プロローグ Meister Party
目を開けると目の前いっぱいに青空の中にいる様な空間が広がっていた。
(これは、夢か……)
最近この夢を見る頻度が多くなっている。どんな意味があるのかも分からない。意識ははっきりしていて、体も自由に動かせる。
(昔は、滅多に見なかったのにな……)
最近はこの夢を2、3日に1回は見るようになっている。
(――――)
なんだ?何かが聞こえた気がするが、はっきりとは聞き取れない。
(……っ)
頭痛だ。この夢を見ると毎回起きる。立っていられないほどの痛み。この夢は毎回この頭痛によって終わりを迎える―。
* * *
「朝か……」
一緒に目的らしい目的もなく旅に出ていた父親が、一週間前に病気で亡くなってしまい俺は今日実家に帰ることとなっていた。
ちなみに母は俺が3歳の時に病気で亡くなってしまったらしい。詳しい死因は教えてもらえなかった。
「家出る支度しないと……」
父が死んでしまった時はもちろん悲しかったが、これ以上気を落としているわけにもいかない。今日は予定が山積みなのだ。
転入先の学校へ行き手続きをして実家に帰る。実家に帰ってものんびりすることは出来ないだろう。色々あるだろうし。
支度を終えた俺は気合を入れた。
「よし!頑張るか!」
* * *
電車で6時間揺られた後、俺はその地に降り立った。
「10年前とは全く違うなぁ……」
この町の名前は紅葉町。読み方を間違える人が多いが"くればちょう"という。でも実際は漢字の通り紅葉が名物らしく、一年中紅葉してるので観光客も多いんだとか……まぁ、10年も離れてたしよく分からんけど。というか一年中紅葉してるってどんな原理なんだろうな。誰か解明してくれよ。
‥ ‥ ‥
「でっけぇ……」
俺はこれから通う紅葉台学園に着いた時目を丸くした。
でかい。小学生並みの感想で申し訳ないがとにかくでかい。恐らくこの学校の生徒ですら道に迷う生徒がいるだろうと言うくらいにはでかい。
俺が言葉を失っていると、学園内からこちらへ向かう男性がいた
「やぁ、君が日向昴君だね?10年も経つとだいぶ変わるねぇ。イケメンになったじゃないか」
「ご無沙汰してます。小保方さん」
このゆったりとした喋り方をしているのは小保方優作さん。
父の昔からの友人である。
「昴くん。ここでは先生と呼んでくれ」
困ったような顔をして小保方さんが言う。
「あっ、失礼しました」
そういえばここは学園だし学園内から出てくればこの人も先生に決まってるよな。失念していた。
「まぁ、とりあえず学園を案内しながら話をしようか」
「よろしくお願いします」
俺は先を行く小保方先生について行くのだった。
* * *
一通り学園内の説明を受けたあと最後に俺の行くクラスへ案内してもらった。
「で、ここが君の通う2年8組だ」
「結構クラス数あるんですね」
見た感じ15組まではありそうだ。
「当たり前だろう?うちの在校生は約3000人いるからな」
「3000人!?!?」
「うちは日本でも有数の進学校だからな。それにこれだけの広さで1000人程というのも寂しいだろ?」
「は、はぁ……」
寂しいとかいう考えはちょっと分からないが同意しておこう。何事もよく分からないことがあれば同意しておけばオールオッケーだ。
ほら、某SNSにもいるだろ"分かりみが深い"とか言う奴。それ言っとけばWin-Winの関係になれるだろ。なにをもってWin-Winなのかは知らんが。というかそもそも"みが深い"ってなんだよ。分かるでいいだろ。みが深いなんてなんの辞書で調べたら意味が出てくるんでしょうかね。
……1人で考える時間が長くなってしまった。
意識を戻そう。
と、その時ガラガラと教室内から誰かが出てきた。
「あら?小保方先生」
「おお、雛宮君じゃないか。生徒会の仕事かい?」
何とも可愛い子が出てきたな。
長い金髪の髪は腰まで伸びており、とてもサラサラそうに見える。ケア大変だろうな。
ぱっちりと開いた目。長いまつ毛。小さな顔。胸は控えめに強調され。お腹はくびれている。なんだこいつ、外見完璧か?
