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死後の世界へ

作者: HELIOS

 笑い声と共に羽を生やした丸裸の子供達は、雲の下へ下へ降りて行った。

 ひとりぼっちになった僕は、急に不安になった。


 何処へ行けば良いのだろう。


 雲の端から下を覗き、降りる場所を探す。

 行かねばならない使命感はあるが、場所が決まらない。

 どうして他の子達は、すぐに行くべき場所を見つけることができたのだろう。


”あそこへ行きなさい”


 光の塊は僕にそう言った。

 言ったというが脳に直接言葉を送られてるようなもので、低く響くその声は優しく温かいものだった。

 僕は下を見る。光が言った場所を何故か理解していた。

 僕は行くことを決めた。

 目的地がはっきりした僕は、堂々と下へ降りたのだった。



《生まれる前の記憶があるという子供達に絵を描いてもらいました。不思議なことに、雲の上から天使のようなものが地上へ降りる絵が多いですね。絵を描いてくれた一人に話を聞いてみましょう。──この天使はフゥちゃんなのかな?》

《そう! フゥはテンシだったの! フゥだけじゃなくて、い~っぱいいたんだよぉ》


 テレビの中で生まれる前の話をする女の子。それを僕は曖昧な記憶と重ねていた。

「これ優翼ゆうすけのことじゃない? ほら、昔よく言ってたじゃない!」

 神様や前世を信じる母は興奮しながら僕見た。

「うん……そうかも」

 僕は自信なさげに言った。

《生まれる前の記憶は幼いときに聞くと答えてくれる可能性が高いようです。大人になると忘れてしまうのでしょうか》

 僕はお姉さんの言葉に頷いた。

 幼い時、僕は母に詳しくその話を話していたらしい。それは僕自身も覚えている。しかし、十七歳になった僕の脳は昔より鮮明に生まれる前の記憶というものを思い出させてくれない。成長と共に靄がかかっていった。

 そもそも現実なのか。夢だったのではないか。多くの人に言われた。僕自身も疑った。だが、夢にしてしまうには偶然が多いのだ。


 ──僕が生まれる前、両親は団地に住んでいて、団地には母以外に何人もの妊婦がいたらしい。そして、僕以外の子供達は一気に生まれたらしい。僕だけ遅れて生まれてきたという。

 僕は思うのだ。僕が一番遅く降りたからではないかと。

 

 ──宗教のチラシがポストに入っていた。そこに【神は光】とあったのだ。

 あの眩しくて目も開けられないと思う程輝いているのに、優しくて温かかった光の塊は神様だったのではないか。


 そんなことがあって僕は神を信じ、この子の記憶も信じる。


 部屋に戻った僕は本を開いた。神話の本だ。

 僕が会った神様は誰なのだろう。そんな疑問から読み始めたのだが、全部読み切ったところで誰なのかは分からなかった。あの少ない記憶では、断定するのは難しかったのだ。

 それに、この本に載っていないのかもしれない。載っている神様ならば、太陽神アポロンだったら良いなと思う。声は男の声だった気がするし、太陽のように輝いていたからという安直な考えだ。

 それでも、全く姿が分からないままよりは良いと感じた。



 今日は期末テストがある日で、皆いつになくテンションが低い。

「テスト嫌だ~!」

 ノートを閉じる友人。

「でも、早く帰れるじゃん? 家に帰ったら、録画してた映画見るんだ!」

「勉強は?」

「程々にする。どうせ明日、難しい教科ないし。あ~早く帰って見たい!」

神木かみきってさ……いっつも楽しそうだよな。生きてるだけで幸せ~、みたいな」

 友人が僕によく言う言葉だった。

 僕は普通に生きていて、楽しそうと言われる事はよく分からなかった。楽しいといえば楽しい。でも皆も何だかんだ楽しいだろ? って感じだった。特別僕が楽しんで生きているわけではないと思う。

「死ぬまでそうやって、楽しんで生きてそう」

 友人は冗談を含んで言った。

「うん。死ぬのも楽しみ」

 僕は本気で言った。

「ええ!? なんで!? 死ぬのが楽しみって! 分っかんないなぁ~!! 俺は死ぬの嫌だね!」

 逆に僕はなんでと思ってしまう。

「別に死にたいわけじゃないんだ。最後の楽しみってやつ?」

「なにそれ」

「死んだら、死後の世界ってどんなのか知れるんだよ。死んだらこうなる、ああなるって色々意見あるじゃんか。それの答えを知れるんだ。死んだ瞬間どうなるか。幽霊になるってどういうことなのか。天国と地獄がどんな所なのか……」

「地獄行くのかよ」

「行きたくないけど、見学はしてみたい」

「おっかしい」

「あと、もう一度雲の上から世界を見降ろしてみたい」

「は? もう一度? でも、それは分からないでもないか」

「ちょっとは死ぬの楽しみになった?」

「ならない!!」

 友人にぴしゃりと言われ、チャイムが鳴った。



 生きているだけで幸せそうと言われる僕にも、悩みはある。

 

