表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

彼女にさよなら。

作者: hihumi

 ぼくは、何も見たくないから目を塞いだ。


 ぼくは、何も聞きたくないから耳を塞いだ。


 それから何か言おうとして、慌てて口を塞いだ。


 何も見たくないぼくは、何も聞きたくないぼくは、何かを言うことは禁止されているんだ。誰にかって言うと、一枚の写真の思い出に禁止されてるんだ。その写真は、喋るんだ。最近はどうか知らないけど、昔はよく喋った。


 「見ることや聞くことは、ぜんぶ嘘」って、その写真はよく言ってた。


 その写真がどんなだったかはもう忘れた。でも、女の子だったような気はする。確かなことはもう忘れてしまったけど、たぶん、女の子だ。


 ひょっとしたら、その女の子は、ぼくの彼女だったかもしれない。何となく覚えてるのは、彼女の首の感覚なんだ。ぼくの手が覚えてるんだと思う。ぼくの手が彼女の首をきゅって絞めたような感覚が残ってる。


 「体験こそが本物」って、その写真はよく言ってた。


 こんなことになったのもぜんぶ写真の彼女が悪いんだ。ぼくが悪いんじゃない。少なくとも、ぼくだけがぜんぶ悪いわけじゃないんだ。


 でも、今ではもう何もかも薄っすらとしてる。ほんとにあんなこと、ぼくがしたのかな。たぶんだけど、ぼくはやってないんじゃないかな。ぼくは、無実なんじゃないかな。


 今こそ、はっきり言おう。さあ、鏡の前に立って、「ぼくは彼女の首を絞めてはいない」。


 そう、ぼくは、ぼく自身を見ながら言って、ぼくは聞いた。


 そうしてぼくは、やっと写真を伏せることができた。彼女に、ほんとのさよならができた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