これで生徒会ってステータス限界突破してるぞ。
「ええ、そうです。そちらの方は?」
「あぁ、こいつは今年度から転入してくる日向昴だ。同じクラス同士仲良くしてやってくれ」
「よろしくお願いします」
同じクラスか。俺だって男だこんな可愛い子と同じなんて普通に嬉しい。やったぜ。
「よろしく。日向君。私は雛宮唯。同じクラスなんだし敬語じゃなくていいよ?」
「分かった。よろしく雛宮さん」
「所で日向君。転入するって事はうちの転入試験パスしたの?なかなか頭いいね」
転入試験?なんだそれは。
「あー、そいつは特別な事情があって試験は受けてないんだ」
と、そこで小保方先生の説明が入る。へぇ、ラッキー。というか特別な事情ってなんだろう。把握してないぞ。怖くなってきた。
「そうなんですか。じゃあA-smartも持っていないのね」
「A-smart??」
これよ。と言って雛宮さんはスマホの様な電子機器を取り出した。
「これはね、この学園で生活していくには必要不可欠なものなの。学園で全てのことがスマートに出来るから全てのALLのAとsmartを合わせてA-smart。安直でしょ?」
ほう。なるほど安直だ。ついでに名前つけたやつめっちゃ頭悪そう。
「ちなみにこの名前学園長がつけたの。怒らせると恐い学園長なのよ。気をつけてね」
前言撤回。A-smartめっちゃかっこいい。
「全てのことって例えばどんな事だ?」
俺は率直な疑問をぶつけてみた。
「そりゃあもう全てよ。学園内でものを買うのだってこの中に入ってる専用のポイント使えるし。あ、もちろん現金も使えるよ。後は学園のいろんな書類もこれで送れるし。後は"Meister Party"で必要不可欠の物になるわ」
「"Meister Party"?」
俺は首を傾げる 。
「あれ、小保方先生から聞いてないの?」
小保方先生の方を見ると片手でごめんのジェスチャーをしている。なんて無責任な。
雛宮さんはひとつため息をついて説明を始めた。
「Meister Partyはその名の通り毎年学園の王者を決める祭典……とでも言おうかしら。Meisterはドイツ語で王者ね。決め方はポイントをいちばん多く稼いだもの。ポイントの稼ぎ方は毎週土曜日に行われるMeister Partyで相手を多く倒すこと。後は模擬戦で相手を倒してもポイントは貰えるわ」
相手を倒す??何を言っているんだ。
「生徒は一人一人自分の能力を持っていてそれを活用しながら戦っていくの。ちなみに能力の性能はテストの点数に比例するわ」
「ちょっと待ってくれ。生徒同士で戦うのか?」
「そうよ。それも結構。激しい少年漫画でよくあるようなあんな感じよ」
あんな物が現実に存在していたら死んでしまうのではないか。
「ちなみに攻撃によるダメージはこれが代わりに受けてくれるわ」
そう言ってネックレスを取り出す。
「これは……?」
「大事なのはネックレスじゃなくてこの石よ」
そう言ってネックレスに付いている青い石を指さす。
「これがダメージを肩代わりしてくれるようになってるの。仕組みはよくわからないけどね。それでこの石が今は青いけど、黄色、赤と変化していって割れてしまったらゲームオーバーって訳」
なんてハイテクな。
「とりあえず見てみた方が早いわよね。あ、その前にあなたの持つ能力の検査とテストを受けないとね。それは多分先生が用意してくれるわ」
「そういうことだ」
どういう事だ。理解が追いつかないぞ。情報量が多すぎる。
「ちなみにMeisterになった者は願いを何でもひとつ叶えられる」
「は?何でも?」
俺は素っ頓狂な声を上げた。
「そう、何でも。驚いた?私も初めて聞いた時は驚いたわ。でも実際に叶えられた人を私は資料で見たわ。金、権力なんて大きなものから学食のメニューを追加するなんていう小さなものまで」
俺はもはや声も出なかった。
「この学校はそれ位のことが出来る規模があるからなぁ…」
どこへとも無く小保方先生が呟いた。この学園もしかしてなんかやばいのに手を出してるんじゃなかろうか。
「そうして皆Meisterになろうと必死になる。強くなるには点数が必要だから成績が上がる。これがうちの学校が日本有数の進学校の理由よ」
