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三国志~武幽電~  作者: 伏(龍)


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20/44

策謀


「く…」


 山間の細い山道を細身ながらも力強い躍動感を感じさせる漢が跳ねるように駆け抜けていく。


 その顔は整ったものであるが、どこか酷薄な印象を与えさせる。


 だが、その顔は今激しい焦燥と憤りが浮かんでいる。


(子元!今だ、退路を断てぃ)


(は、父上)


 メキメキメキッ!!


「なんだと!」


 山道を駆けていた漢の目の前で左右の木々が道を塞ぐように倒れ込む。


 漢は倒木に塞がれた道を前に忌々しげに唾を吐く。


(子上、距離を詰めよ)


(承知しました)


(子元、挟撃せよ)


(は!)


「く…一体これはどういうつもりだ!」


 行く手を倒木で塞がれた漢がゆっくりと背後に振り向き叫ぶ。


「これは異なことを…


 権力や武力にものを言わせた叛逆しいぎゃくや誅殺はあなたの得意技ではなかったですかね?


 皇帝陛下さま」


 口元に冷たい笑みを貼り付けた漢が剣を片手にゆっくりと追いつめた男との距離を詰めながら漢を揶揄する言葉を吐く。


「ぅおのれ!余を侮辱するのか司馬昭」


「そんなつもりはないですよ、曹丕皇帝」

 


曹丕 字は子桓


 魏朝の初代皇帝。

 父曹操の勢力を受け継ぎ、後漢献帝から禅譲を受けて魏王朝を開く。

 曹操と卞氏との長子として生まれ、8歳で巧みに文章を書き、騎射や剣術を得意としたとされる。

 後に曹操の下で五官中郎将として副丞相となり、曹操の不在を守るようになった。

 父・曹操が逝去すると、魏王に即位し丞相職の地位を受け継ぎ、さらに献帝に禅譲を迫って皇帝の座に即いた。

 ここで後漢が滅亡し、三国時代に入ることとなる。

 曹丕は内政の諸制度を整え、父から受け継いだ魏を安定勢力とした。

 特に陳羣の献言による九品官人法の制定は後の世に長く受け継がれたが、在位から僅か7年で死去した。



 司馬昭 字は子上

 

 三国時代の魏の武将、政治家。(三国志演義では子尚)。

 司馬懿の息子であり、司馬師の弟、晋の開祖司馬炎の父。

 兄とともに数多くの陰謀・政争を主導し、魏を簒奪する足場を固めたことから、陰謀家として非難されることが多い。

 鄧艾・鍾会らに16万の兵を率いらせて蜀漢を攻めさせ、滅ぼした(蜀漢の滅亡)のも司馬昭であった。



「昭。


 遊んでいる暇などない。


 意味のない会話などするな」


 曹丕の行く手を塞いだ倒木の脇から歩出てきたのは司馬昭と似た顔立ちでありながら、冷たい印象を醸す司馬昭とは雰囲気が違う。


 全く感情を排したかのような無表情で発する声にすら感情が感じられない。


「わかっていますよ、兄上。


 相変わらず無駄なことが嫌いなんですね」


「貴様もか…司馬師!


