異能力バトル1
朝。日が差し込み、無造作に脱ぎ捨てられた血濡れのシャツを照らす。
薄いベニヤの天井を眺めながら、昨夜の事を思い出し感傷に浸っている男が居る。
男の名前は松本武。とある事情から一人でこの安アパートに暮らす高校生だ。顔つきは平凡と出来損ないの間くらい、平たく言うなら中の下と言った所。ナヨッとしていてパッとしない性格。体格は小柄でもなければ大柄とも言えない。
そんな彼に昨夜何が起こったのかというのは後にして、環境雑音くらいしか音のないこの空間に突如としてベルが鳴る。
ピンポーンと古びた感じの独特な呼び出し音。
これが聞こえると虚ろとしながら松本はのそりと起き上がる。
玄関は一応蝶番を使ったドアだ。これを開けるとそこに笑顔満面の女が佇む。
一目で美人と分かる端整な顔立ち。流れるように細く長い髪は青く輝き、小動物の様な体格的な魅力と大型ネコ科の様に鋭い目色合わせて持ち、尚も笑顔は人懐こい。
松本は一目でそれと分かると開けてしまったドアを閉める、刹那。
女物特有の洒落っ気をにおわせる厚い靴底を有するそれをドアの淵に忍ばせた。
女は僅かに閉める事の出来ないドアの隙間から厳かな挨拶を見舞った。
「なによッ! こんなに可愛らしい女の子が一人、アンタみたいなみすぼらしい男の汚い部屋に自分から来てやったっていうのにどういうつもり!? 早く素直になってドアを開けてから感謝の言葉の一つでも述べて、丁重に持て成しなさいよッ!」
松本は何か言ってやりたい衝動が沸かない訳ではないが、このギリギリの攻防を考えれば、いや考えないくても劣勢に立たされている事は分かっているからこそ何も言い返さずドアを閉めるという行為に全力を捧げる。
「ちょっと…!」女は青い瞳をクシャリと隠す。
「ホントに…!」苦悶を訴えるその声は、
「痛い…!」色艶のある女らしい声色で、松本はこれにやられた。力が抜けたのだ。
女はこの瞬間を見逃しはしなかった。
強引に、細く小さな体をドアの隙間にねじ込んだ勢いそのままに室内へ突貫する。
松本もろとも巻き添えにしてみすぼらしい男の汚い部屋へ、到達したのだ。
国境線を、守るべきラインを守れずに兵士は志半ば倒れ、敵はその図体の上を容赦なく踏みつけにして行ってしまう。そして先祖代々の土地を凌辱されてしまうのだ。その筈だ。
しかし、敵は、ともに倒れて動かない。動こうとしない。
松本は恐る恐る目を開ける。
眼前に居たのは少女である。人懐っこい笑顔で勝ち誇って微笑んでいる。
部屋の中の窓の外から刺す光を返す少女の髪が、ふわりと揺れる。それでドアが二人を外界から隠してくれたことが分かった。
「少しくらいさ、話、聞いてくれても、いいんじゃない?」
紅く、ふっくらとした、瑞々しい唇が、それを云う。
松本は放心して見蕩れていた。
いい匂いのする小さくしなやかな体が意外に思えるくらいに重くて、熱い。
少女の声は哀愁と期待に含んだものに聞こえた。
その声のまま、牽き付けを起こしたような男子を下敷きにして、少女は続ける。
「私、死ぬのかな。」
そういって、嗤った。
少女の名前は一ノ瀬瑠那。天真爛漫と傍若無人を兼ねて揃えて天上天下唯我独尊と云わんばかりに誰彼構わず人懐こい。




