異能力バトル52
暫く考えたが、答えなんてそうそう出る物ではなかった。だから、松本は空知を使う事にした。
信用した訳ではないが、好きに動いてみろ。と、命じた。
そして、今。松本は真意を確かめる為に阿倍の六腑の目の前に立っている。
「どうした。よからぬ事でも起きたか。」いつもの傍観面。六腑は何食わぬ顔で松本を見上げる。
「いやさ、しかし、あの色即是虚無子をして、忠告にとどまるとは思わなんだ。」何も答えない松本に、六腑は表情豊かに言う。本当に、本当に、色即是虚無子の言う事が真実なのか、疑わしい。いや、どうなのかは分からないのだけれど、それでも、少なくとも、松本は六腑を信じたいという願望がある様に思えた。
だから、訊いた。
「なぜ。」
「なぜとは。」六腑は戸惑う様な顔で、松本を見る。松本はどのような顔をしていたのだろう。六腑は顔を逸らして答える。
「なぜ、か。なぜでもない。恐らく、それは。」
「言うな。」言わないでくれ。それ以上松本を困惑させるな。困らせるな。そういう音が聞こえてきた、そういう気がして、松本は走った。
それでも、松本は逃げる場所なんてない事に気が付いて、屋敷の中の、松本に与えられた部屋の中で、うずくまった。
「いるのだろ、お前に行く当てなんてものはないからな。」六腑の声。
鍵のかかる事もない襖の向こうから聞こえる。今は、今はどんな顔をしているのだろう。
「恐らくそれは、真実だ。が、先の答えだ。そして私は死ぬのだろう。恐らくそれは君の能力のリスクという事んだろうからね。」
リスク? 異能力にリスクがあるなんていう話は聞いた事が無い。それでも、そうなのかもしれない。と、思える松本がいた。声は、呻きへと変わる。
「だが、私は君を裏切る事は無い。天命にかけて君をカラの座に就かせる。それが私のけじめだ。」
「約束だから、あなたの言う事を真に受けて、信じてしまって、約束を反故にされたら、裏切られてまったら、傷つくのは、他の誰でもない、松本、貴方なのよ。」一ノ瀬の声。
もう、何を言ってるのか理解する気も起きない。いちいち回りくどい言い回しは、うんざりする。
「約束ではない。けじめだ。仮に松本が嫌だと、言い出しても私は松本をカラの座に就かすと言う事だ。」
「なぜそこまで私達魂使人の為に尽くせるの。根拠はなに。」
「わくわくするじゃないか。未だかつて敵対勢力である魂使人を陰陽集のトップに据えたことが無い。しかもな、松本がなるというなら最年少記録更新だぞ。」
「嘘でしょ。」
「嘘ではない。」
「たったそれだけの為に、古巣を蹴散らすなんてできる訳ないじゃない。」
「出来てしまえるから、私は暴走陰陽師なんだろうね。それにな、桜八長重老だって、私のする事に期待している筈だぜ。」
「それは、どういう事。」
「桜八長重老という男は、豪気で、強情で、豪胆で、それでいて、弱い。」
「そう、弱いの。」
「ああ、弱い。とても弱くて、すごく弱くて、果てしなく弱い。それでも、私が惚れるだけの男だ。」
「惚れた?」
「惚れたよ。」一ノ瀬が、言葉を失ったらしい。
「あと30年若かったら体も許していたかもしれんな。」とても楽しそうに語る六腑の声が響く。
「それくらいいい男だ。面の皮の話じゃない。心だ。心が、最高にいい奴だ。だから、今でも私は、奴に仕えているよ。奴がこの先の未来の永劫に至るまで、私を信じているのだから、私も桜八長重老を信じる。」
一ノ瀬は今も答えることが出来ない。愛だの恋だのと言われても冷や水掛けるのが一ノ瀬だというのに、何故だか、六腑に押されている。
「開けるよ。」六腑は言う。
襖が開いた。六腑が開けた。真っ直ぐにこちらを見て、傍観者気取りの笑みを浮かべて、勝ち誇った笑いを張り付けている暴走陰陽師がそこにいた。
勝てっこない。そう思えた時に、六腑は言う。
「次は、君の番じゃないかね。」