 貴様ら司馬一族を引き立ててやったのは余だということを忘れたか!」


 じりじりと二人との距離を均等になるように間合いを計りつつ曹丕が激昂する。



 司馬師 字は子元


 中国三国時代魏に仕えた武将、政治家。

 司馬懿の長子で、司馬昭・司馬幹の同母兄。生母は張春華。

 彼は典雅で威厳のある美しい容姿の持ち主で、沈着冷静、先見の明に長けていたとされる。

 司馬懿が魏の曹爽とその派閥を討つと、父に協力して策謀をめぐらせた。

 その冴えは、弟の司馬昭すら兄の考えを知ることができなかった程だという。



「くだらん。


 今、この時にそんなものが何の役に立つのか言ってみよ曹丕」


 無表情のまま言い放つ司馬師にかつての主君に対する敬意は微塵も感じられない。


 言葉の上での形式上の敬意すらない。


「く…」


「ははっ、兄上は相変わらずきついきつい。


 皇帝陛下はよく分かってないんだよきっと。


 今がどんな状況かはもとより、あの時代の自分の国がわれら司馬一族に乗っ取られたことすらもね」


「なんだと!」


 へらへらと冷笑を浮かべながら語る司馬昭の言葉に曹丕が目を見開く。


「ほらね。


 いいよ、教えてあげるさ。


 魏はあんたの後、曹叡、曹芳の代で滅びたんだよ。


 あっという間にね」


「…滅びたのではない。


 お前達が滅ぼしたのであろうが!」


 叫んだ曹丕が抜きはなった剣を司馬昭へと投げつけた。


 鋭い剣光を放ちながら解き放たれた剣は一直線に司馬昭の喉元へと吸い込まれていく。


「がっ!」


 一瞬の悲鳴を上げて司馬昭が後ろへと倒れ込んでいく。


「…戦場でのお前を見たことは無かったが、その飛剣がお前の技か。


 なかなかの錬度であると認めよう。


 その錬度での一撃では、唯一の武器をあっさりと投げ放つ可能性を全く考えてなかった昭には避けられぬ」


「ふ、無礼な物言いの割には冷静な判断だ。


 全盛の肉体を取り戻した今の余なら、お前らのようなそこそこ使える程度の武など恐るるに足りん。


 ましてや1対1ならなおさらだ」


 曹丕が司馬師と相対しながら手首を返す。


 シュッ


 すると司馬昭の喉元に刺さっていた剣は、鋭い音を立てながら瞬く間に曹丕の手元へと戻る。


 極細の鋼線で自らの剣と繋ぎ止めているのだろう。


 しかも、どれだけの修練をしたものか、ある程度の遠隔操作もできるらしい。

 

「…」


 再び剣を構えた曹丕が、未だに剣も抜かぬまま冷めた目で曹丕を見返す司馬師との間合いを詰めていく。


 後方から追ってきていた司馬昭が倒れた今、この場から逃げ出すという選択肢もあったはずだが、曹丕は司馬師と戦うことを選んだ。


 むろん、曹丕にしてみれば十分勝算があると見込んでのことである。


 曹丕がジワリと間合いを詰めてくるのを冷静に見ていた司馬師がようやく腰を落として構える。


 左腰に佩いた剣の柄にそっと手を触れるかの如き構えである。


「ほう…抜き打ちか。


 そんな見え見えの技が余に通用すると思うなよ」


 曹丕は余裕を感じさせる表情でそう呟くと剣の間合いの3歩以上も手前で間合いを詰めるのを止めた。


「この位置。


 お前の間合いにはまだ遠いが…」


 シュ


 曹丕の手首のわずかな動きだけで投じられた剣が司馬師を襲う。


「…」

 

 最も避けづらい体の中央を狙った飛剣を司馬師は巧みな足捌きのみで半身になってかわす。

 なおかつ、剣が手を離れた隙をつこうと間合いを詰めるべく踏みだそうとする司馬師。


「甘い!」


 曹丕の鋭い声と共に、司馬師を通り過ぎたはずの剣が司馬師の背後から斬りかかってくる。


 曹丕の手元の操作によるものである。


「…」


 その気配に気付いた司馬師は前に出るのを諦め大きく横に移動することで背後からの一撃を避けた。


 よけた先で再び曹丕と向かい合った両者の間合いは全く変わっていない。


「分かったか。


 この間合いこそが余の間合いだということだ」


 剣を構えながらことさら余裕を見せる曹丕に司馬師は無表情のまま口を開く。


「つまらんこけおどしだ…」


「なんだと?」


「ことさらにそんな奇策を誇示する理由などない。


 ならば、その飛剣の技こそが囮。


 こちらに飛剣をかいくぐらせ、あえて懐に飛び込ませて最後は…左の袖に隠した暗器でも使う。


 と言ったところだろう」


 たんたんと語る司馬師の表情からは何も読み取ることはできない。

 

