異能力バトル53
次は松本が話す番だと、六腑は言う。
しかし、何を話せばいいのかが分からない。さらに今は何かものを言えるような心境ではない。
「無理よ。」一ノ瀬が言う。その通りだ。松本は大いに賛同してその心根を言葉なり、体現なりで言い表そうと思えたが、それすら無理だった。体と心がぐちゃぐちゃで何かを出来る状況ではないのだ。
「無理でも言わねばならないよ。だって私が手のひらを反す恐れだってあるのだから。」六腑は言う。顔は笑っていても心は冷徹だった。吐き出される言葉もまたやさしさが見当たらない。
覚悟を決めて松本は目元を袖で拭う。話そうとした。その瞬間だった。六腑のスマホが鳴る。
顔や性格に似合わず可愛らしい猫の鳴き声で懐かしのメロディを奏でたそれはこの場の雰囲気とも一致する事無く、六腑は早々に着信に応答せざるを得なかった。
舌打ちをして応答する六腑だったが、画面に映し出された名前を見ると態度を豹変させる。いい子になったのだ。
「久しぶり。」言って六腑は相手の出方を窺った。その声は松本に届く事はないのだが、こういうやり取りが有った。
「すまない、今日は君に用がある訳ではないんだ。」
「用がないのに電話をかけて来たのか。」私の声を聴きたかったのか、と心を躍らせる六腑。
「スピーカーをオンにして松本、いや今は舞北くんだったか。」とここまで、聞いて六腑は不貞腐れる。
「誰も彼も貴様の味方だ。」言って六腑はスピーカーをオンにした。
「初めまして、吾輩の名前は桜八長重老である。」これを聞いて、聞こえて、松本は驚きを隠せなかった。
「君は、舞北武くんで合っているね。」ゆっくりと確認する口調はおじいさんと言って差し支えないものだった。
「はい。ですが俺、いや僕は、やはり松本と呼ばれる事に慣れています。」そう答えると翁はそうかと言って笑った。了解したのだろう。
「では改めて松本くん、君は何者だ。」言っている意味すら分からない松本はこれに答えることなく、スマホを見つめた。きょとんとしたのだ。
「吾輩、いや、もう私でいいか。つかみという奴はばっちりだったろうからな。私はね、松本くん。不老や不死に拘る事をやめたんだよ。その代りに求めたのが事の顛末だ。いつまでも続く物語もそれはそれで面白いが、やはり終わりというのが見てみたい。そういう事だから私は未来視、予知などの力を欲した。
だけどね、松本くん。君の事は予期できなかったのだよ。不思議だろう。まるでモブが奇跡を起こして主役に躍り出たような感覚だ。だから聞きたい。君は、何者だ。」
「僕、いや俺は。」戸惑う松本。それはそうだ、松本だって松本の人生では主人公だ。それなのにモブだなんていいようは、得てして妙とさえ思えるから、怖いとさえ思う。妙に怖い。
「不躾で失礼だろうと思う。君に聞いても碌に答えを持っているとも思えない。だがね、私は結果を求めている、事の顛末を、求めている。何故なら、私の運命は今日までなのだ。君じゃない誰かが私を殺しにやって来る。そして私の死は不可避な事になっている。どういう訳だか未来視がうまく働かない。こんな事は舞北一葉さんが亡くなる時くらいのイレギュラーだ。ただ結果として私は死ぬ。私の求めた形ではない状態の死を受け入れる為には不完全な部分を補完しておきたいと思うのだ。」
それを聞いて松本は思い当たった。空知晃だ。桜八長重老を手にかけるとか暗殺するとか物騒な事ばかりを言っている。その上、そう、その上だ。舞北一葉を亡き者にした張本人だ。
「桜八さん。逃げてください。予測できないからって死を受け入れる必要は無いじゃないですか。それに。」俺ならあなたを守れるかもしれない。言おうとして、いや言えなかった。その時間が、無かったのだ。
「人は、老いて死んでいく。当たり前の事なのに、なぜそうまで必死になるんだ。松本くん。」空知の声がしたのだ。スマホの向こう側からだった。




