11.守護騎士の役目
王女であるわたしの宣言に国内の一部は少しだけ動揺し、驚きも見せたけれど特に目立った混乱は見られなかった。それと言うのも、ルフィーナという名は姫の頃から有名だったから。
「ルフィーナちゃんがアスティンと駆け落ち!? いや、すでに婚姻してるからハネムーンか」
「王女になっても変わらないルフィーナ様には、もっと世界を見て来てもらった方がこの国の為になるのやもしれぬな……」
「いたずらに磨きをかけて、わがままもさらに増やしてくるつもりなのだ、きっと」
などと、心配をする国民、騎士たちなんていなかった。
「もう~~!! 何なの? どうしてジュルツのみんなは納得しちゃっているの! さんざん迷ったわたしは何だったのかしら」
「フフっ、それだけみなに愛されているということなのだろうな。わたしは初めてあなたを見かけた時から、その輝きから目を逸らすことは無かったぞ。ルフィーナは、幼き姫の頃から国民から好かれていたのだ」
「そんなの、初めて知ったわ! いたずらばかりしていただけよ」
「姫とはそのようなものだ。国民の子でもあるからな。それに次いで、姫にくっついていたアスティンも愛されている。もっとも、アスティンは知らず知らずのうちに女性を夢中にさせる魅力があるがな……」
アスティンの魅力なんて出会った時から気付いていたけれど、女性を夢中に? それって、お姉さまご自身もそうだったということなのかしらね。やっぱり危険ね。アスティンは傍に置かなきゃ駄目だわ。
「ルフィーナ。そろそろ儀を始めようぞ」
「ええ、そうね」
儀と言っても大袈裟なものでは無く、王女に付き従う者たちを知ってもらうために、その名を公表するだけのもの。それにより、国民の感情や城中の兵たちの不安と心配を抑えることが出来るからだ。
「ではこれより、我が女王ルフィーナ・ジュルツの命により、付き従いし騎士たちの名を発することとする」
「アスティン・ラケンリース副団長、此処に」
「ははっ! このアスティン、王婿に恥じぬ役目をご覧にいれることを誓う」
ふふっ、アスティン殿下……になるのね。何だか可愛いわ。
「私、セラフィマ・ニーベル近衛騎士は身命を賭して、王女様をお守り致すことを誓う」
セラともこうして長い付き合いとなるのね。わたしにもヴァルティアお姉さまにも似た所があるから、近くに居てくれて最高に嬉しく思うわ。
「ヴァルキリー、テリディア・ジュリアート、ハズナ・イニバーゼ。両名共に、王女に従い守護する者として、同行するものである」
「わたくし、テリディア・ジュリアートは王女に従いし者なり。ヴァルキリーに恥じぬ動きをご覧に差し上げて見せる」
「ハズナ……ルフィーナ王女さまのみ、従う」
「こ、子供?」「あの子供もヴァルキリーなのか」「テリディア様はお美しい女性だ」ざわざわと、城中に集まった者たちで騒ぎの声が上がっている。
「みなの者、静まりなさい! 王命……わたくしの命で決めた者たちよ。文句があるなら言いなさい! いつでもそこのカンラートが相手になるわ! ねえ、お兄さま?」
「むっ!? う、うむ。王女の命に逆らいの心を持つ者がいれば、俺が相手となってやろう!」
騎士団長カンラートの言葉で騒めきはすぐに収まった。年齢を重ね、シャンタルの夫となってからは貫禄を見せ、前団長のアルヴォネン・ラケンリースに負けぬ顔つきで、風格さえ感じられる雰囲気を醸し出していた。
「では最後に、ハヴェル・ヴィジュズ。これへ」
「は。えー、俺はこんなナリだが、王女様と殿下に逆らうことはあり得ない。この髭に誓って宣言する!」
「はははっ! ハヴェル頑張れよー!」「俺も髭生やしてりゃあ出世出来たかもな」ベテラン騎士の中にあって、年齢も態度も変えることのないハヴェルも騎士たちからの信望は厚かった。
「以上、5名の騎士たちがわたくしに同行する。これにより、我が城はヴァルキリーシャンタル、団長カンラートが守護する。他の者たちも、いずれ召集がかかることを胸に留めて日々の鍛錬を怠ることなくお過ごしなさい!」
『はっ!』
召集をかける事態にならないことを祈るばかりだけれど、まだ見ぬ世界、国には脅威を示す所が無いとも限らない。だからこそ、残る騎士たちには厳しい言葉を残さなければならない。
「ルフィーナ、聞いてもいい?」
「なぁに? 珍しいのね、アスティンから聞いてくるなんて」
「同行騎士の中に、ドゥシャンとルカニネがいないのは何で?」
「あら? アスティンは気付いていないのかしら。あのふたりの関係を」
「知ってるよ。想い合ってるんだよね?」
アスティンなのにすでに知っていたのね。それほど分かりやすい関係なのもどうなのかしら。そうだとしても、争いの可能性を連れて行くことは避けなければならないわ。
「ええ、合ってるわ。だからこそよ。すでに知っているかもしれないけれど、彼女はヴァルキリーよ。そして、彼は騎士。ヴァルティアお姉さまとカンラートに似ているようで全然、異なるふたりなの」
幼き頃に出会って決めた婚約と、すでに成人してからの恋模様ではまるで違うわ。
「どの道、ルカニネは戦いに出て行かなければならない者よ。でも、騎士は護ることが役目なの。戦う者と守護する者が一緒にいられないことは、アスティンもずっと見て来ているはずよ? そのこと、よく思い出して欲しいの」
「う、うん……わ、分かったよ」
「いい子いい子、だから大好きアスティン。それにね、わたしに付き従って動くということはいい面も悪い面もあるの。あなたはわたしの旦那様だけれど、他の子たちはそうではないわ。好きな人がいたとしても、ずっと一緒にいられなくなるし、想い合うことが途切れないとも限らないの。わたしもあなたも、そんな期間があったはずよ? 守護騎士のドゥシャンは、あなたに似た性質を持っているとも感じられたわ。だから、連れてはいけないの。納得してくれた?」
「俺はキミの言葉を疑わないよ。うん、分かったよ」
「ありがと。それじゃあ、明日には出立をするけれど、心配事は無いわよね? もしあるのなら、残していてはダメよ。いつ帰還出来るかわたしにも分からないもの」
「うん。俺は無いよ。キミこそ、残すことなく決意を固めておいてね。その……カンラートに伝えることがあるんでしょ? キミの言葉を」
気付いていたのね、アスティン。それでも責めないで信じていてくれただなんて、わたし……きっともう、あなたなしでは生きられなくなるわ。見習い騎士の頃からずっと、アスティンのままなのね。
「好き……大好きよ、アスティン!」
「うん、俺も大好きだよ、ルフィーナちゃん」
彼の言う通り、明日の出立までにカンラートに想い残しの言葉を伝えに行かなきゃね。アスティン、わたしの王子さま。あなたと一緒になれて良かったわ。愛してるわ、アスティン。