「…ふ、さすがは司馬の長男よ。


 小細工は通用せぬか…だが、それが分かったとてお前の状況が変わる訳ではない。


 離れていれば飛剣が、懐に飛び込んでも我が技の餌食…」


 司馬師に自らの暗器を見破られた曹丕は一瞬驚愕の表情を浮かべたが、それでも自らの有利は変わらないと思い直すと再び余裕の笑みを浮かべる。


「…もう一度我が陣門に降らぬか?司馬師よ。


 軽薄な昭はあまり好かぬが、徹底的に無駄を排し合理化したお前の生き方は我が臣下にふさわしい」


「…」


 尊大な態度で手を伸ばす曹丕に対し司馬師は何の反応も示さず静かに構え続ける。


「…よかろう、所詮は反骨の輩共よ。


 後の禍根とならぬようここで討ち滅ぼしてくれるわ」


 曹丕の眼が殺気を帯び細まる。


 戦場に一瞬にして張りつめた空気が漂い、互いに彫像のように微動だにしない。


 今のままの間合いでは不利であることは承知のはずなのに司馬師も動こうとする気配はない。


 ヒュ



 わずかなにらみ合いの刹那ののち最初に動いたのはやはり、間合いの優位を持つ曹丕だ。


 今度は全くの予備動作なしで自らの剣を司馬師の身体の中央へと向けて放つ。

 

 司馬師はその神速の飛剣を先ほどと同じようにわずかな体重移動とすり足

でかわす。


 ただ、先ほどとは違うのはやり過ごした飛剣の軌跡に自らの左腕を振り下ろしたことだ。


(父上)


(構わぬ、やれ。


 子上のがさつな策より良い)


「馬鹿が!


 我が飛剣の導線がそんなことで乱れるとでも思うたか!」


 司馬師の行動も自らの飛剣に対するものとしては想定済みだったのか焦る素振りも見せず曹丕は右手首を素早く返す。

 

 飛剣の要とも言える導線である。


 張りつめた状態で斬撃を加えてもそう簡単に断ち切れるものではない。


 ましてや手などで触れようものなら、曹丕の手元の操作一つで切断すら可能である。


 この時も曹丕は何の躊躇もなく司馬師の左手を導線で巻き切断するべく手元を操作。


 導線に振り下ろされていた司馬師の左腕にまるで生き物の様に導線が巻き付いていく。

 

 後は曹丕がその導線を強く引くだけで司馬師の左腕は胴体から斬り離される。


 その瞬間、司馬師の右手が霞んだ。


「ば、馬鹿な!!」


 曹丕が驚愕の声を上げる。


 その視線の先では司馬師の抜き打ちによって切断された司馬師の左腕が宙を舞っている。


「く、導線が」


 一瞬遅れて導線を引いた曹丕だが、司馬師の自らの左腕の切断という思いがけぬ動作によって想定外に乱された導線は狙い通りの効果を発揮することはなく、絡まるように左腕に巻き付いていく。


「…」


 自らで左腕を切断した司馬師はさらにその剣で宙を舞う左腕を突き刺し、地面に深く縫いつけた。

 