なるほど。合点がいった。なかなか面白そうだと思った。自分だけの能力を使って戦うなんて、どれだけ少年心をくすぐられるか。
「後は部活に入った方がいいわ。1人でMeisterを目指してる人もいるけど。基本的には皆部活単位だから」
1人で目指すのはきついということか。そりゃそうか多勢に無勢だもんな。
「でも、俺運動とかあまりしたくないしなぁ」
「大丈夫よ。うちの学校部活動300位あるから」
もう驚くのにも疲れた。
「目的のない部活も多いけどね」
雛宮さんは困ったような顔をした。生徒会も色々大変なんだろうな。
「ちなみに、去年優勝したのは風紀委員会。普通は優勝したら次の年は参加出来ないんだけど、風紀委員会と生徒会執行部は毎年参加できることになってる。風紀委員会はとても強いわ」
へぇ、委員会とかも対象なのか。というか毎年優勝出来たら願い叶えたい放題だな。
「ちなみにデメリットもあるわ。この二つは毎年参加出来る代わりに願いを叶えてもらうことは出来ないの。その条件でもいい人が入ったりする所よ。内申点も大幅に上がるしね」
なるほど。その辺はちゃんと考えられているんだな。
さらに、話を聞いてみると優勝した部活は在籍メンバー全員が願いを叶えてもらえるらしい。なんてお得。
「まぁ、後は帰ってみてから色々考えてみることにするよ」
「そうね。今日はもう遅いし検査はまた今度にした方がいいと思う。そんなに急ぐものでもないし」
そこで窓から外を見ると日が傾き始めていた。
「そうだな。今日は色々ありがとう。小保方先生も今日はありがとうございました。また後日伺います」
「おう、その時は連絡してくれ」
そうして帰ろうとしたその時。
ふと、気になった事があった。
「なぁこの試合?的なやつの名前考えた人って……」
雛宮さんからとても綺麗な笑顔が帰ってきた。
「もちろん学園長よ?」
学園長のネーミングセンス万歳。
* * *
「うーん…」
俺は手に持っている紙を見つめ唸る。
「まさかこんな伏兵が潜んでいるとは……」
ここで振り返ろう。俺がこの街を出たのは10年前で小学校低学年の頃だ。いくら家の場所が変わってないからと言って町の風景もガラッと変わってしまっては、無事に家につくことは出来ない。そこで妹に地図を郵便で送って貰ったのだが……
「これ、地図の役割果たしてないだろ……」
頭が痛い。その地図は紅葉町全体がわかる地図で細かい道は一切見えない。その中に500円玉くらいの大きさの赤い丸で囲まれた場所があり、ここ!と書かれている。
アバウトすぎだろ。我が妹よ。
その丸で囲まれた辺りにやってきてみたはいいが、
「わっかんねぇ……」
これ多分今日中に家に着けないやつだな。うん。
* * *
途方に暮れること早1時間。
いくら春に差し掛かっているとはいえ、流石に1時間も外にいれば体温は奪われる。ていうか1時間って。10年前家を覚えとかなかった自分を恨むぜ。
どうしたもんかと考えていると、
「あれ、兄さん??」
声がした方へ振り向いて見ると可憐な美少女が立っていた。
明るめの茶色をした髪は肩くらいまで伸びていて、少々幼い顔立ちをしている。それでいながらもしっかり女性らしい体つきをしている。……なんで俺さっきから女性を舐め回すかの様に観察して説明しているんだろう。いや、分かるよ?説明が必要なのは、君たちは俺が見ているものが見えないんだもn……おっと。危ない。こういうこと言っちゃうと感情移入してた読者達が現実に引き戻されちゃうからな。
他の作品でも同じような危ない発言してるの見るけど、何だろうね、あのふと現実に戻される感じ。何とも言えない虚無感あるよね。
とかいう話はどうでも良く、もっと大事な事があった。
「えっ、兄さん??」
「はい。兄さん」
とその美少女は微笑んだ。
ここで思考をフル回転。
「まさか、あやめ?」
「そうですよ?」
目の前の少女……もとい日向あやめ……もとい俺の妹は不思議そうに首をかしげている。
「10年見ない間にすっかり変わったなぁ」
「そうですか?兄さんはあまり変わっていませんね」
嬉しい様な悲しい様な。
というかこんな言葉遣いだったかな?
