110.草原国の若き者たち:後編
「あ、あのー……親とかも一緒に連れてったら駄目ですか?」
「ん? 何だ、そんなことか。もちろん歓迎するぞ。人は多ければ多いほどいい。共に国を大きくして、頑張ってもらえれば俺も嬉しいからな」
「やった! お、俺、国の為に頑張りますんで、ヒゲが伸びても多めに見て下さい!」
「はっはっは! ハヴェルヴィジュズか。気に入ったぞ! いずれ騎士となれた時には大いに働いてもらうとしよう」
「ははー! 王様の為に頑張るよ」
若き者たちとその家族を誘うことが出来て良かった。しかし、幼き王女のこともある。出来れば女性も多く国づくりに協力して欲しいものだが……。
「タリズよ、ハベリーダには女性があまり見られないようだが、王女の世話のことも考えると必要だと思うのだが……」
「ではハベリーダの王と話をするとしましょうか。私の旧友ですので、女性たちのことも何とかしてくれるはずですよ」
「ほう! そうか。では強そうな女性も頼むぞ」
「王を……いや、ソルゾ坊ちゃんの為と、幼き王女を世話する人材ということですかな」
「ああ、頼む」
それにしてもこの男、どれほどの人脈と知識と強さを兼ね備えているのかまるで読めんな。庭師としていてもらうには余りに惜しいが、それがジュルツに来るための条件でもある。俺が頑張るしかないだろうな。
そしてハベリーダの王女に面談をすることが叶った。国として成り立っているかは怪しい所だが、草原の者たちが大樹のジュルツを育てて行く。これは有り難い事に相違ないのだ。
「国づくりをされているようですね? アソルゾ様。わたくしはリプル・ネシエルですわ」
「ああ、そうだ。ジュルツを大国として作っていきたい。すでに誘いをかけたが、草原国の若き者たちも共に行くことになった。それについて許してくれぬか?」
「タリズの頼みとあらば、首を縦にするしかありませんね。それでは、わたくしも……いえ、ハベリーダそのものをジュルツに遷すというのはいかがですか?」
「く、国をジュルツに遷して、ハベリーダは消滅させるということですか?」
「ええ」
「し、しかし……ここの者たちは納得をされますか?」
「ふふ……我が国は、元々移動国家ですわ。それが一つの場所になるのであれば、民も落ち着けることでしょう。何より、ジュルツは森の国。まさにうってつけの場所ですわ。我が国がジュルツになるのであれば、周辺の小さき村や町の民たちも賛同し、集まることでしょう。アソルゾ様が望まれている女性たちも多く集まりますわ」
なんと大胆なことを考えるのだ。確かに理に適うものではあるが、まさか国を遷して消滅させるなど、俺には考えることすら出来なかったことだ。
「では、リプル王女はどうされる?」
「民として国に尽くしていきますわ。もちろん最初は、国王を立てるための働きに尽力してまいりたいと思っていますけれど、城が建った際には民として生きて行きたいですわ。ただ一つ、お願いしたいことがありますが、よろしいですか?」
「何でも聞きますぞ」
「騎士国としてジュルツが成り立った時には、我が娘……と言っても、まだ幼子ですけれど騎士にして頂きとうございます。わたくしに代わって、娘には国の為に王の為に生きて欲しいのです」
「分かりました。俺が……いえ、このアソルゾが王となったあかつきには、リプル様の愛娘を騎士として認めますぞ。なに、騎士にはすでに最強にして人格も最高の男がおりまする。その男の下で動けば必ずや、立派な騎士になることでしょう」
「そう願いますわ。では、急ぎまとめる準備を致しますわ」
「よろしくお願い致す」
これで俺の方はジュルツに戻れるか。タリズがいなければこうすんなりとは行かなかったはずだ。良き出会いを果たせて俺は恵まれている。後は、アルの奴にも期待をしたいところだ。
「アソルゾ様、幼き王女様にお会いしても?」
「そうして頂けると助かりまする。亡国より救い出してきたのですが、ろくに言葉を発しませぬ。もちろんまだ小さな娘ではありますが、心を閉じたままなのです。いずれ帰すにしても今のままではどうにもなりませぬ。リプル王女にこんなことまで頼むのは心苦しいですが、俺ではどうにもならぬのです」
「お任せくださいませ。幼き王女様の心は、徐々に開かせてみせますわ。もちろん最終的には、国王である貴方様が娘としてお育てになられませ」
「分かりました。ではお願い致す」
リーニズの王女と、いずれの我が娘。血の繋がりに関係なく、姉妹として育ってくれたらいいのだが。ともあれ、国づくりとしては良き方向に進めそうだ。後は騎士だ。騎士の事は奴に任せるとしよう。