「ちぃ!」


 それを見た曹丕が鋭い舌打ちと共に右腕に繋がれていた導線を自ら投げ捨てる。


 絡まった状態で縫いつけられた腕から飛剣を回収することは手元の操作だけでは不可能だと悟ったからである。


 ならば、一刻も早く導線を切り離さなければ自らの行動範囲すら狭めてしまう。


「…」


 司馬師はそんな曹丕の動きになど全く構わず、左腕を突き刺したと同時に曹丕に向かって一気に間合いを詰めている。


「片腕で武器も持たずに突っ込んでくるとは血迷ったか司馬師!」


 低い体勢で飛び込んでくる司馬師を迎え撃つべく左袖に仕込んだ暗器を発動させるべく構える。


 しかし、間合いに入る直前、司馬師は完全に足を止め、さらには戦闘態勢をも解く。


「か!…な、なんだこ、これ…は」


 直立した司馬師の冷めた視線の先には自らの胸から生えた剣先を驚愕の表情で見つめる曹丕がいる。


「へ~いか。


 もしかして僕が死んだと思っちゃいましたか?」


「し、司馬昭…な、なぜ…」


 背後から聞こえる声にギギギと首を回して自らに剣を突き立てている者の顔を見て曹丕の眼が見開く。


「それは、私からご説明しましょう。殿下」


 その声は佇む司馬師の背後から聞こえてくる。


 下草をかさりとも揺らさずに歩み出て来たのは、このゲームに参加する武将が全盛の肉体を与えられていることを考えれば不思議なことであるが初老の漢であった。


「やはり…う、後ろにはお前がいたか…司馬懿!」



 


 司馬懿 字は仲達


 中国後漢末期から三国時代の人で、魏に仕えた武将、政治家で西晋の礎を築いた人物。

 司馬懿の才能を聞いた曹操によって出仕を求められるが、司馬懿は漢朝の命運が衰微していることを知り、曹氏に仕えることを望まず、病気を理由に辞退した。

 曹操は刺客を放って、「もし驚いて逃げるようであれば殺せ」と命じたが、司馬懿は臥して動かなかったために難を逃れたという。

 その後曹操が丞相となり、「捕らえてでも連れてくるように」と命令したため、やむを得ず出仕した。

 出仕当初は文官として公子たちに仕えたが、徐々に軍略の献策などで認められるようになる。

 曹操は鋭敏に過ぎる司馬懿を警戒していたが、曹丕は司馬懿と親しく、何かと彼を庇っていた。司馬懿の方も、軽挙な行いを慎んで曹丕に仕えたため、絶大な信頼を得るにいたった。

 関羽が荊州から北上して樊城を陥れようとした時、首都の許昌以南で関羽に呼応する者が相次ぎ、曹操すら狼狽し遷都の議も上がった。

 司馬懿は蒋済と共にそれに反対。孫権勢力を巻き込んで関羽を倒す事を献策し、見事に成功を収める。

 諸葛亮がたびたび魏に攻め込むもこれを退け、諸葛亮の最後の戦いとなった五丈原の戦いで司馬懿は徹底的に防衛に徹する。

 諸葛亮は屯田を行い、持久戦の構えをとって五丈原で司馬懿と長期に渡って対陣するが、諸葛亮は病死し蜀軍は撤退。。

 司馬懿は撤退した蜀軍に追撃をかけようとしたが、蜀軍が魏軍に再度攻撃する様子を示したので司馬懿は引き退いた。その事で人々は諺を作った。


「死せる諸葛、生ける仲達を走らす」。


 この話を聞いた司馬懿は「生者を相手にする事はできるが、死者を相手にするのは苦手だ」と言ったという。

 


