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103.王女たちの友誼

「魔法ですって!?」


「うん、わたしが唯一使える魔法なの。これでわたしもあなたも安全だから、あの騎士から何かをされる心配なんてないよ」


 気付けば眼前には、水か何かの空間がわたしと彼女の周りを包んでいるように見えた。はっきりと目に見えるわけではないけれど、透明な空間の向こう側には悔しそうにしている騎士の姿と、安心したような笑顔を見せている騎士の姿が見えている。声は聞こえて来ない。これが魔法の力だと言うのかしら。


「な、何だ!? 何も見えねえじゃねえか! おい、ルカニネ。お前の力でこれを何とかしてくれ。これはアレだろ? 魔法だよな? 同じのを王国で見たぞ」


「知らなーい。わたし、あなたとは関係ないし。どうしてあそこまであの騎士にムカついていたのかさえも理解出来ないんだけど?」


「そりゃあムカつくだろ! カンラートとハヴェルで男同士の戦いを楽しんでたんだ。それを邪魔したあのチビ騎士には痛い目に遭わせねえと気が済まねえだろうが!」


「い、いや、俺はそこまでは……」

「う、うむ……俺もドゥシャンほど本気では無かった」


「腑抜けた野郎どもだぜ。どいつもこいつもぬるくなりやがって」


 あらあら、あちらではまだ納得のいかない騎士がいるみたいね。わたしが騎士鎧を脱いで姿を見せれば、彼の怒りが一気に消え失せるんでしょうけれど、どうしたものなのかしらね。


「この中でなら、その重そうな鎧を脱いでもあっちからは見えないよ。だから、顔を見せてくれないかな?」


「あなた、ヒゲ騎士の?」


「うん、レナータ。ルフィーナ王女にずっと会いたかったの。あなたとお話がしたいな」


「そうね。このままアーマーを着けたままでは失礼ね……っしょっと」


 さすがにもう騎士の真似事をするのはやめなければいけないわね。暑いし、小ばかにされたし……何より、ジュルツの騎士に顔を隠している騎士なんていないのだし。


「……ふぅ。鎧なんてもう着たくないものね」


「わぁ! 綺麗! やっぱりあなたがそうだったんだ」


「な、何のことかしら?」


「わたしと妹が初めてジュルツに来た時に、あなたを見かけた時があるの。入れ違いだったし馬車の中からだったから、本当に見ただけなんだけれど、小さくて可愛いお姫様を必死に追いかける騎士様を見たの。それがあなた、ルフィーナ王女」


「ジュルツに来ていたのね。観光か何かかしら? 小さくて……それって、いつの頃の話?」


「わたしが12か、13の頃だよ。同じ歳だよね?」


 あぁ、あの頃ね。詳しい事をアスティンには伝えないまま、かたすぎるカンラートを急かしながら城を出たあの頃のことを言っているのね。


「そうね、同い年ということになるわ。間接的だけれど会っていたということなのね」


「うんうん、わたし運命を感じるの」


 馬車に乗って来た……ね。王国の王女が何かを探しにでも来ていたのかしらね。運命を感じるのは勝手だけれど、あら? あれはお姉さまだわ。それにアスティンも。何だかこれも初めて見る光景だわ。


「何の騒ぎだ?」


「何だようるせーな……あ――」


「ほぅ? 我に向かって戯言をほざくとは、貴様、ジュルツの騎士だったか?」


「は、はい……い、一応、そこのカンラートとハヴェルとは同期なんですが……それにいつぞやは、アスティンを介抱したことも」


 シャンタルは鋭すぎる目つきでカンラートとハヴェルを睨む。


「お、俺は騒ぎとは無関係だぞ? お前、そんなに睨むなよ」

「同じく……俺はアスティンを心配していただけで」


「て、てめえら、俺を見捨てる気か?」


「それで、あの魔法壁は何だ? 何が起こっている?」


「シャンタル様。わたしが説明します。あの中には我が王女様と、王国の王女がいますわ。あろうことか、ここにいるドゥシャンが王女様に危害を加えようとしたことで、ああした魔法壁が出来てしまったのですけど」


「なにっ!? 危害を加えようとした? 貴様がか?」


「へっ? い、いや、俺は顔を隠している偽物の騎士に、ちょっとだけしつけをしようとしただけで……お、王女様!? そ、そんな、まさか」


「ドゥシャンと言ったか。貴様はこの場で我が処罰してやろう。覚悟はいいな?」


「げっ!?」


 あぁ、お姉さまがわたしの為に怒りを露わにしているわ。アスティンは大人しくしているけれど、見習い騎士の彼女たちと一緒に叱られでもしたのかしら。


「ルフィーナ王女のお姉さま? でも、本当のお姉さまではないのでしょう?」


「ええ、わたしには本当のお姉さまなんていないわ。それでも、ヴァルキリーのお姉さまは昔は皇女だったということもあって、姉妹の契りを結んでいるの。それにたとえ、本当じゃなくてもお姉さまと呼べる人がわたしにはふたりもいるのですもの。そこに血の繋がりが無いだとかは関係が無いわ」


「素敵なのね。ねえ、ルフィーナ王女」


「待って、王女王女と呼ぶのはやめてくださる? 同い年なのだから名前だけでいいわ。あなたも王女でしょう?」


「今はただのレナータだよ」


「それならわたしもルフィーナでいいわ。あなたとわたしに王女だとか、そんな堅苦しさは無用よ! それでいいわよね、レナータ」


「う、うんっ! そ、それじゃあルフィーナ。友誼を結びましょ!」


「ええ、そうしましょ。あなたにも友愛の心があるみたいだし、それも何かの縁なのかもしれないわ」


 騎士の真似事をして、自分の騎士にやられそうになったけれど、意外な所で友と呼べる相手が出来たわ。こればかりは、ヒゲ騎士に感謝するしか無さそうね。今はヒゲを無くしてしまったみたいだけれど、レナータが惹かれたハヴェル。アスティンも懐いている理由がよく分かったわ。


 アスティンと再会した港町。ここは色んな意味で運命的な場所になったと言えるわね。これでようやくお城に帰ることになりそうだわ。後はあの騎士をどうすべきか、お姉さまにお任せするとしましょう。

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