と 俺の考えてることを読み取ったのかあやめが答えてくれた。
「この口調ですか?なんだか、10年も会ってないとちょっと距離感が掴めなくて……それに兄さんとってもかっこよくなっておりますし……」
おっと、怪しい臭いがした。まさか、ブラザーなコンプレックスか?コンプレックスなのか?
「あれ、変わってないんじゃなかったのか?」
「変わってないのは兄さんの雰囲気です。外見はそれはもちろん大人っぽく。かっこよく……」
なんでそこで顔を赤らめるんだ。
「それはそうと家の前で兄さんは何してるんです?」
「へ?」
俺は素っ頓狂な声を上げた。
振り向くと、15階建て位のマンションがあった。
これかよ……流石にこんな立派な所に住んでるとは思わなんだ。まぁ、マンションだから見てくれだけかもしらんが。
ていうか俺の1時間返せよおい。
元はと言えばこの地図が……いや、妹に文句言うのはやめておこう。ここは適当に誤魔化しとこう。
「いや〜あやめが家に居なくてさ〜暇だから散歩でもしにいこうかと」
「でも10分ほど前からこの辺うろちょろしてましたよね?」
「そんな前から見てたんかい!!」
思わずそんなツッコミが出る。
仕方ないので、観念して(一部だけ)本当の事を言う。
「情けない話10年ぶりに帰ってくると土地勘掴めなくて道に迷っちゃってさ。というか気づいてたなら声掛けてくれよ」
「あ、そうでしたか。すいません」
にっこり笑うな。反省の色が見えないぞ。可愛いけど。
「とりあえず中に入りましょう?」
「あぁ、そうさせてもらうよ」
俺たちは家の中に入ることにした。
中に入ったら家の中に届いているだろう荷物を整理して、今日の事を色々と振り返るとしようか。あ、後は両親が亡くなってしまった俺たちの親代わりをしてくれている、楓さんにも挨拶をしないと。多分家の中にいるだろう。まだまだ落ち着けそうにないな。
―ただ、願いを叶えてくれるとかいうMeisterには興味も湧かないし、なろうとは微塵も思わなかった。
…………今の段階では。
皆さん初めまして。結城絵蓮と申します。初投稿です。緊張してます。
さて、プロローグは如何でしたでしょうか?物語はまだ本格的に始まっておりませんが、続きが気になるな……っていう内容には出来たのかなって思います。後はあれですね。ミスがないかとても心配です。
何回も読み直していると頭が混乱してきて結構見落としちゃうこともあると思うんですよ。いや、言い訳じゃないですよ?はい。
書き始めてからの悩みが、続きを書くにあたっての悩みなんですが、どれ位の量で書いていったら良いのだろうと毎日思ってます。今回はプロローグなのでまぁ丁度いい量にはなっていると思いますが、本編に入ってからはどれ位にしましょうかね…考えておきます。
さて、話はガラリと変わりますが、これはラノベを愛している男性の皆さまには共感を得ることができると思うのですが。僕、妹欲しいんですよね。
……これ気持ち悪いですねとても。
いや、変な意味じゃないんですよ決して!ただ、いたら良かったなーっていう願望です。その不満をこの作品にぶつけているだけです。
いいじゃないですか!妹とイチャイチャしたって!……まぁこの作品は適度にいろんな人とイチャイチャさせようと思ってますが。あーあー、ラノベの主人公羨ましいなー。
それはさておき。こんなくだらない後書きまで読んでくださりありがとうございます。今回地の文は主人公視点で書いてみています。まぁそれも話の場面によっては雛宮さん目線になったりあやめ目線になったり○○さん目線になったりしますが。
僕個人としては主人公は常にくっだらない事を考えてる感じにしたいんですよね。あぁ、こんなん考えたことあるわー。って共感得られるような。それが上手くいってるのかどうかはさておいて。
こんな感じで続けていけたら良いと思ってます。これからもよろしくお願い致します。
結城絵蓮