 テストが終わり自宅へ帰ると、家に男がいた。会うのは三度目だ。

「こんにちは」

 僕は母が友人と紹介した男に挨拶をして部屋に行った。

「いるのか」

 僕は舌打ちをして、鞄を乱暴に放った。

 僕は勘が良いようで、母が男に恋していると気付いてしまった。最初は友人関係だったのだろうが、父とギクシャクし始めてから関係は変わってしまったようだ。

 僕は、あの男が大嫌いだ。家にいると思うだけで、母と一緒にいると思うだけで吐き気がする。

 家庭があると知っているなら、距離を取ってほしい。僕の家族を壊さないでほしい。


「うわああ‼」


 僕は驚いて、兄の部屋の方を向く。

「兄さ……」

 僕の声は壁を叩く音でかき消された。

 ゲーム内で死んだのか、よくないことが起きたのだろう。喚き声が壁越しに聞こえる。

 両親が勉強を強要し過ぎたために、ニートになった兄。こういう時、兄は一番の相談相手になってくれるはずなのに、僕は頼ることができない。 

「ちょっと! お客様が来ているのよ! 静かになさい!」

 母が文句を部屋の前で言っているようだ。

”兄貴をそうしたのは母さんじゃないか! もっと違う言葉を掛けてあげられないのかよ!”

 僕は言えず、いつも唾液と一緒に飲み込んでしまうんだ。

 

 僕の悩み()後悔だ。

 僕は何年も前から兄の異変に気付いていたんだ。

『兄貴はもう勉強したくないんだ! 逃げたいって思ってる! もっと自由にさせてやれよ!!』

『何を言っているの! お兄ちゃんは良い学校に行きたいって頑張ってるの!』

『そうだ。優翼、弟のお前が兄の邪魔をしてどうする!』

 あの時僕がもっと強く言えていたら、兄は変わらない優しい兄だったのだろうか。

 兄が変わってしまって、罪の擦り付け合いをして、両親が喧嘩になることはなかったのだろうか。

 父が家族に冷たくなることはなかったのだろうか。

 母があの男に恋をすることはなかったのだろうか。

 兄は自由に自分の為の人生を生きれたのだろうか。

 僕がこんなに後悔することはなかったのだろうか。


 こうして悩んでいると、生まれる前のことを思い出すんだ。


“あそこへ行きなさい”