「久しゅうございますな殿下。お亡くなりになる直前にお会いした時以来ですか…


 もっとも…あの病も私の手の者による緩やかな毒殺でしたが」


 司馬懿はゆっくりと曹丕に近づきながら、白い髭を揺らしつつ邪悪な笑みを浮かべる。


「く!…あれほど重用してやった恩を忘れたか…」 


「甘いですな、殿下。


 乱世の奸雄と言われたお父上とは比べものにもなりませぬ」


「なんだと!」


「おっと、陛下~。突然動くと危ないじゃないですか。


 早死にしたいんですか?」


 既にライフゲージが気絶レベルの直前まで達している曹丕は意識はあっても動くこともままならない。


 司馬昭が剣先を少し大きく動かせば絶命に至る。


「滑稽ですな。


 長年抱き続けた劣等感は死んでからも変わりませんか。


 ま、だからこそあの奸雄には遠く及ばぬのですが」


 司馬懿がそう呟きながら司馬師を追い抜き曹丕の前に立つ。


 そして、いつの間にか司馬師の左腕も復元している。


「あの漢は私を召し出しておきながら決して重用しようとはしなかった。


 有能であることを誰よりも認めながら、私の危険性をも聡く見極めていた。


 おかげで、私の代による国盗りは間に合いませなんだ。


 持病で早々に死んでくれなければ、準備すら間に合わず司馬家の専横も成らなかったかも知れぬ」


「な、なんだと…」


「あの漢は漢帝国を奪えなかったのではない。


 奪わなかった…


 あのまま漢という国が存続していれば我が一族は国家に手は出せぬということをあの奸雄は知っていたのだ。


 あの時、漢の国を潰せたのは戦乱の当初から帝を押さえ続けた曹一族のみ…


 魏の臣下であった我らでは大義名分が足りぬ。


 どれだけ力を蓄えようとも民草の信を得ることは出来ぬ。


 それだけ400年続いた国の重みは大きい。


 あの奸雄めは自分であれば、漢を乗っ取り我らを抑え続けることは出来ると思っていたはずだ。


 それをしなかったのはむしろ後の曹一族のため。


 いわば殿下のため…」


 司馬懿の言葉に曹丕の眼が見開く。


「ば、馬鹿な…あの父がそのような…」


「だから及ばぬと言うのですよ。


 我の讒言に乗せられ皇位を禅譲させた時点で魏の命運は尽きていた。


 それすらも気付かないのですからな」


「父上…」


 司馬師が背後から控えめに声をかける。


「結局父上も無駄口が多いんだよね、智者の性ってやつ?」


「ふ、言いよるわ。


 さて、殿下…話が逸れましたな。


 なぜあなたの後ろの昭が生きているかでしたな」


 二人の息子の遠慮のない言葉に司馬懿は苦笑しつつもさらに口を開く。


「こいつらは私の分け身だからですよ殿下」


「…」


 司馬懿の意味深な言葉にうなだれた曹丕は反応しない。


「あ、ごめん父上。殺しちゃったよ」


 そう言って、剣を抜いた司馬昭が軽薄な笑みを浮かべる。


「ふ、わざとやりおったな?」


「父上…昭は」


「分かっておる。


 どこぞで誰が聞いているやも知れぬ。


 秘密を軽々と喋るなと言いたいのだろう」

 

 司馬師の言葉を片手で遮り司馬懿が笑う。


「は…して父上。お身体の方は…」


「うむ…大事ない。


 子上の馬鹿めの蘇生は、いささかしんどかったがな」


 剣を鞘に収めた司馬昭がそれを聞いて首をすくめる。


「もっとも…


 確かに効果的ではあったがな。


 子元!曹丕めを限定解除用の贄にせよ」


「は!」


 短く返事をした司馬師が4枚羽の妖精を呼び出して何事かを告げる。


 と、同時に地面に乱雑に転がされていた曹丕の亡骸が白い粒子へと分解され、司馬懿達3人の身体へと吸い込まれていく。


『限定解除率65%です』


 全ての粒子が吸い込まれたのを見届けた妖精が一言呟き姿を消した。


「ようやく6割超えたか…半分以下の力で戦うのも骨が折れるよね」


 司馬昭が自らの拳を握ったり開いたりしながら呟く。


『司馬の血族』

 

