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127.温情と戒めの騎士と別れの恋に


 ルドライト宿場――


「そ、それではアスティンは、惑わしの術にかけられて連れて行かれたと申されるのですか?」


「うむ。あの国ならやりかねん。お主も王女が姫の時に手痛い目に遭ったからこそ、分かることだと思うが……攻めて来ぬとしても、内外において油断の出来ぬ国なのだよ。それ故、嫡子のアスティンには注意を払うべきであったのだが」


「あいつはこの地において、辛い恋を経験しておりまする。それも全て、姫……いや、ルフィーナと離れた時にございます。そのことを思い出させられているのならば、心は残ることがないでしょう」


「その通り。敵の狙いは心を無くした騎士を戦力に取り込むことにある。冷酷な国に感情を持った兵隊は要らぬからな。今頃アスティンはその心を女に奪われている最中なのだろう……事は急を要する。向かうべき所は承知している。故に、どうすればいいか迷っていたのだがお主たち騎士団が来てくれて有難く思う」


「いえ、これも団長の務め。そして、兄騎士としての役目でございまする。では、ヤージ殿は共に来て頂けるのでございますか?」


「いや、たとえ惑わしの術が使えても、女一人だけでこの町に来ていたとは思えぬ。この町を隈なく歩き、黒幕を捕らえるとしよう。カンラート殿は騎士団の中から数人と、我ら先遣隊の中から誰かを連れて行くがよい」


「はっ! すぐに」


 ルドライトの町でアスティンは惑わしの女に心を許し、どこかへと連れて行かれてしまった。行動を共にしていたドゥシャンの失態とも取れたが、傷心のアスティンの心までは気付けなかった。


「さて、近衛騎士マフレナ。騎士団は大所帯なのだが、お主たちは見習い騎士とヴァルキリーがいる。誰を連れて行くか決めているのか?」


「そうですね……ドゥシャンはあり得ないとして、ルカニネの力は必要と思います。出来れば、アスティンを理解し、アスティンのことを想っている人物を連れて行くべきかと思いますが……」


「あ、あぁ、ドゥシャンだがあいつには王命が下されてな。奴はこの地を早急に離れねばならん。まずはそのことを伝えることにする。騎士エイトール、ドゥシャンを呼んでくれ」


「は!」


 少しして、ドゥシャンが姿を見せた。彼の近くには何故かルカニネの姿があった。


「な、何だよ、カンラート」


「騎士ドゥシャン。お前はこれより、先遣の任を解く。その後すぐに、かの国へ向かえ。これは王命だ!」


「な、なに!? お、王命? どこの国に……」


「なお、この王命によりお前はジュルツの騎士ではなく、かの国の騎士として務めることとなる。今後、家族に会いに行く以外、ジュルツに戻ることは許さぬ……以上だ」


「……そうか、やはり王女にしたことが関係しているんだな。そうなんだろ?」


「……ああ」


「分かった。その国ってのは俺の知り合いはいるのか?」


「ベニートを覚えているか? 奴とは仲がいいと聞いたぞ。そこがお前の国となる」


 騎士ベニートがいる国。そして、ルフィーナの姉として長くジュルツにいたフィアナ王女。彼女と彼のいる地図無きリーニズ。騎士ドゥシャンへの戒めと温情。これがかつての団長アルヴォネンが下した命じでもあった。


「はっははは……そうか。あいつか。それなら退屈しねえな。なぁ、カンラート」


「ん?」


「ジュルツの親も連れて行くのはいいのか? それと……」

「家族の同意を得るなら一度戻ってもいいぞ。む? あ、あぁ、存分に話せ。俺は外の様子を見て来る」


「おい、ルカニネ。お前、俺と一緒に来る気はないのか?」


「何故?」


「お前が好きだからだ! お前が嫌じゃ無ければ俺は、ルカニネと酒を飲みながら暮らしたい」


「あー……ドゥシャンのことは嫌いじゃないけど、わたし、ヴァルキリーだし。いっしょに行くのは無理。一緒にどこかの国に住むってことは、そこで国を守りながらってやつでしょ? んーそれは嫌かな」


「そ、そうかよ。お前ほど気の合う女はいないと思ってたんだが……そうかよ」


「ヴァルキリーって、そういうものだから。でも会いには行けるし、それでいいよね?」


「そ、そうだな。そんじゃ、俺はその国で楽しくしながらいつでも待っててやらあ!」


「ま、気長に待ちなよ。わたし、まだ若いし。ヴァルキリーとして駄目になったら行くし。ま、その前に嫁さんとか見つけたらそれはそれでいいんじゃない? わたしにこだわらなくてもさ~」


「俺はルカニネ。お前がいいんだよ! 俺がずっと一緒にいたい女なんだよ。一緒に行きてえよ、ちきしょう……俺がバカやったばかりに、くそっ――」


「ドゥシャンのその剃り上げた頭。その毛がまた伸びまくったら、会いに行くかもね? じゃ、わたしはカンラート様の所に戻るし。頑張りなよ、ドゥシャン」


 ルカニネはドゥシャンの額に軽く口づけを落とし、場を去った。残されたドゥシャンは、ガラにもなく涙を流していた。好きな女の傍にいたかったその想いと、ジュルツを離れなければならないことをしてしまった自分に対して、涙が止まることが無かった。


「ドゥシャン、お、俺を見ろよ。俺も妻はあのヴァルキリーだぞ! しばらく会えないどころか、会ってもロクな扱いは受けないんだ。お前もまぁ、アレだ。俺のようにだな……」


「はっ、誰がてめえなんかを見習うかよ! てめえはもう少し小言を減らせ! そんでもって、その……正気を失ったアスティンから途中で離れるのは悔しい事だが、あいつが戻ったらよろしく言っとけ!」


「ああ、分かった。じゃあ、達者でな」


「騎士である以上、カンラート! てめえも訪れるはずだ。そうだろうが! まぁいい、俺は行く。じゃあな、友のカンラート」


 ルフィーナに手を上げかけたドゥシャンの咎めと戒め。ジュルツの騎士としての誇りをもって、ドゥシャンは、この地を離れた。


「……致し方無かった。すまぬな、ドゥシャン」

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