 どうして僕は神様にここへ来るように言われたのだろうか。

 こうなるのを止めるためではなかったのだろうか。

 果たせなかった僕はどうすれば良いのだろうか。


 まだ、間に合うだろうか……。


 気付けば枕はぐっしょり濡れていた。



 日曜日。父も休みのこの日。

 僕は両親に頼むことにした。

「仲の良い家族になりたい……仲の良い家族になりたい……!」

 呪文のように部屋で言う練習をした。

 まずは父さんと母さんを仲直りさせて、三人で兄貴の部屋に行って──。


「優翼、ちょっと良いか?」


 ノックの音に僕の思考は止まる。

 僕は勘が良いんだ。

 嫌な予感がした。


 父と一緒にリビングへ行くと、母と兄がいた。

「兄貴、出てきたんだ……」

 素直に嬉しかった。髪はボサボサだし、髭も生えていたが、リビングにいる兄を見るのは数年ぶりだった。

 僕の勘は、外れることだってある。今回は外れだろう。兄貴だって出てきてくれたんだから。

 なんだかんだ父さんだ。このままじゃいけないって思ってくれたんだ。

 期待感が膨らんで、思わずニヤけてしまう。


「離婚する」


 シンと静まったリビング。

 下を向く母。

 無反応の兄。

 僕は口角を上げたまま、動けないでいた。

「優翼、お前はどうする」

 僕はぎこちなく父の方を見た。

「父さんと母さん、どっちに付いてくる?」

「なんで僕だけに聞くの? 兄貴は?」

 ゆっくり状況を飲み込みながら、僕は聞いた。

「優翼が選ばなかった方が引きとる」

「……なんだよそれ。兄貴はいらないってこと?」

「いらないとは言っていないだろう。二人とも大事な息子だ」

 僕は勘が良いんだ。嘘って分かった。

「だ、大事なら……。仲の……家族に……ない?」

 父が「あ?」と聞き返してくる。

 ──今、言うんだ。

「仲の良い家族に戻れない!?」

 僕が出せる最大音量で叫んだ。

「仲の良い家族に戻る?」

「昔みたいにさ……皆で出掛けたり、お弁当食べたり……」

「昔のことだ。もう戻れない。お前も分かっているだろう」

 僕は零れそうな涙を堪える。

「こんな話するために集めたのかよ……。なんとかしなきゃって思ってくれたんじゃないのかよ!!」

「そうだ。このままではいけない。だから離婚を決めたんだ」

「家族を纏める話は一回もしなかったくせに、離れる話はするんだな……」

「生意気言うな! 子供のくせに!」

 僕はカッとなってしまう。

「親のくせに! 子供のこと、ちゃんと見なかったくせに!」

 父の強烈な平手打ちが飛んできた。僕はバランスを崩して倒れた。

「ゆぅ……すけ」

 兄の声と父の荒い息が聞こえた。

 僕は父を睨みつけながら立ち上がった。

「良いよ……。分かったよ……」

 僕の行動が遅かった結果だ。

「どっちの方へ行くか、まだ決めれない。外に行ってくる」

 僕は靴を履いた。

「そうね。今すぐに決めなくても良いわ。今日一日ゆっくり考えてね」

「母さんがあの男の人と付き合わないなら、母さんの方へ行こうかな」

 僕は外へ出た。家の中から父の怒りの声が聞こえた。

「やっぱり知らなかったか……」

 この頬の痛み分の仕返しにはなっただろう。

 僕の家の前は道路だ。この時間は車がよく通る。


 もう生きたいと思わなくなってしまったこの世界。

 僕は死ぬのも楽しみだ。

 だから、怖くない。


 僕はわざと車にかれた。


 僕は死んだ。



 ブー! ブー!

 サイレンとともに目を開けると真っ暗で、何も見えなかった。

 死後の世界は【無】なのだろうか。

「あ~また? 君自殺大好きっ子なの?」

 そう思った矢先、懐かしい声がした。

「太陽神アポロン?」

「ん? 違うけど。はい、起きて! 今外すから」

 訳の分からぬまま体を起こされる。カチャカチャ音がしたかと思うと、急に視界が明るくなった。

「おはよう。ヤエキクミウス」

「八重菊みうす?」

「まだ寝ぼけてる? ま、仕方ないか!」

 目をショボショボさせながら僕は辺りを見た。ここは雲の上だった。僕は雲でできた揺り籠で寝ていたらしい。僕の両隣、さらに隣の隣の人も寝ていて、おかしな機械を頭に着けて寝ている。

「俺はここの管理人で、ここは魂強化をする場所ね。この魂強化装置を使って記憶を一時的に消して、君は魂強化のために地球へ行ってたんだよ」

 そう話すのは金髪と金の髭を生やした大男。

「魂強化?」

「そう。立派な神様になるために、魂を鍛えるのさ!」

「あ……そうだ……僕はヤエキクミウス。魂強化をするのは……二度目?」

「だんだん思いだしてきたかな? また、ここは娯楽施設としても使われるんだ。筋トレならぬ魂トレが流行ってるからね」

「そうなの?」

「魂弱いと良い神様になれないからね! そんな君はリタイヤしたから、もう一回魂強化装置を着けてもらうよ。これは通過儀礼だからね! 一度は生涯全うしなくちゃ駄目駄目っ」

「もう少し、休憩しても良い? 頭グラグラする。記憶が混ざり混ざって……」

「勿論だとも。体調万全にしてからにしてね。ちなみに、次のオススメはコレ!」

 大男はタブレット型の機械を見せてきた。

「男の子も良いけど、女の子も体験してきなよ。んで、虐められっ子体質。難易度は今回と変わらないと思うよ。それとも地球以外の生命体にする? 土星の人気が急上昇中で……──」 

 ブー! ブー!

 サイレンが鳴る。

「あー……戦争で戦死したみたい。強化するとき声掛けてね」

 大男はサイレンが鳴った方へ飛んでいった。

「あの巨体で、綺麗に飛ぶな……」

 僕は息を吐くと揺り籠から出て、雲の端まで歩いて行った。そして、下を覗くとすぐ下には町がある。上を見ると雲と空。少し違うが、もう一度見たいと思っていた見慣れていた光景だった。

 記憶を取り戻していく中で、神木優翼としての人生が過去の思い出になっていく。

 父さん役と母さん役と兄貴役の誰かは、上手くやっているだろうか。優翼が亡くなってどうしたのだろう。

 もうそんな風に考えてしまっていて、死後の世界を楽しみにしていたのに死んでみれば全てそういう設定だったんだと可笑しくなって笑ってしまった。

「早く魂強化して、立派な神様にならないとな。今回も良い経験になった!」

 次は、後悔しない生き方をするんだ。

 【死後の世界へ】を読んでいただき、ありがとうございます!


 一応ファンタジー設定にしましたが、ファンタジーなんですかね?


 この話は作者HELIOSの実話を基にした話です(笑)

 どの辺かと言いますと……。生まれる前の記憶、テレビ(そういう放送があった)、自分だけ遅れて生まれた、宗教のチラシ、です!

 あ、死ぬのも楽しみです!

 死後の世界が本当はどうなっているか、楽しみですねヽ(´▽`)ノ

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― 新着の感想 ―
[良い点] 生まれる前の記憶…。それがある状態でこの世界にいるのは中々苦労しそうです。 最後は軽い雰囲気になっていますがテーマ自体はかなり深い物を感じました。 [一言] 途中と最後で印象がくるっと変…
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