 これこそが、このゲームに召喚された司馬懿の唯一の能力である。

 司馬師、司馬昭を自らの分け身として具現化することが出来る。

 生み出された二人は、生前の二人そのものである。

 しかし、司馬懿に附属するものとして扱われるため本人達は怪我をしようが絶命しようが何度でも復元することが出来る。

 ただし、復元するために怪我の程度に応じて司馬懿のライフを消費することになる。

 さらに、このゲームにおいては数の利が大きいためか、二人の能力は武力面において著しく制限され、本来の力の10分の1程度に設定されている。

 だが、それを補って余りある能力として、三人の間では音声や距離に制限されない特別な通信能力が備わっている。

 これにより、綿密な連携が可能になった司馬懿達はその知謀で武力の不利を覆し、着実に敵を倒してきたのである。

 さらに制限された司馬師、司馬昭の能力は敵をアイテムではなく限定解除のエネルギーにすることで段階的に能力を解放されていくのである。

 一見強力に思えるこの能力だが、実は司馬懿自身には戦う力はほとんどない。

 司馬師、司馬昭がどれだけ強く不死身でも司馬懿が倒されてしまえば終わり。

 そう言う意味では大きなリスクを抱えた能力と言える。

 

「子元、奴の状態はどうだ?」


「は、変わりなく」


 司馬懿の問いかけに短く答える司馬師。


「我ら司馬一族の人心操作の秘術にかかればこの時代の人間なんて造作もないよ。


 奴はもう俺たちの言いなりさ」


 司馬昭がにやにやと楽しげに笑う。


「ふむ…子上。


 くだんの電子とやらのしくみはどうだ」


「あぁ、あれ。


 大分理解してきたけど、あれは奥深くて面白いよ父上。


 我々がこうしてここにいる理由も、あの技術のせいだとすれば何となく分かる。


 とりあえず、今までに得た知識は父上達にも共有させておくよ」


 司馬昭が軽く眼を閉じる。


「…ほう」


「…」


 司馬昭から情報を受け取った二人の表情にわずかに驚愕の色が浮かぶ。


「確かにこれは面白い。


 場合によっては今の状況を逆手に取り、全てをひっくり返すことも可能になるやも知れぬ」


 司馬懿は静かに微笑みつつ呟く。


 天下の大軍師、諸葛亮孔明を打ち破ったその知謀は現代のことわりすらも凌駕しようとするのか。


「父上…」


「分かっておる。


 子元!子上!お前達はここに残り限定解除と装備の拡充を図れ!」


「は!」


「りょ~かい」

 

「分かっていると思うが、我らの戦いは忍耐より始まる。


 正面からぶつかり合うなど愚の骨頂。


 常に策を巡らせよ!勝てぬなら守れ!逃げよ!


 最後に勝てばよい」

 

 司馬懿の言葉に二人の息子達は一人は無表情に、一人はにやにやとうなずく。


「よし、では私はしばし潜る」


 

 カタタタタタタタタタタタタタタタ…


軽快な音の鳴り響き続ける薄暗い部屋の中、策を巡らせる司馬懿達の様子をモニターで眺める白いスーツを着こなした男がいる。


 男の周囲には小型のモニターが所狭しと並べられ、それぞれに違った場面が映し出されている。


「さすがは、司馬懿仲達…怖いね」


 そう呟く細身の男はどこか楽しげでもある。


「さて…そろそろ戦いも佳境だね。


 こちらの想像以上に面白いことになりそうだ…」


 どこか狂気を感じさせる笑みを浮かべながらも男の手は視認するのが困難な程の速度でキーボードを叩いている。


 先ほどから途切れることなく響いているこの音は男がタイプしている音のようだ。


「さて、あの子達もそろそろクライマックスかな…


 最後まで踊ってくれると楽しいんだけどね。


 まぁ、いざとなればあの人も動かざるを得ないだろうさ」


 くくく…

 

 カタタタタタタタタタタタタタタタタタ


 男の含む様な笑い声は間断無く続くタイプの音に紛れて消えていった。




 


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同時連載中です。
スキルを交換する能力を持った主人公のお話です。
転生物ではないですが転生要素はあります。ケモミミの幼馴染やエルフ奴隷もでます^^
もしよければ読んでみてください
スキルトレーダー【技能交換】 ~辺境でわらしべ長者やってます~
http://ncode.syosetu.com/n3671de/
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