109.草原国の若き者たち:前編
「アソルゾ様、この子は我らだけでは守り通せませぬぞ? 今は信頼のおける国に面倒を見てもらうか、あるいは……」
「い、いや、俺が助けると決めたのだ。面倒を見てもらうのではなく、その国の者たちもジュルツに誘いたいのだ。人が集まらぬことには、国づくりもないからな」
「ふむ、確かにそうですな。では若者に呼びかけるとしましょうか。新たな国で従士になる心があるならば、共に行こうと。どうですか?」
「従士? それは何だ?」
「騎士でも無ければ兵士……いや、駆け出しの者たちですよ。アソルゾ様に付き従う者たちと言えばいいですかな。その代わり、あなた様は従士たちに恩恵を与えるのです。そうでなければ国に尽くしてくれなどと言えませんよ」
「む、そうか。ではまずは人を集めるとしようか」
俺とタリズは、幼き王女と共に内乱中のリーニズから離れた。言葉を発することのない王女のことが気がかりではあるが、今はひとまず草原国家を目指して進むしかない。
数時間歩き続けた俺たちは、道中で賊の縄張りをすり抜けながら、どうにか草原国家ハベリーダに着くことが出来た。
国家といっても、自然の中に小さなテントがいくつか点在しているだけで、その地に長く居続けている訳ではなさそうだった。
簡単に言えば、常に移動を繰り返す国といっていい。基本は草原など、環境がいい所に留まることを好んでいるようだ。
「ソルゾ坊っちゃん、ここの若者たちは力に優れております。多少、言葉は悪いですが……騎士の適性はあるかと」
「ほぅ! そいつらはどこかに長く居つくことを望んでいるのか?」
「そう聞いたことがあります。自由に移動してその日暮らし。確かにそれもよいのでしょうが、本音は違うのではないでしょうか」
「分かった。片っ端から話をつけてこよう」
一国の術士と聞いていたが、タリズはただ者ではないようだ。彼がいてくれなければ、ろくに国づくりもままならなかっただろう。
そして彼らと出会えた。小生意気な態度だったが、強くなりそうな子供らだった。
「名は?」
「ヴィジュズ。そいつはスィーン」
「それは親の名前か? ならば、お前たちに名を与える。ハヴェルヴィジュズと、ドゥシャンスィーンだ。まずは従士として俺の為……いや、国の為に働くのだ。さすれば、いずれ騎士として働けるようになるだろう」
「そうすりゃあ、自由か?」
「ある程度は自由だ。ドゥシャン、頼むぞ!」
「分かった。よく分からねぇけど、やってやらあ」
「俺もあんたみたく髭を生やしていいのか?」
「ははは、髭の騎士というのもいれば面白そうだな」
やや口の悪い二人の少年と、それ以外にも国に行きたいと行ってくれた者たちも一緒に連れていくことにした。
「あのおっさんは誰だ?」
「ああ、彼は……」
「なかなか頼もしき若者ですね。私はタリズ。ジュルツでは庭師を務めさせて頂きます。君たちも頑張りなさい」
「あっ!? タ、タリズさん?」
「人違いでしょう。まあ頑張りなさい」
タリズと草原国家の若者は顔見知りか。それはともかく、国の為に尽くすなら是非頑張って欲しいものだな。




