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わがまま王女と駆けだし騎士の純愛譚  作者: 遥風 かずら
迷いと戸惑いの新たな始まり
13/151

13.頼れるアスティン


 ガンディスト。国民はみな、暴力を嫌い、平和に過ごしている穏やかな国。危険なことが及ぶことはない、ね。わたしがカンラートと初めて訪れてとても腹が立った、胡散臭い国家だわ。嫌だけれど、今はアスティンもいるし、皆もいる。それだけで安心だわ。


「ルフィーナが嫌なら俺だけでも行こうか?」


「どうしてそんなことを言うの?」


「分かるから。俺、君の考えてることが何となく分かるんだよ。本当は来たくなかった国なんだよね? 君が嫌なら俺だけでも行こうかなって」


 アスティンてば、わたしとカンラートとのことがあってから、以前よりも急に格好良くなったし頼れる人に変わった気がするわ。どうしてこんなにもあなたにドキドキしているの? わたし、どうしちゃったの。


「い、いいえ。二人で行きましょ。アスティンはわたしと一緒じゃなきゃ駄目なの! ふ、夫婦なのよ? あなたが傍にいなくてどうするの!」


「ずるいなぁ君は。そういうわがまま、俺が嫌なはずがないのに。傍で君を守らせてもらうよ」


「と、ととと当然よ! わたくしを守るのがアスティンの役目なの! 傍にいてね……あなた」


 本当にどうしてそんな恥ずかしいことを簡単に言って来るの? カンラートよりも恥ずかしいセリフなのに、何だかすごく……くすぐったいわ。 


「姫さんはアスティンに惚れ直してしまったんだな」


「セラ、な、何を言うのかしら?」


「いや~昔とは逆になっちまったな、と。今は姫さんの方が幼い……いや、少女に戻っちまった気がするよ。だからといって姫さんらしさは失われたわけじゃないけどな」


「も、もちろんよ。それだけは譲れないわ! セラも頼りにしているのだから、気を入れなさいね」


 気を入れる。これもカンラートの言葉ね。不思議……今では彼の言葉が思い出のように浮かんできているけれど、だからといって胸が苦しくなるような思い出ではないわ。アスティンを感じているからなのね。


「……きらい」


「ん? どうした、ハズナ?」


「王女さまを弱くする男、きらい……よわいくせに」


「弱くなんかないさ。王女は以前よりもお強くなられた。弱く見える、見せているのはきっと彼の傍にいるからだろう」


「……」


 やれやれ、姫さんもものすごい厄介な子を同行させたものだな。アスティンをあっさりと倒した幼きヴァルキリー。王女だけに絶対服従する子供……何をしでかすか分からないな。


「ん~、夫婦で新婚で、王女と副団長か。いいねぇ。俺にもいればよかったんだがなぁ」


「ハヴェル殿はそういうお人が欲しい方だったのですか?」


「お? テリディアちゃんは俺に興味がおありで?」


「ありません」


「ぐはっ。即断だな、いたわってくれてもいいじゃねえか」


「わたくしはルフィーナ様のモノです。男に心を許すことはあり得ません」


「王女様か。それは分かるが、アスティンはいいのか? 王女さん、アスティンにあんなにくっついているが……」


「アスティンはルフィーナ様の夫君で、殿下です。そういう目で見てはおりません」


「くーー、キッツいねーちゃんだな。面白い。ずっとそうしていられるのか、俺が見極めてやるぜ! はははっ!」


「……ふん」


 ジジイと言ってもハヴェルって確か、カンラートより少し上くらいだったかしらね? あの髭を失くしたら、もしかしたら彼にもお相手が見つかるかもしれないわ。素顔を見てみたい、そんな面白さがあるからこそ同行させたのだけれど。何よりも、アスティンの良き理解者だわ。いくらアスティンでも話し相手の男性がいないときっと、寂しいはずだし。やはり髭騎士がいてくれて良かったわ。


「ルフィーナ、国内に入ったらすぐに謁見するよね?」


「そうね。そうするわ」


「分かった」


「セラ。あなたたちは城の入口で待機なさい。謁見の間へはわたくしとアスティンだけで進むわ」


「承知致しました。では、そう致します」


「ええ、お願いね」


 あのあざとい女王は健在なのかしら。話し方がどうにもわざとらしくて嫌なのよね。でも今は、アスティンが傍にいる。彼と一緒ならきっと大丈夫ね。


「よくぞ参られましたわ。あなたはルフィーナ姫、いえ今はルフィーナ王女でしたかしらね?」


「ええ、そう言うあなたはアレハンドラ女王だったかしら。相変わらずですのね」


「ふふふ……子供だったあなたも、多少は大人になったのかしら? わたくし、あの時の傷がまだ癒えておりませんことよ? あれには温厚なわたくしでも騒ぎを起こすほかなかったですわ」


