ママとの電話
学校から徒歩、20分程歩くと市民図書館に着いた。
自動ドアを通って、出入口、そばに置いてある長椅子に座った。
たまに、勉強がてら図書館には通っている。
スクールバッグからスマホを出すと画面を開いて、着信履歴を見た。何件も【♡愛しのママ♡】から電話が着ていた。
pull…pull…、カチャ。
『もしもし、ママ?』
『レイ君。どうして、ママの電話に出られなかったの?』
華やかに澄んだ声がレインの耳に響きわたる。
『ごめんなさい…。僕は出たかったんだっ、でも、うるさいハエ共が僕を邪魔してくる。早く会いたいよママ』
甘えた口調でレインは答えた。
『もう。はしたない言葉使わないの!それだけ、レインが魅力的なのよ?』
『僕は…ママだけしかいらない。いつ帰ってくるの?そろそろ耳掃除してくれないと困るよ』
『レイ君、ママもレイ君しかいらないよ。明後日には帰れるから待っててね。そうそう、お土産げ何がいいか聞くの忘れちゃった、何が欲しい?』
『明後日か…待ち遠しいな…。お土産は、ママが無事に帰って来ることだよ!』
『ママは幸せよ♡また連絡するわ』
『は~い』
レインは大きくため息を着いた。
自動販売機の前に立って炭酸ジュースのボタンを押す。
キャップを開けた。プシュッ。
「ゴクゴク…。スパアッ。ママ、海外旅行何度目だよ。僕も連れてけよ」
さてと、勉強でもしようかな。
静かな誰もいない空席に座って筆入れなど必要な物を出した。
「あれ?もしかしてレイン君?」
前から見覚えのある学生制服を着た女子が3冊の本を抱えてやって来た。
「やぁ。キミは確か…同じクラスの里香さん、かな?」
「名前、覚えていてくれてたんだ」
「当然だよ。図書館、キミも良く来るの?」
「うん、暇なときとか、…相席しても良いかな…?」
「OK!カモン」
レインが座席を引いた。里香はおどおどしながら椅子に腰かけた。
レイン様も良く図書館来るんだ…。
本当に綺麗な顔立ちだなぁ。まるで整形したかのように美しい。
横顔をじっと本の中で見つめる里香。
「ん?どうかした?」
「あっ、いやっ、」
あたふたして目をキョロキョロとさせた。
「……“初めての彼氏とファーストキス”?そんな本あるんだ、フフっ。もしかして、攻略本的なやつ?」
レインは里香の持っている本のタイトルを見てクスクスと笑っている。
「あっ」
恥ずかしくて里香は下を向いた。
「気持ち悪いよね…こんな本読んでるなんて。彼氏すら居ないくせに…」
読んでいた本を腕で隠した。
その姿を見たレインは里香を覗き込む。
「気持ち悪くないよ」
包み込まれるようなブルーの瞳に見つめられ里香は胸が踊った。
初めてレイン様と二人きりで会話した、こんな間近で。私だけ贅沢して良いのかな?他のレインファンにバレたら恨まれるだろうな。
「あっ、あの、レイン君は彼女いるよね……?」
そりゃ、ファンクラブがあるんだからいるに決まってるよねー。
クイッ。突然、レインが里香の顎を上に持ちあげた。
「なんなら試してみる?僕との初めてのKISS」
えっ!?待って待って!!なにこの状況!!レイン様にアゴクイされてるよ!!キスって…え、レイン様と!?
胸がバクバクと体内で高鳴る。息苦しくなった。
思わず里香は目をつぶって口を少し尖らせた。
「……なんちゃって、冗談だよ。フフっ」
―留守番サービスセンターに接続します。
『もしもし。ママ?そっちは今何時かな?さっきね、図書館で偶々、クラス女子と会ってね、ちょっとからかってみたんだ。そしたら、キス顔が不細工すぎて笑い堪えるの必死だったよ。ママにも見せたかったなぁ。あ、勝手なことしてごめんなさい。僕今から寝るね、おやすみ。チュッ』
かなり喋りすぎたかな?
レインはスマホをミニテーブルに置くとパックを外した。
僕は美貌の持ち主。
好まれても、妬まれても仕方がないよねー。