ハヴェルにも目が覚めたらお礼を言わなければならないわ。


 馬車の中は彼女たちによって守られているけれど、馬車を守る外は状況が目まぐるしく変わっているということに、わたしも彼女たちもまだ気付いていなかった。


「セラフィマ様! あの、自分はまだこれといって経験がありませんが、問題はないでしょうか?」

「んー? あんたはアグスティナだったか? 何年目だ?」

「じ、自分は騎士団の筆頭になってからはまだ2年でして、ですから、あの……」

「何とかなるんじゃねえか? 騎士団の頭を張ってるってことは、強いんだろ? じゃあそれをやるだけだ」

「わ、分かりました」

「それと、あたしは近衛騎士って立場ではあるけど、あたしにはそういう態度は無用さ。セラって呼んでくれていい。姫さんもそう呼んでるしな!」

「は、はい! セラ様」

「まーだ硬いねぇ……カンラートみたく堅くなると、姫さんのいたずらにも拍車がかかっちまうよ」


 いつもならわたしを守る騎士たちは、それなりの数で固められているものだけれど、場所がミストゥーニというだけに、馬車の外はセラとアグスティナだけ。もっとも、セラの強さはハヴェルなんかとは全然比べられない位に美しい強さなのだけれど。


「アグスティナ、早速おもてなしの機会が訪れたぜ? やれるな?」

「……御意です」

「お? 顔つきも変わるタイプかい。面白いねえ」

「――来る」


 国と国を移動する距離も含めての事ではあるけれど、たどり着くまでには決して何事も起きないとは限らない。それは結局のところ、村や小さな町までは支配しているわけではないから。


 そうなると、国にも住まず、どこにも属していない賊がどこかで暮らし、道行く誰かを襲っているというのがわたしたちの世界のもう一つの事実であり、ある意味で致し方ない所もあるのかもしれない。


「ひ、ひぃっ……!?」


「賊ごときが我が空に近付くなど、あり得ぬこと。星が許すうちに消えろ!」


 騎士アグスティナの強さは、他の騎士と違う剣を身につけていることにあった。強く輝くその剣は、フォセと呼ばれ、整った形ではなく湾曲した形を成している物だった。


「おー! アグスティナ、あんた見かけによらない剣を使うんだな。あたしでもそれを手にするのはキツイっていうのに。まして王立騎士団の連中も使いこなせねえ武器だぜ?」


 セラの言葉を遮る様に、重い武器であるフォセを無言で振り下ろし、無謀にも襲い掛かって来た賊に見せつけた。


「光を失わぬうちに去れ!」


 見かけによらない外見のアグスティナ。賊はおおよそ、戦えそうにない姿で判断して襲って来た。彼女は騎士の鎧こそ身に纏っているものの、容姿は幼くセラと比べてみても身長も足りていない程の小柄な女性。銀色に輝く長い髪を靡かせながらも、鋭く突き刺す瞳は普段の態度とは別だった。


「ち……雑魚め」


「いや~驚いたぜ。あんた、おっかないねえ」


「い、いえ、自分は大したことはありません……シャンタル様に比べれば自分なんかとても……」


「シャンタル~? あぁ、あいつに見習っての態度か。ヴァルキリーの中でも、あいつは別格だしな。態度も見た目も」


「あいつ呼ばわりだなんて、さすがセラ様です」


「あたしのダチでもあるからな。ははっ、まぁあんた、アグスティナならすぐにでもなれそうだぜ!」


「そ、そんな……」


 ふふっ、どうやら馬車の外は盤石のようね。普段はあまり接したことの無い騎士団の騎士たちとも、目を覚ましたらもっと、積極的に近付かなければ駄目ね。もうすぐミストゥーニ。きっと、大丈夫だわ。


 わたしは待っている。愛するアスティン、あなたが来てくれるのをわたしは待っているわ。

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