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夜を走る。

 過日。

 僕は郡山にいた。

 第二原発で働いていた時の同僚たちと、ひさびさの飲み会を行った。


 被災から、1年ちょっとがたった頃だった。

 20名超ほどで集まって、僕らは情報交換をし合った。


 ほとんどが福島住みの人だったが、そうでない人もいた。

 僕と同じように、働き口を県外に求めた人。

 家族関係から、あるいは健康上の理由から、県外に出たという人もいた。


 あれからどうしたか。

 これからどうするのか。


 いろんな身の振り方を、僕は聞いた。


 いわき市からみんなバスで通うことになったという、第二原発での新たな働き方の話。

 あの日第二原発で起こっていた、様々な事象。悲劇と混乱。 


 何度も驚きの声を上げながら、僕はあの日の出来事を聞いた。

 当たり前だけれど、あの日あの場所では、たくさんの人の運命が交錯していたのだ。

 その結果として、僕らはこの日この場所に集い、旧交を温めているのだ。


 感慨とともに、酒を呑んだ。


 宴もたけなわになった頃、どうしても気になって、僕は辺りを見回した。


 その席には、彼の姿がなかった。

 僕の空手の師匠、職場の後輩。

 仲が悪いと思っていた、そしてのっぴきならない被ばくをした、彼の姿がなかった。


 誰かが言った。


「あいつ? 結婚したよ」

「ほら、例の彼女と」

「無職だけど」

「いや働けよ!」


 みんなが、笑いながら彼のことを語った。

 どの顔にも、憂いはなかった。

 ただただ純粋に、彼と彼女の未来を祝福していた。


 彼は結婚した。

 あれだけの被ばくをしながら、誰かと一緒になる決断をした。 

 ひとりではなくふたりで、生きていく道を選んだ。

 

 ちょうど、僕と妻がそうだったように。

 あの暗闇の中、声をかけ合いながら車を走らせたように。


 彼と彼女は、今また、闇の中に足を踏み出した。

 ふたりで手を取り合って。 


 そのことが嬉しくて、なんだかじんわりきて、僕はトイレで、少し泣いた。




 僕らの飲み会は、けっこう荒い。

 なんせ酒飲みばかりだし、気性の荒い人が多いから、毎回毎回、ひどいことになる。


 その晩、僕はしたたかに酔った。

 にも関わらず、僕は走った。

 真夜中の郡山の大通りを、全力で走った。

 ジョギングなんてもんじゃない。

 普段でもやらないような、全力全開のフルパワーで。


 みんなが呆れていた。

 みんなが笑っていた。


 だけど止まらなかった。

 だけど止められなかった。


 そのうち、何人かが、僕を追ってきた。

 僕は負けじと力を振り絞り、あとでかなりの痛い目を見た。

 

 でも、後悔はなかった。

 僕はすごく、嬉しかったのだ。


 彼の決断と、それを支えてくれる人のいたことが。

 たとえこの先、苦難の道を歩いて行くのだとしても。

 最愛の人と共にいられる人生ならば、それはきっと、なかなかに悪くない。






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