走馬燈
「いいかお前ら。人はいつ死ぬかわからないんだ。だから一生懸命生きるべきなんだ。」
いっ・しょう・けん・めい。担任のオヤジが黒板に漢字を書いていく。
懸の字が思い浮かばなかったのか、少しためらっていた。
アホらしい。私は全力でそう思っていた。
いつも暇だった。なのに、いつ死ぬかわからないから、なんて言われても現実味がわかない。
スマホの写真一覧を見る。SNOWで撮った写真ばかり。この頃そうだった。
また新しい遊びが与えられ、それに群がる。私もその一員だった。
その日の帰りに、私は冷たい手の男に誘拐された。
そして、ひどいことをたくさんされた後でこう言われた。
「お前を、10秒後に殺す。」
…えっ、私、10秒後に死ぬの?
どうしよう。10秒で何ができる?
そもそも本当?だめだ考えると時間なくなる。
いまできること、できること…
私は「あー」と言いながらぴょんぴょんと跳ねた。
何になるんだろう。だめだ、息を吸わずに声を出してしまったし、動いているから声が途切れそうだ。
私の「あー」の音は強く、音程をあげていく。
今何秒だろう。数えるのを忘れてた。でも10秒はとっくに過ぎたような気がする。
やっぱり、死なないのかもしれないのかもしれないな。この男は、ひどいことの一環で私に嘘をついたんだ。
げほり、と咳払いをしたころ、頭の中で、「一生懸命生きるんだ。」という言葉が聞こえた。あれ、なんで一生懸命やらなきゃいけなかったんだっけ?
そう考えていたら、私はいつのまにか殺されていた。
おわり