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三国志~武幽電~  作者: 伏(龍)


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15/44

二喬

「ふわ…ぁ」


 昼食後暖かな陽射しの中、退屈な5限目、現代国語の授業を受けながら止めようとしても溢れてくる何度目かの欠伸を玄は噛み殺す。


 授業だけはしっかり受けるのが玄のスタイルである。


 どんなに眠くても意識を手放す訳にはいかない。


 それに現国の酒巻はどうみても体育教師だろう的な体格を裏切らない性格である。


 バシン!


「うっわ…」


 机に突っ伏して居眠りをしていたクラスメイトの頭上に落とされた出席簿攻撃の威力を想像して思わず声が出る。


 涎を流しながら起き上がった野球部の皆川が説教を受けているが、持ち前の愛嬌を発揮し大げさなリアクションで坊主頭を撫で周囲の笑いを取っている。

 

 ツンツン


「ん?」


 肘をつつかれた玄は周囲の喧騒とは逆の方へと視線を向ける。


「ちょっと、玄。


 さっきから欠伸ばっかりしてるけど大丈夫なの?」


 通路を挟んだ隣の席にいる茜にちゃっかりとチェックされていたらしい。


「大丈夫、ダイジョブ…ふわ」


「もう!皆井くんみたいにウケも取れないんだから居眠りなんてしないでよ。


 ここ2日はあっちにも行ってないのになんでそんなに眠いのよ」


「ま、いろいろとな」

 

 あの中州での激戦から2日が経っていた。


 気絶レベルまで追い込まれた関羽の全快には丸2日を要するからだ(ライフは1日で約50%回復)。


 孫仁のライフも半分を割り込んでいたため次の日は完全休養日になったが、昨晩からは全快した孫仁と傷の癒えないままの関羽でまたしてもエンドレスな訓練に突入していた。


 同盟を組んだ孫仁とフィールドが繋がったことで端末同士が離れていても双方の電源さえ入っていれば武将同士のコミュニケーションが取れるようになった。


 通話モードを互いにONにすれば茜と玄の会話も可能になっていた。


 しかし、それ自体は別に玄の睡眠時間を削るようなものではない。


 訓練の様子は音を消して縮小してしまえば気にならないし、深夜まで茜と会話をしていた訳でもない。


「いろいろって何よ」


「ん~、VSのこととか、ソフトのこととか、霊、怪奇現象等もろもろの調査」


 玄はフィールドに出れない間、自分に出来ることは無いかと考えた。


 かといって、具体的に何が出来ることがある訳ではない。


 ここまでスケールが大きくなれば、ごく普通の一高校生が出来ることなどたかが知れている。


 出来ることと言えば、インターネットでVSのメーカーのホームページや関連キーワードでひっかかったサイトの情報を片っ端から調べることくらいしかなかった。


「へ~それで何かわかった?」


「う~ん…それがさ、っと待った。向こうが落ち着いたみたいだ。


 また後で話すよ」


 ふざけていた皆川に2発目の出席簿が落ちたところでひと段落がついたらしい。


 眠いだろうが頑張れ~という酒巻の野太い声とともに授業が再開されようとしていた。


「もう…ちゃんと後で教えてよ」


 しぶしぶと引き下がる茜にひらひらと手を振った玄は授業を再開した酒巻のごつい顔を眺めながら昨日までの調査を思い返す。


 VSの製造会社であるVITSビッツの設立は約10年前、当時有限会社であったVITSは立ち上げと同時に強力なスポンサーを得て新型機種「VR」を発表。


 VRはそのスペックの高さと汎用性の広さからまたたく間に世界中に広がり現代ゲーム機の常識を全て塗り替えた。


 たった、2年で一部上場企業に上り詰めたVITSはその後もゲーム機、ゲームソフトはもちろんパソコンのOSに至るまで開発を手がけ全ての商品をヒットさせた。


 ここ、3年ほどは大きな商品を発表してなかったが満を持して発売されたのが携帯用ゲーム機「VS」である。


 だが、驚くべきはこの会社を立ち上げたのは1個人だという噂である。


 その後、徐々に人員を増やしていったようだがたった一人の有限会社に大手電気メーカーSAMSがスポンサーにつき「VR」を完成させたという噂はネット上ではまことしやかに囁かれ創始者を神と呼ぶような熱狂的なファンもいるのだが、正体は全くの不明であり些か眉唾ものである。


 どちらにしろ、創始者たるその人物のことは公式HPからはもちろん、思いつく限りの検索ワードから調査をしたが何一つ分からなかったし、企業ページをかなり丹念に読み込んだが武幽電に関係しそうな情報を得ることは出来なかった。


 その後は、霊魂や怪奇現象などのオカルト系のページをなんとなく渡り歩いていたのだが…


 たわいもない体験談やインチキ臭い霊能者のページばかりで有益な情報はやはり見つからなかった。


 ただ…


「ただ?

