異能力バトル56
「リン!」
約束のとおり一週間で帰ってくると六腑は中庭の真ん中で指切りをしながら詠唱をする。
その後ろを皆で取り囲み事の成り行きを見守っていた。
「始まったかの。」
振り向くと虚無子がいた。
最速の陰陽師こと、色即是虚無子。
年端もいかぬ幼女で有りながら魂の乗り換えを施行し続けた元色即是空。
陰陽師最高権威『カラの座』を作りながら座した事はない。
そんな彼女が、どうして此処へ。
「松本の、お前は腹をくくったか。」虚無子がいうと松本はうなずいた。
覚悟というものは分からないが、腹はくくった。
「では、次だよ。」虚無子は真っ直ぐに松本を見つめる。
「次、というと。」
「お前は事の顛末だけでは無くこれまでを知らなくてはならない。
もちろん現状も知らなくてはカラの座はつとまらぬ。」
「これまで?」
「まずはそうだな、経済からお勉強といこうか。」
経済。関係が無いとは言い切れないがなぜに今それを言い出すのかはわからない。
知らなくてはならないとは一体どういうことなのかと、松本は耳を傾けた。
「覚悟がある者に背負えるだけの覚悟を背負わせるのがこの世の常。あの国もかの国もその国さえも、そうやって覚悟を分配するのだ。覚悟というのが貨幣になるのだからそうやるのが妥当よな。
しかしだ。松本の、主の誕生、主の目覚めがこれまでの経済の形を変えてしまった。
持たざる者にありったけを与える主の異能が、力の支配が貨幣の価値を凌駕してしまった。
普通の人にはもう覚悟を背負わすことも背負うことも出来なくなっている。
しかし、それでもだ。貨幣を手放せない人々が居る。そこで、経済だ。
主等魂使人は経済界を背負って立たねばならぬのだよ。腹をくくったと言うならば、普通の、なんの変哲のない人々を救って見せろ。と、言うのが此処で言うところの経済。」
でも、それは、支配だ。
「支配となるのは分かっているよ。それでも、力の集中する所に貨幣も集中する事もまた事実。」
「ピョウ!」
まるでコマの終わりを告げる様に六腑の詠唱が聞こえた。
「アレも嫌コレも嫌では筋が通らなくなるぞ。老人のたわごと、先人の知恵、先輩風。どうとられても仕方が無いがやりたいことがあるなら無理も飲み込め。」
「俺のやりたいことを、知っているのか。」そう訪ねると「舞北数葉。」そう答えた。
正解だった。
魂使人としての最大の弱点、頭部の、脳の破壊を眼前にして見送った松本にはもう舞北数葉には会えないと思っていた。しかし、それを覆す事態も見送った。
かりそめではあるが、舞北数葉は復活を果たしたのだ。刹那の邂逅ではあった。それでも松本には十分な足がかりとなっていたのだ。
足がかり、というよりは後ろ髪を引かれる様な想い、と言い換えても似たようなことだろうが、松本はその時から、ある程度なみに強くなっていった。
「見逃してはくれないんだな。」つぶやいた言葉にすら虚無子は言い返す。
「結果から言うと、カラの座についたとて舞北数葉はもう生きて戻ることは無い。」
「それでも、可能性があるんだ。しがみつかないでどうする。」
「そうやって雁字搦めの方へふらふらと行くものだから、見捨てられないのよ。」一ノ瀬の言葉だった。
雁字搦め、とは得てして妙なことを言う。良く分からないが得心する。が、一ノ瀬は止らない。
「希望を見いだすのが絶望の内ならば、その希望というのは絶望の一部なのでは無くて。」
「そうかも知れない、でも希望は希望だ。」
「舞北数葉がダメでもほかの奴には適用するかも知れぬからな、あんまり無駄とも言えんのが苦しいところだ。」虚無子がぼやくと一ノ瀬が言うのをやめる。
何を言うのか聞いてみたい気もする。舞北さん以外に適用したところであまり意味は無いとも思ったが、適用するなら、誰なんだろう。ふとそんな事も思ってみた。
「トオ!」
「さてさて、どうとくの時間も終わりだ。次は何が良いかな。」




