異能力バトル35
父に言いたい事や聞きたい事は沢山ある。
けれどもその全てに答えてくれる保証なんてどこにもない。
いや、それ以前に過ぎ去った時間、ある筈だった時間を会話だけで取り戻せるなんて事はできない。
だから松本はそれでおしまいにした。
感謝の念が消えないうちに姿を消してくれるのがベストだったとも思う。
「またいい儲け話が有ったら呼んでくれ。」そう言って男は元の生活に身を窶した。
晴れて松本は舞北となる。
舞北一葉と家族に成れたのだ。念願がかなったのは素直にうれしいが、松本はこの時、言霊の思惑を知る由もなかった。
この一文で分かる様に、舞北へ変換すると少々ややこしいので松本はやはり松本と呼称する。
そして、次が動き出す。
とある日曜日、松本は言霊の言付けで買い物に出た。
付き添いに一ノ瀬と空知を付けた。
意味はないと言霊は言うが信用しない。きっと何か意味がある。そこまで分かっていても一応は里親となる訳だから言う事は訊いておいて損はないだろうと、勝手に自信を納得させる松本。
「絡みつくなよ、歩きにくい。」
「いいじゃない少しくらい、デートなんだから。」と、にやける一ノ瀬。
松本の腕にしがみ付いて離れようとしない。そればかりかアーダコーダといろいろと良く喋る。
町に来たのが久しぶりだとか甘いものが食べたいだとか服を見ようだとか映画を見ようだとか下着を買えだとか休憩しようだとか何も言わずに暗がりを見つめて立ち竦んだりだとかお酒が飲みたいだとか、鬱陶しい。
「町に来たのは言霊の言付けの為でデートの為じゃない。」
「あら、デート以外の要件で男女が二人で出かけるなんて事は存在しないのよ?」
「二人じゃないだろ。」
後ろからとぼとぼとついて来る男がもう一人。空知晃がその証拠だ。証人でなく、証拠なのだ。
一ノ瀬はすごい顔をして空知を眺め、空知を寄せ付けない。
ここで異能力バトルが始まっても面白くないので突っ込んだことは無しにして言霊の言付けを、町に来た本当の目的を果たそう。
そういう訳で、占い道具を売る事で生計を立てているらしい薄暗い店に来た。
一ノ瀬の柔らかな胸に腕が食い込む。
どうでも良いが、こいつブラジャーしてない。
「いらっしゃい、替玉君。」
店主らしい女がそう呼んだ。瞬間、店の出入り口はばたんと閉まる。薄暗かった店内は真っ暗になり、青白い光を放つ不思議な水晶玉が目の前に現れた。
「初めまして、私は阿倍の六腑という者だ。」
水晶はゴトリと落ちて転がる。転がった先に先ほどの店主が居た。
「珍妙な仕掛けと陳腐な手品はどういう趣向だ。」空知が言う。まるで主人公みたいだ。
「君には用は無いのだが、君ももらえるというなら貰って置くとしよう。」
「あなたから何か貰うのは此方だ。」そういう言付けだった。
「なる程、何も知らされていないのか。」
「あるいは、知っている事なのかもね。」と、一ノ瀬は嘆息する。
「そう、だね。知っている筈の事。」店主、もとい阿倍六腑はそう言うと、松本にもなんとなく次が読めた気がした。
「はめられたという事か。」