 何か気になることでもあったの?」


 武幽電を始めて同盟を組んで以来、放課後は自転車に茜を乗せて帰ることが習慣になりつつある。


 ただ、お互いはそれが世間一般からみれば結構特別な関係だと全く気づいていない。


 そして、今日もまた当たり前のように後ろに跳び乗った茜を家まで送りながら、ネットで調べた情報を説明していたのだが、玄が言いよどんだことに茜が問いかける。


「うん…まぁ、良くある霊障の相談ページにあった書き込みなんだけどさ」


「あぁ、なんか霊を見たとか、金縛りにあったとか、右肩が重いとかそんな感じの?」


「そう、そういったページを眺めててさ…ここ一週間くらいの霊障の相談が増えてるような気がするんだよね…


 中身は武幽電とは関係なさそうなものばかりなんだけどさ…物が動いたとか壊れたとか、風が吹いたとか?


 あと友達が~とかって書き込みも増えてたかなぁ…」


「あんまり関係ないんじゃない?


 ポルターガイスト系の話はよくあるものだし、自分の話を他人話のようにして相談するなんて基本じゃない?


 相談が増えてるのだって、先週特番でやってた心霊番組の影響なんじゃないかなぁ」


 自転車の後ろで玄の話を聞いていた茜が自分なりの見解を述べる。


「先週特番なんてやってたのか?」


「うん、自称占い師とか自称霊能者を集めてやってたわよ」


「そっか…やっぱり関係ないか。そもそも武幽電は限定100本だもんなぁ。


 俺達がこんな近くで持ってることすら物凄い確率だもんな。


 ネットとかにも情報流出しないのもおかしくないのかもな…」


 玄はなんとなくすっきりしないものを感じながらも今は考えても仕方のないことだと納得することにした。


「それより玄。


 そろそろ関羽さんの傷も癒えるころでしょ?今日辺り行くの?」


「ああ、なるべく早くマップを埋めたいからね…孫仁にも早い段階で馬を手に入れてもらった方がいいかな」


「了解。夜出る?