「(ルフィーナ、傷ってなに?)」


「(さ、さぁ……何かしらね)」


「あら? その御方はあなたの騎士様かしら? お初にお目にかかりますわ、わたくしはガンディスト国の女王アレハンドラなのですわ。よければ此処へ来て口づけを頂けないかしら?」


「え、あ……は、はっ!」


 あぁ、そっか。女王……国の女王にはお近づきの印を残すんだったかな。うっかりしていたな。


「……って、あれ? 進めない?」


 女王の近くに向かおうとした俺はどういうわけか、前に進めなかった。原因は……


「ル、ルフィーナ? ど、どうし――」


「駄目。行ってはダメ! アスティンはわたしの傍を離れないで。離れちゃ駄目なの!」


「え? で、でも……」


「あらあら、随分とわがままな王女様に成長なされましたのね。何を恐れているのか存じませんけれど、騎士様はわたくしの手の甲に口付けを落として頂けるだけでいいのですことよ? 若き王女様にはそれが分からないのかしらね?」


「だ、黙って頂けないかしら……この騎士は、アスティンはわたしのモノなの! あなたに口付けを落とすことをわたしは許した覚えは無いの! そんなことをしなくてもいいのではなくて?」


「ルフィーナのモノ……い、いやぁ、照れるね」


「ホホ……貴方、騎士様の御名前をよろしくて?」


「私めは、ジュルツ国王立騎士の1人、アスティン・ラケンリース副団長にござりまする。貴女様にご拝謁出来て幸いにござりまする。誠に申し訳ございませぬが、我が王女ルフィーナのめいには逆らえませぬ。私めは我が王女以外の御方には触れられることを許されておりませぬ。此度の口付けが叶わぬこと、お許しくださりますようお願い致す」


「……ふふ、騎士様に免じて王女の無礼な振る舞いは咎めませぬ。二度目にも関わらず、斯様なことをされて温厚でいられるほどの猶予は残っておりませんでしたけれども、いいでしょう。ルフィーナ王女、貴女は騎士アスティンによって救われたこと、胸に刻んで早々に我が国より出てお行きなさい。よろしくて?」


「すぐにでも出て行くわ! ですけれど、誤解なさっては困りますわ。我が国は、隣国である貴女に敵意などありませんの。そのこと、ご理解頂きたいわ」


「ええ、存じておりますわ。では、ごきげんよう。わがまま王女さん」


 あああ!! やはり相容れない女王だわ! アスティンがいなかったら間違いなく来なかったわ。アスティンだけ行かせなくて正解でもあったのね。変わってないわ! わたしもあの女王も!!


「ルフィーナ、あの女王様に何をしたのか教えてくれるかな? 確かカンラートと一緒にいた時の方だよね?」


「そうよ。カンラートが必死に止めようとしたのを覚えているわ。それでもわたしはあの態度、あの胡散臭さに腹が立ちっぱなしだったの! だから引っ掻いてやったの。女王を!」


「えっ!? 傷が癒えてないって、ひっかき傷のことだったの? あれ、でも……7年も経っているのに傷がまだ残ってるなんておかしいよね」


「アスティン、女の爪のひっかき傷はそう簡単には消えないわ。だからアスティン……女王だろうが、王の娘であろうが、心を覗かせてはダメよ? あなたはわたしのモノなのだから」


「は、ははっ……い、嫌だなぁ。俺は最初からキミしか見えてないんだから。それに君のわがままな所も含めて好きなんだ。君は俺だけのモノだよ」


 ずっと近くにいた女の子、ルフィーナ。数年は離れ離れになっていたけど、婚姻を果たして一緒に暮らすようになって、それでもどうしてだろう? 


 君は出会ったばかりのルフィーナちゃんの様に強気を見せてはいるけど、こんなにも離れがたく抱きしめてあげたい、守ってあげたいと思うのは王女と言うだけでなくて、あの頃以上に君のことが好きになっているからなのかな。君こそ、もう誰にも渡したくないよ。君は俺のルフィーナちゃんなんだ。

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