10.新たな希望を胸に
わたしとヴァルティアのことは、カンラートが全て上手く収めてくれた。アスティンも副団長の言葉として付け加えてくれたことが決定的だった。
「副団長としての見分ですが、ふたりは仲良き姉妹関係。此度のことは、わがままな王女が勢い余って姉に向かっていたことの結末。シャンタル自身は一切、王女に手を出しておりませぬ。団長のお言葉通り、咎めなしとして皆にお伝え願いたい」
「ははー」
こうして黙って聞いていれば、アスティンはもうすっかりと騎士様なのね。すぐ傍にいたのに、遠くばかりを気にしていたなんてホントに駄目ね。
「セラ、供をしてちょうだい」
「は」
わたしも王女としてキビキビ動いて行かないとアスティンに負けてしまいそう。まだ見ぬ世界と国と人に、わたしから会いに行かなきゃ、きっと全てが変わっていかないわ。うん、決めた。
「ルフィーナ。して、わたしに話とは何だ?」
「お姉さまにお願いがあって来たの」
「改まって何だ? 何か問題でも起きたのか」
「お姉さまとカンラートとで、ジュルツを守って欲しいの。もちろんここには退位したお父様もいるし、アスティンのお父様、お母様もおられるわ。でも、だからこそヴァルティアお姉さまにお願いしたいの!」
「ルフィーナ様? 何を……?」
「ええ、セラ。あなたにもこの場で伝えるわ」
幼い子を育てるヴァルティア。彼女を愛して守るカンラート。二人が国にいるだけでも十分ではあるけれど、わたしはお姉さまとカンラート、アスティンとのことがあった後にやっとやりたいことが決まった。
「わたくし、ルフィーナ・ジュルツとその守護騎士アスティン。そして、セラフィマ、テリディア、ハズナそして、ハヴェル。彼と彼女たちをお供に、わたくしは外の世界へ向かうわ! それがきっとわたくしの役目なのだわ」
「えっ? わたしも共に付いて行かせてもらえるのですか。有難きお言葉にござりまする……」
「当然よ。セラはわたくしの近衛騎士。あなたはわたくしに忠誠を誓って傍にいるのでしょう?」
「ははっ」
「――ルフィーナ、それがあなたの決意? 迷わずに進むことにしたのね?」
「ええ」
「それならいいわ。ジュルツはわたしとアレとで強固にしておくから、あなたはあなたの道を進みなさい。そして戻った時には、あなたと彼との息吹を見せてちょうだいね」
「そ、それは何とも言えないわ。だってまだそんな……」
「ふふっ、遅かれ早かれ……そうなるわ。きっとね」
王女不在となってしまうけれど、最強のヴァルキリーと騎士たちが守護をしている。それが騎士の国であるジュルツ。わたしの国であり、生まれた国、家なのだから。
だからこそ、ふたりに託せる。そう確信した。
「出立なのだけれど、アスティンがまだ完全ではないの。だから彼が――」
「ルフィーナ、甘いな。お前はアスティンが好きなのだろう? だがそれと国策とは切り離すべきだ。すぐにどこかと戦うわけではあるまい。何より、セラをはじめとしたヴァルキリーたちと髭騎士が傍にいるではないか。アスティンは常にお前の傍を離れさせずに、体を休ませればいいのではないか?」
「そ、そうね。確かにそうだわ。彼はもう騎士で副団長なのよね。完全回復だなんてわたしらしくなかったわ! 決めたわ! 明日にでも出立の儀を行なうことにする。ありがと、お姉さま!」
「ふ……それでこそ、わたしが認めた強さ。ようやく輝きを取り戻したみたいだな。ならば、色々準備や伝達もあろう。ルフィーナは王として各々に命を下して来るのだ。きっと、反対する者などおらぬ」
「そうね! それじゃあ、行ってくるわね」
あぁ、やはりお姉さまはさすがね。カンラート、ヴァルティア……ふたりとの出会いはわたしとアスティンの運命をも左右させるほど大きなことだったのね。それが今、はっきりと分かったわ。
さぁ、忙しくなるわ~! ふふっ、カンラートと一緒に旅をした以上の想いと思い出をアスティンと作り上げて見せるわ。アスティンと常に一緒の旅だなんて、何て贅沢で幸せなのかしら!
「シャンタル様、よろしいのですか? その、王女を自由にさせるなど……」
「セラ。近衛騎士となってまでお前は、王女の傍にいたいのだろう? ならば、信じ続けていればよい。国内の事はアレがいれば問題ない。王女も駆け出し副団長も、まだまだようやく子供から抜け出したばかりに過ぎぬ。だからこそ、セラが必要なのだ。ルフィーナもお前を必要としている。そうだろう?」
「は、勿体無いお言葉にございます。私はあなたには程遠いですが、力の限りを尽くして王女を守り通し、再びジュルツに帰還することを誓わせて頂きます」
「あぁ、我が妹、我が弟を頼む。そして、若きヴァルキリーたちの動きを注意深く、気を付けてやってくれ」
「承知致しました。シャンタル様も、お体をご自愛くださいませ」
「ふ、お前らしくないな。セラは荒々しさがウリだろう? 外ではルフィーナの為に素を出して接してやれ」
「分かったよ、シャンタル。あたしにまかせとけ! じゃあ、あたしは行くよ」
「ふふ……それでいい。またな、セラ」
次にルフィーナに会う時には、我が子と仲良くして欲しいものだな。
「まぁ、ルフィーナちゃん。決めたのね?」
「そうですわ、ロヴィーサお母さま。それゆえ、お願いしたく参りましたの」
「守るって言うなら、最高のふたりがいるのでしょう? わたしはただの主婦で、アルくんの妻に過ぎないわ」
「それでも、お願いしたいの。お願いします。ロヴィーサ様」
「……そんなに簡単に頭を下げてはダメよ? あなたは王女なの。今度はアスくんを傍に置くのでしょう? それならあなたはやるべきことと、強い意志を保ってお過ごしなさい。いい?」
「分かったわ。わたし、きっと遂げて見せるわ! そして、戻った時にはもっと強い国としていくことを約束するわ」
ヴァルティアお姉さまにロヴィーサお母さま。最強すぎて心配いらないわね。
「それじゃあ、アスくんともしばらくまた会えないのね。あの子はまだまだ子供。あの子のことをルフィーナちゃんに託していいかしら?」
「わたしこそ、アスティンがいてこその王女なの。お母さま、アスティンを任されたわ!」
「それと、ハズナちゃんのことはもう知っていると思うけれど、あの子はもっと子供なの。ルフィーナちゃん。あなたがあの子を導いてあげてね?」
「ええ、分かったわ」
けじめとして、ヴァルティアお姉さま、ロヴィーサお母さまに出立することを告げた。気持ちも想いも固まった。明日、出立の儀と共にカンラートにわたしの言葉を伝えよう。わたしは、もう大丈夫だから――




