異能力バトル54
桜八長重老は死んだ。悲鳴や銃声が聞こえた訳ではない。だがスマホがごとんと音を立てたのだ。一度地面に落としてそれを拾い上げたのだろう、空知は語る。
「奇跡の子とはよく言ったものだ。ならば僕は、一体なんだろうね。」
「桜八長重老を、殺したのか。」
「奇跡の反対だから、事故。はは、事故の子なんて言われたらゴロが悪いね。」
「答えろ、空知。」
「オーダーは好きにしろ、だったよね。」
「答えに、なっていない。」
「予知とか未来視とか無くても僕にはわかるよ。君はこれでカラになれる。だけど、不出来な者達の王は僕が引き継ぐことになったから、君はそっちで好きにしたらいい。奇跡でも何でも起こして、注目されていればいいよ。ちやほやされて魂使人のカラではダメでしたと言う前例になっていればいい。」
「空知、俺は、お前を許さない。」
「死んだよ、この老骨。」それを告げると空知の方から通話は終了した。
何度かけ直しても繋がらない様を見ると携帯電話を完全に破砕したようだった。
修羅場だ。
好きな男を亡き者とされた女が此処にいる。
下手な事を言えばきっと殺される。
それでも、何か言わなければならない。
慰めや同情はきっと火種となる。
ならばと話題を変える訳にもいかない。
生と死がこんなにも近しい存在だと今の今まで感じた事が無いほどに松本は、恐怖していた。
「フン。」女が笑う。
この世のすべてを見限った様なその顔は、見る事さえ許されないのだろう。
リダイヤルを何度も、何度も、何度もかけ直す。
「今後の事を考えましょう。」一ノ瀬が言う。
ナイスなタイミングだった。ナイスな話題だった。
それでも、女がどう出るかにすべてをゆだねるしかできない。
「だとさ、これから、どうするね。松本くん。」
ゆっくりと吐き出される死の宣告。松本はもう答えるしかない。
唇が真っ青だろう、顎が震えて思う様に発言も出来ないかもしれない。
守ってやれなかった。どころか、桜八長重老を死に至らしめたのが、投げやりだったころの松本本人の命令なのだ。
命を拾ってやった恩を仇で返された。その仕打ちが今あるこれだ。
そんな事を思ってもしょうがないのだけれど、拾わなければ良かったと思い至るべき時なのだろうけれど、松本は其処まで思い至らないで、言葉を紡ぐ。
「残っている戦力は。」
「私がいる。十分だろう。十二分だろう。」女は言う。即答だった。ゆっくりとした口調でがあるが誰にも、何も言わせない迫力が有った。
「アンタみたいな雑魚が、魂使人相手に勝てるわけがないじゃない。」
火花が散ったように思う。
視線がぶつかり合ったのだ。
それでも一ノ瀬は引かない。言い続ける。
「冷静に考えられたなら頭数に入れられるけどね、今のアンタはもう鉄砲玉にするくらいの価値しかないわ。」
「はは、鉄砲玉とは私の事か。いいだろう単身で全滅させて来てやる。」
「だから無理だって言ってるでしょ。」
「やってみなければ分るまい。」
「自分の出る幕も分からないの。」
一ノ瀬のこの言葉に六腑は冷静さを取り戻した様に見える。
「私の出る幕。」
「そう、敵将にトドメを刺すのがアンタの役目。不出来な者達の王を殺害するのが阿倍の六腑が役目よ。」
「ああ、そうだ。それが出来ない様では、本当に、只の、暴走だ。」




