異能力バトル4
手が、真っ赤に染まっている。
松本は、それが自分の鮮血だと気付くと脅えた貌を上げた。
遡る事、数分。
「私は君の事が好きになったみたいなのデスヨ。」と美女が照れる。
「だからちゃんと付き合ってほしくて今日の今になる訳なの。」
「ね、キスしよ。」
ここまで言えば松本にもわかる。欲情していいのだと理解できる。
そうなると最早獣と化したこの男の頭蓋に理性なんてものは無い。考える事を無くした躯は目の前のオンナに飛びついた。お前が誘ったのだと飛びついた。
女はさらさらと髪は光を返しながら薄紅色した嘴から白い息が爆ぜて、嗤う。
つられて口角を上げる松本は気付く、あれだけ在った血の気が一気に下がる。火照った体が一気に冷える。
人体で一、二に熱を持つ筈の腹がイの一番に冷えて身を切る様に寒い。唇は震え出して、心臓の拍動のごとに焦点も合わなくなり、女を抱く手に力が入らなくなる。
女はそんな松本を突き放して、嗤う。
辛うじて倒れずにいた松本は離れる女を見て、あぁ、そうかと解るのだ。
女の衣類はいつの間にか黒く染め上がっていて匂いが立ち込める。鉄の匂いだ。
それから松本は自分の腹部を触ってみる。まだ意外と暖かい。そこに液体があるとはわかりはしないが、手を目の前に持っていくとやっぱり、赤く、黒く、手のひらを覆っていた。
何か鋭いもので刺されたのだろうと、分かってはいたが、それを自分で確認するだけの度胸はなく、死への恐怖よりもここで終わってしまう悲哀で女を見上げる。
すると不思議とこみ上げる感情がある。裏切ったなと、話が違うじゃないかと、女に訴えようと口がガクガクと動く。
之には松本自身も驚いたようであった。声が出ない事に驚いたのではなく、松本自身は常日頃から死を恐れてはいなかった。死ぬことは当たり前の事で、何れ行きつく安息の地だと考えていたから、やっと楽になれると死を受け入れるのではなく、恨み辛みを浴びせて醜く生にしがみ付こうとする自分に驚いたのだ。
そのような事をぐるぐると考える松本に、女は語る。
「私にだって怖いモノがある。それは死んでしまうと言う事と人を殺めてしまう事。自分が自分でなくなると言う事と、私という存在を変えてしまうと言う事。どれも等しく恐ろしい。
だけど、人は生きていく中でその存在を変えて行かなければ、生きてはいけない。それでも、意図しない変化は変えるのではなく、本能として変わるもの。そうして私の変調の過渡期に差し当って君が居た。」
女は淡々と語るが、松本はもう意識も定まらない状態、ぐるりと目の玉が回ると昏倒した。




