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124.親交者の静寂な訪問:後編


 眠ったままのわたしでもこの声の主が誰かなんてすぐに分かった。何度も訪れているし、何だかんだで必ず訪れる国、それがミストゥーニだから。


「さぁ、ルフィーナ王女。あなたの眠りを覚ます為に、あなたを連れて行きますわね……」


 もしかして抱きかかえられてしまうのかしら? 聞いた感じではディーサ様の声しか聞こえて来ないけれど、アダリナやミラグロスは一緒に来ていないのかしらね。


「――失礼してお連れしますわ」


 そうしてわたしの体はディーサ様が抱きかかる、そんな時だった。それまで反応の無かった彼女の殺気がひしひしと感じられた。それまで眠らされでもしていたのか分からないけれど、わたしを抱きかかえる女王に向けて、いつもと違う声色を発している。


「ルフィーナをどこへ連れて行く……貴様はミストゥーニの女王か。怪しいと思って気配を殺して見ていたが、やはり貴様が王女に何かをした。そうだろう? ディーサ女王よ」


 静かだと思っていたけれど、シャンタルはわたしの傍を離れて様子を窺っていたのね。その辺りはさすがなのね。


「ふふふ……あなたは王女を守護するヴァルキリー……だったかしらね? わたくしをどうするおつもりかしら?」


「戯言を抜かす前に、ルフィーナを返してもらう。従わねば、いかに女王であろうとも我は許さぬ」


「危害を加えることなんてありませんのに。そんな無防備なわたくしに刃を向けられるのでしたら、さすがに黙ってはいられませんわよ? そうですわね……ルフィーナ様の国全体を深い霧で覆って差し上げますけれど……それでもよろしいかしら?」


「霧ごときが何をするというのか」


「そうですわね、さしずめジュルツには一切、外敵を入らせないと言った所かしら。つまりは、他国に遠征しているジュルツの騎士たちは二度と帰って来られないという意味ですけれど、それでもよろしくて?」


「ちっ……」


 そう言えばディーサ様は霧の女王だったかしらね。レナータの王国もミストゥーニの霧で守られていると聞いたことがあるわ。国交を望まない王国ならともかく、わたしの国はそれでは成り立たないわ。駄目よ、シャンタル! ここは引いてディーサ様の言うことを聞くべきよ。


「シャンタル様、何事でございましょうか!」

「王女様! あ、あなたは何者なのですか?」


「うふふ……騎士団の彼女たちにも守られておいでですのね。いいでしょう、ここには役者が揃っておいでのようですし、朝を待ってお話を致しますわ」


「朝だと? 我に見つからなければ連れて行こうとしたではないか。どういうつもりがあるのか、答えろ!」


「ルフィーナ様の眠りを覚ます……いえ、お体を休めて頂くには我が国ミストゥーニにおられることこそが一番なのですわ。だからこそ愛しの騎士様には早くお会いになるべきではなかったですのに」


 そう言えばそうだったかもしれないわ。当初はミストゥーニで再会する約束をしていたけれど、わたし自身が待ちきれなくて会いに行ってしまったのよね。もしかしてそれが体に何かの異変をもたらしてしまったとでもいうのかしら。


 それが分かっていて、ディーサ様はジュルツを訪れるだなんておっしゃっていたというの?


「それが分かっていながら、どうして無理にでも説かなかった? ミストゥーニで言うことも可能だったはずだ!」


「ふふ、あなたも知っていることと思いますけれど、言うことを素直に聞く方ではないでしょう? ですからわたくしは、後ほどジュルツに伺うことをお伝えしておりましたわ」


「アスティンに早く会ったことがルフィーナに何かを及ぼしたというのか?」


「ええ、アスティン様。彼は本来、会わないはずの方や世界を見て来られた若き騎士様。その影響を、旅疲れのルフィーナ様にも与えてしまったのです。ヴァルキリーであるあなたにはその影響は及ばないことでしょうけれど、ルフィーナ様には及ぶのです」


「魔法……か? やはりそうか」


 ディーサ様の霧は魔法ではないのかしらね。それでも魔法の王国よりも強い霧なのだから、それ以上の何かの力ということにも聞こえるわ。それにしてもアスティンにはもちろん、罪は無いのだけれどわたし自身の過ちでこうなったのであれば何も言えないわね。


「――理解はした。それはともかくとして、ルフィーナをベッドに戻せ」


「いいでしょう。朝になればきっと彼女が名乗りを上げることでしょうし、わたくしをそこまで危険視しなくてもよろしいですわ」


「彼女? ともかく、貴様に油断はしない。それだけのことだ」


「心得ましたわ」


「レティシア、アグスティナ。お前たちは騎士団の筆頭を呼べ。我は陛下にお声をかけておく」


「は!」

「かしこまりました」


「ルフィーナ様、目を覚まされたら騎士たちや国のこと、大変でしょうけれどあなた様ならきっと大丈夫ですわ」


 ディーサ様にも心配をされてしまったわ。それほどまでに過剰に守護されているということでもあるのよね。過保護にアスティンを守るカンラートのことを言えないわ。わたしは強くならなければいけないのよ。

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