 それともこれからうちに来て出る?」


 茜の問いかけに玄はしばし考え込んでから口を開く。


「あんまりしょっちゅうお邪魔するのは良くないだろうな…


 帰ったら通信オンにして話かけるから一緒に出よう」


「あら、うちなら全然構わないのに。


 お母さんだって喜びこそすれ迷惑なんて思わないわよ」


 少し残念そうに答える茜に玄は苦笑する。


「わかってるよ。


 でもだからこそあんまり甘えるのはよくない。


 明日、あさっては学校も休みだし、行くならそういう長く居れる日に行くよ」


「そっか…そうね。


 分かった。じゃあ家で待ってるわね」


 長く居れる=長く一緒にいたい


 という図式を勝手に妄想した茜が顔を赤くする。


「よし、到着。


 じゃあ、俺はこのまま真っ直ぐ帰るから後でな」


「了~解」


 家の前でひらりと自転車から飛び降りた茜は手を振りながら角を曲がっていく玄を見送ってから玄関を開ける。


「なんか…最近いいかも?」


 一人でにやけながら靴を脱いで顔をあげた茜の前にエプロンをした母が…


「茜ちゃん、頭、大丈夫?」


 心底心配そうな顔をする母。


「い、いつから、そこにいたの母さん」


「最初からよ」


 と、すると呟き声すら聞かれていた可能性がある。


 茜は顔を赤くしながら急いで靴を脱いで部屋に逃げ込もうとする。


「玄くんと最近いいのね?茜ちゃん」


 やはり聞かれていたか…と内心舌打ちしながらも無視して階段を上がろうとする。


「ほほほ、やりすぎは身体に毒よ。茜ちゃん」


「な、何の話をしてるの!!母さん!」


「あらナニの話かしら?ほほほ」


 エプロンで口元を隠しながら上品に微笑む母。


「こっの下ネタ主婦め…とにかく!玄とはそんな関係はまだありません!!」


 わなわなと拳を震わせながら叫ぶ。


「ほほほ…『まだ』ね。語るに落ちたわね、茜ちゃん」


「か、母さん!!!!」


 顔を真っ赤にした茜の叫び声を笑いながら受け流して台所へと戻っていく下ネタ主婦であった。


 -日曜日・昼過ぎ-


「よし、ちょっと確認しよう。


 金曜の夜と土曜一日かけて、マップを埋めて来たけど…簡単に書くとこんな感じかな」


 玄が書いたのは10マスX10マスの正方形であり左上から横軸にA~J、縦軸には1~10の数字をふったものである。


「見づらいとか言うなよ?」


「言わないわよ」


「ならいいけど…」


 玄の部屋でテーブル越しに向かい合いながら一枚の紙を眺める。


 二人の後ろには関羽と孫仁がそれぞれ立っている。


 玄は全員の立ち位置を確認すると、表の右上の方の人ますを色鉛筆で塗り、その次に右下のあたりをピンクで塗ったあといくつかの地点に〇印をつける。


「これで見ると、黄色く塗った2のI。濃い黄色のマスが関羽の出発地点。7のIが孫仁の出発地点だ。


 時系列は示してないけど、関羽はスタートからまず南を目指して最初の〇の地点で典韋と戦闘」


 玄が〇の位置を指で叩く。


「ここで最初に一回負けて、再戦までの間に孫仁と出会って同盟を結んだ」


 関羽が初戦の敗退を思い出してか苦々しく頷き、孫仁は微笑みながら頷

く。


「その後、再戦を勝利して悪来を仲間にしてからは、一気に範囲が広がる。


 同時に孫仁もスタートして合流を目指すべく北へ」


「うん、少しでも早く合流しなきゃってことで。


 まあ戦闘にならないようにゆっくりとだったけどね」


 茜が頷きながら補足する。


「そして5のIで大河にぶつかり東へ進み、渡河の最中に孫策と周瑜と戦った」


 玄が5のJにある〇を指差す。


「2対1の戦いでしんどい戦いだったけど、孫仁と悪来のおかげでなんとか勝利したんだ」


 孫仁は二人との別れを思い返してか憂いを帯びた表情である。


「それから二日、二人には傷を癒してもらった」


 玄は後ろに立つ関羽と、茜の後ろにいる孫仁を見る。


 二人とも今は怪我などはしていない。


 ライフゲージも満タンである。


「そして、金曜、っていうかおとといの夕方から夜、昨日一日をかけて到達エリアの拡大を目指して移動」


「二人乗りでの移動だったけど、悪来はさすがだね。


 かなりの速度で移動出来たと思う」


 孫仁も一緒に乗るのならと関羽が作った、即席のハミと手綱も速度上昇に一役買っている。


「そして、昨日のここ」


 玄がなぞっていった指を3つめの〇で止める。


「……」


 玄がそこを指差した瞬間、場の雰囲気が凍りついた。


 そこは、昨日の出陣で遭遇した相手との戦闘があった場所…


「こんなゲーム、絶対に許さない!」


 茜の目が怒りに満ちる。


「わたくしも、あの方に会うだけでは気がすまなくりました。必ず玄殿の思い成就させてみせます」


 孫仁が身に纏った衣をかき抱くようにして静かに告げる。


「うむ」


 関羽が握った偃月刀に力を込めて短く頷く。


「そうだね…あんなこと想像もしてなかったけど、もしこのシステムが一般的になれば…ああいう方面への活用は避けられない。


 むしろ莫大な利益を生むその産業に転用しない理由がない。


 死者には人権も何もない。


 どんな酷い扱いをしようが罪に問うことすら出来ない。


 このシステムを作った人たちが何を考え、何をしようとしてるのか…


 それをしっかり確かめて…いや、確かめるまでもないか。


 何が何でもこんなシステム許されるはずが無い」


 玄の声は静かだが、秘められた怒りが周りの者にはわが身に突き刺さってくるように感じられる。


 だが、気持ちは皆一緒なのだろう。


 全員がその言葉に力強い視線で応えている。 


 玄達にここまでの決意をさせた戦い…


 それはあまり思い出したくもない、戦いとも呼べないような最悪の出来事だった。



 -土曜日-


「悪来殿、重くはありませぬか?」


 関羽の後ろに、横掛けで座りながら孫仁が力強い走りをしている悪来へと問いかける。


「いいってことよ。姫さんには借りが一個あるしな」


「あら、この程度で返せたとは思わないでくださいましね」


「おおっと、相変わらず厳しい姫さんだ」


 金曜から引き続き到達エリアを広げるために揃って移動を続けていた関羽達が敵に遭遇したのは昼を少し回ったころだった。


「奥方、悪来、おしゃべりはそこまでだ」


 黙々と手綱を操っていた関羽が何かを感じて声をかけた。


 ゆっくりと馬足を緩めたのは両脇を林に囲まれた林道の入り口である。


「確かに気配があるな…だが」


 立ち止まった悪来も気配を感じたが、違和感を感じ首をかしげる。


「気配を全く隠していない割りに、殺気が無さ過ぎる」


 関羽がそう呟き下馬する。


 その手には孫策が変化した偃月刀を握っている。


「争うつもりは無いのかもしれませんね」


 孫仁もひらりと下馬すると関羽の隣に立ち、前方を窺う。


「出てまいられよ。


 我は関羽 雲長!である」


 関羽の名乗りに林の中ががさりと音を立てた。


「…い…いや!行きたくない!


