1.わがまま王女と駆けだし騎士
前作「いたずら王女と見習い騎士の婚姻譚」の続編で、新作となります。シリーズの新章としての展開です。
ジュルツ国の王女、ルフィーナ・ジュルツと、王立騎士の副団長であるアスティン・ラケンリースは晴れて婚姻を果たした。婚約者として数年を費やしていたものの、見習い騎士のアスティンがいよいよもって、正式な騎士として認められ、さらには副団長になったことでルフィーナ王女は彼と婚姻をすることを決意された。
「……わたくしルフィーナ・ジュルツは、騎士団副団長……アスティン・ラケンリースと婚姻を致します。誓いの口付けをここに――」
アスティンはルフィーナの手の甲に口付けを落とし、互いの口を近づけ、口づけを交わした。ここに、新たな夫婦が誕生を迎えたのである。
数か月後――
「嫌よ! わたしは行かないわ! アスティンだけ行けばいいじゃない! すぐそこの国なのだから、アスティンが挨拶に行けばいいのよ」
「い、いや、そんなわけには行かないってば! 俺は騎士で、キミは王女なんだよ? どうみても立場が違うじゃないか~! そんなわがまま言わないでよ~」
「嫌ったら嫌なの! わたし、あそこの女王のあざとらしさがどうしても好きになれないわ。あなたは会ったことが無いからそういうこと言うけれど、嫌なものは嫌よ!」
ルフィーナが嫌がっている王女とは、かつてルフィーナとカンラート団長が最初に訪れた国、ガンディスト国のことである。彼女はあざとらしい王女に嫌気をさし、暴れたということを聞かされていたアスティンだった。
「ふふっ、副団長殿は相変わらず、王女には敵わぬか? まぁ、俺も人のことは言えぬがな」
「団長殿! 恐れ入ります」
「おいおい、他人行儀は止せよ。兄と弟だろう? なぁ、アスティン」
「そ、そうだね。カンラート。ヴァルティアの具合はどうなの? そ、その……いつ頃なのかなぁなんて」
「あ、あぁ……それについてはその……」
「アスティン!! カンラート!!! そういう話はここでするべきではないわ! 外に出なさい!」
『ごめんなさい!』
ジュルツ城・庭――
「いや、すまん。確かに王の間で話すことでは無かった」
「俺の方こそ、すみませんでした。気を遣うことなく聞いてしまって……」
「ま、まぁ……なんだ。女性の心を未だに掴めないのは良くないよな。でも心配してくれたのだろう? すまぬな。彼女も落ち着いたらアスティンとも会わせたいと言っていたぞ。緊張するか?」
「い、いえ、彼女の子ならきっと生まれた時から最強かと思われます。ですよね?」
「ははっ! 言えてるな。まぁ、お前たちは婚姻したばかりだし、国のことで手一杯だろうがいずれは……」
「そんなっ、すぐのことではありませんよ。所で、団長殿。かの国の状況についてですが……」
「あぁ。予断は許さぬ。すぐのことでは無いが、そうした意味でも王女はピリピリしているのだろうな。お前がきちんと、支えてやれよ? 新婚だろうがそれはそれとして、緩ませずに規律を正せ」
「は! お任せください」
「ふ、見違えたな。見習い騎士のアスティンでは無く、駆けだし副団長のアスティンか。とは言え、強さは俺を越えているからな。他の騎士にもそれは伝わっている。俺は団長として、政治……国と王を支える騎士の長として務めるに過ぎぬ。これからはアスティン。お前が主導で動け。任せたぞ!」
「カンラート兄様、お任せを!」
Valtier's-Room――
「お姉さま、体調はどうかしら?」
「……悪くない。すまないな、お前が婚姻したばかりでこんなことになるなんて」
「そんなことは気にしなくていいのよ! お姉さまとその子が健やかに過ごされるなら、それはとても素敵な事なの! わたしは王女として国を何とかしていくわ。お姉さまはまずは元気になることが最優先ね!」
「ありがとう、ルフィーナ。わたしの可愛い妹、愛してるわ!」
「ありがと、お姉さま」
あの国の事はアスティンに任せるとして、新たに近衛騎士を増やしつつ、騎士たちも編成しなければいけないわね。そう言えばロヴィーサお母さまはどうされているかしら。ちょっとだけ話をしにいこうかしらね。
「セラ、ルカニネ、外に出るわ。一緒にお願いね! テリディアはお姉さまに付いていてあげてね」
「は、かしこまりました」
「付いて行きます!」
「おうよ!」
アスティンの家――
「ルフィーナちゃん! ようこそ、さぁ、上がって!」
「お母さま! お邪魔するわね」
「あの子の様子はどうなの? きちんと副団長として動いているの?」
「んー……付きっきりで見ているわけではないので、何とも言えませんわ。だけど、昔に比べたらきちんとしていると思われますわ」
「そうよね。そうでなければ、またお仕置きをしなければいけないものね……」
「ふふっ……嫌ですわ、お母さまったら」
「うふふ、そうよねぇ」
アスティンと婚姻をしてから、ロヴィーサお母さまとはますます仲良しになってしまい、何かあればすぐにお家にお邪魔してお話をするようになっていた。ヴァルティアお姉さまと対決をした最強のヴァルキリーは、今でも健在みたいだった。
「ルフィーナちゃん。彼女の具合はどうなの?」
「子と共に健やかですわ」
「そう、それならなおのこと、ルフィーナちゃんは早急に決めなければならないわね」
「え? な、何をです……」
「あなたも知っての通り、平穏は永久ではないわ。そして、我が国もいつその運命に巻き込まれるかなんて想像もしたくないのだけれど……。それで、あなたに決めてもらいたいのはね、次のヴァルキリーを決めてもらいたいの! それもひとりではなく3人は必要よ」
「ヴァルティアがいますわ? 彼女だけではダメなのですか?」
「子を授かって、子が成長するまではかつての強さは戻らないことを覚悟すべきよ。かと言って私はすでに現役ではないわ。そうなると、ヴァルキリー数人で国を支えてもらうことも考えねばならないの。それは分かっていて?」
「ええ。アスティンが副団長となり、カンラートが団長となった辺りから意識はしていましたわ。候補はすでに2人は決めていますわ。ですけど、あと1人が見つからないのです……」
わたしの近衛騎士ですでに2人は決めていたけれど、それでも強さで言えばヴァルティアお姉さまには程遠い気がするわ。それとも騎士候補で探さなければならないのかしら?
「……引退の身でそこまで介入してはいけないのだけれど、1人、いるわ。あなたはご存じないとは思うけれど、その子はまだ騎士ではないの。つまりは見習い騎士ね。でも、強いわ。まだ歳が9の子だけれど、すでにヴァルティアを越えているかもしれないわ。どうかしら? 試してみる?」
「9歳!? あ、会ってみたいわ! その子をアスティンと戦わせて見極めたいの。お母さま、ど、どうかしら?」
「それは面白そうね! そうしましょ。ふふっ、これは楽しみが出来たわ! そうと決まればお父様にも今のアスティンの実力を見てもらいましょう!」
「はいっ! それでは、近いうちに手筈を整えますわ。では、お母さま。今日はこれで戻りますわ」
「うん、またねルフィーナちゃん」
思わぬところでアスティンの剣技が見られるかもしれないわ! ふふっ、次代のヴァルキリーをこの目で見られるだなんて。楽しみだわ!