107.我がジュルツのために
我は騎士を志した者。生まれた国を出た時には死ぬまで騎士を全うするのだと決めた。両親は王族でも無ければ、貴族でもない。だが、誇りを常に忘れない騎士だった。だが人を一切信じず、心を動かさなかった。
これが命を落とすきっかけであり、認められなかったことでもある。騎士は単に剣や槍を振ればいいのではない。人心を掴み、信頼し、心を以って生きて行かねばならぬ。心を掴まなければそれはただの人だ。
我が国の騎士はそれほど多くなく、せいぜいが城の中の王を守っていたに過ぎなかった。力を示す機会は決して多くなかったのだ。それでも、民と王のいざこざは常に起きていた。つまりは、民からの信用を得られなかった王国だったのだ。その国に生まれ、両親が騎士を務めた姿をならい、そのまま我は騎士を志した。
民が反乱を起こした時、騎士見習いの我にはなすすべが無かった。非力な我に何が出来ようというのか。ただ一つの誇りは、人心は掴めなかったが我を必死に護り、その場で命を落とした両親のことだ。
王はその場で処され、騎士の残りも民たちによって命を落とされた。かろうじて我を外へと逃がしてくれた騎士は、「心を掴み、最高であれ」そう言い残して果てた姿で門に倒れた。
最高の騎士か。ならば、なろう。剣も槍も弓も、馬を操ることさえも全て、最高の騎士として名を馳せてやる。俺はアルヴォネン。どこかの国で騎士として全う出来るなら、それが両親、果てた騎士たちへの贐となろう。
とにかく世界を旅した。世界はただ広く、一人の騎士ごときでは大きく動かないことを知る。道中において、国として成立してはいないが、興そうとしている者と出会った。城らしきものは無く、我の目に映ったのはとてつもなく広大な森と大樹であった。その地は貴族王族がひっそりと暮らす地であったようだ。
どこぞの国と違い、さして派手な貴族でもなければ裕福に暮らしているわけでもない。そこに居着いているだけの者たちとだけ見えた。だがそこには確実にいたのだ。王族でありながら、何かの野望を秘めていた奴が。
「おう、あんた旅の騎士か? 酒はイケるか?」
「ああ、頂こう」
「どこから来た? 名は?」
「我の生まれた国などどうでもよかろう。名はアルヴォネンだ。お主は?」
「ジュルツの地に生まれた王の子。俺はアソルゾだ。騎士でも無ければ、名声もないがね。まぁ、飲もう」
アソルゾ。こいつとの出会いで我の道は定まった。騎士の王国を我の手で作り上げられるならば、亡き親の意志さえも示せるのではないだろうかと。
「愉快な日々だな。そう思うだろ? アル」
「ア、アル? まぁいい。確かに今は愉しい。だが、戦乱とはいつ起こるか分からぬ。王族貴族はその日暮らしでも構わぬだろうがな」
国が定まらぬ日々、我はアソルゾと毎日酒を酌み交わしていた。もはやそれだけの友といっていい。国こそ失わなかったが、両親と騎士は我の前で果てた。その光景は忘れようにも忘れられなかった。
愉しいという感情さえ、そう簡単になることはなかったのだ。それがこの王族アソルゾによって、我の心はいつの間にか苦しみから逃されていた。未だ騎士としての強さを磨いていない我に、何が出来るというのか。
「……アルは騎士、俺は王。どうだ? ジュルツで国を興してそこを騎士大国にしないか?」
「興味深い。だが、騎士一人で何が出来る? お前もただ一人の王族に過ぎぬではないか?」
「そこは人だ。騎士とは人の心を掴む存在だろう? 単純に守るだけのモンでもないだろうに。そして俺は王族だ。金ならある。それに俺にはすでに妃となる女もいるんだ。そいつと一緒になって、いつかは子を産み、姫を育てて行けばその子が王女となった時にはジュルツは大きな国として成長を遂げるはずだ」
「ほぅ? 騎士が人の心を掴む……か。何故それをお主が知っている? 誰かの教えか?」
「まぁな。剣術よりも学術の方に力を注いでたからな。知識だよ、そこは。それに国ってのはそこに住まう民や、兵士、王族。そして国を守る騎士。みなの心がまとまっていなければ、成り立たない。そうだろ?」
「ふ、なるほど。単なる酒好きでは無かったか。よかろう、我、いや、俺がお前の友として騎士大国の足掛かりを掴もうぞ。しかしそうまで野望を持っていながら何故、隠していた?」
「お前がどういう奴なのか探っていた。酒を飲むのは好きだけどな。まぁ、思った以上に愉しめた」
アソルゾとの出会いは我の野望……いや、望む道を定めさせた。奴は奴なりのやり方で国をつくろうとしている。ならば、我は騎士として注力せねばならぬ。血を見るのは我だけでいい。アソルゾ、そしてその子となるいずれの王女を我は守ろう。戦いの嫌な所は騎士が背負わねばならぬ。我がジュルツの為に。