 もう嫌なの!やめて!やめて!やめて!」


 そして、聞こえてきたのは悲鳴…


「おやめください!私が!私だけが参ればよいではないですか!


 これ以上、妹を辱めるのはおやめください!」


「二人?」


 悪来の呟きと同時に林の陰から一人が一人を抱きかかえるようにして出てきたのは二人の女性だった。


 どちらの女性も薄く化粧を施し、その整った顔立ちは美女と言い切ってもいいだろう。


 孫仁はしなやかさと強靭さを兼ね備えた雄々しいとも言えるような美だが、二人はたおやかさと上品さがある美だ。


 泣き叫んでいる方は淡い桃色、抱きかかえている方は青い衣に身をつつんでいる。


「義姉上!大喬ではないですか!」


 その姿を見た孫仁が驚き、1歩前に出て叫ぶ。


「レン…レンなのですか?」


「いや!いやなの!」

 

 孫仁の声に反応したのはもう一人を抱きかかえていた方、孫仁が義姉と呼び、大喬と呼んだ方である。


 とすれば、抱きかかえられているのは妹の小喬であろう。



 

 大喬(だいきょう)小喬(しょうきょう)


 大喬は孫策の妻、妹の小喬は周瑜の妻。

 皖城を占領した孫策軍の捕虜となった際、姉の大喬は孫策の妻に、妹の小喬は周瑜の妻へと迎えられた。


 このとき孫策が小喬を娶った周瑜に「『江東の二喬』は確かに美女だが、我等を夫にできる二人も幸せであろう」と言ったという。


 なお、「江東の二喬」と呼ばれた二人は共に絶世の美女と噂されており、赤壁の戦いで曹操が二喬に良からぬ思いを抱くほどであり、諸葛亮からそれを聞いた周瑜が激怒し、開戦を決意する程であった。



「義姉上、何故あなたや小喬のような戦いに向かぬ者がこのようなところへ…」


 孫仁の問いかけに、暴れる妹を必死に抱きとめながら大喬は静かに首を振る。


「分かりませぬ…わたくし達は伯符様や公瑾様亡き後、二人で菩提を弔いながら過ごし、最後は病に倒れましたが、天寿をまっとうしたつもりでいました。


 ですが、気づいた時には小喬と共に…」


「奥方、彼女達も武をたしなむのですか」


「とんでもございません!関将軍、義姉らはわたくしなどとは違い、まさしく女性の鑑。


 剣など持ったこともないはず」


 関羽の問いかけに首を振る孫仁。


 確かに二人の様子からは武の片鱗は窺えない。


「レン!


 ここであなたに会えて良かった…


 頼みがあります」


 大喬が儚く微笑んで孫仁を見つめる。


「なんでしょう義姉上」


「私達を斬りなさい」


「!!」


 大喬の目は決意に満ちている。洒落や冗談で言った訳ではない。


「な、なにをおっしゃるのです義姉上!」


 孫仁が更に言い募ろうとしたときだった。


 ピキンッ


 と甲高い音がして、玄と茜の視界にエフェクトが入る。


 『二喬の誘惑』


「え、攻撃?」


 茜が不審気に呟き慌ててVSを手に取る。


「いや、違う!…まさか、システムとしてそんな設定をしたのか?」


 玄の声が、わなわなと震える。


 今日は、それぞれの自室でプレイしているがもし、茜が玄と一緒にいたとしたら玄の怒りに満ちた顔に恐怖を覚えたかもしれない。


「く…レン。は、はやく私達を…」


 何かを押さえ込むようにわが身を抱く大喬。


「い、いや!もう…やめて…これ以上は…公瑾様…」


 涙を流しながらゆっくりと衣をはだけていく小喬。


「な、ま、まさか!義姉上…」


「ぐむ…なるほど、戦う力のないおなごがここにいるのはこの技ゆえか…」


 関羽がよろめきながら偃月刀を地に突き刺し何かを耐える。


「関将軍?」


 孫仁がどういうことかと関羽を仰ぎ見る。


「おそらく、強制的な誘惑を行う技」


「!!」


 関羽の事実のみを述べた言葉に目を見開いた孫仁が再び姉妹を見る。


 大喬は必死に抗いながらも白い肩を露出し細い足を裾の間から露出している。


 小喬に至っては、涙を流しながら衣を脱ぎ続け、小ぶりな乳房があらわになっている。


「なんということを!」


 孫仁の声が怒りに染まる。


「レン…女のあなたなら…色香に惑わされずに私達を斬れるはず…です」


 必死に抵抗しながら言葉を紡ぐ大喬。


「ですが!義姉上」


「3人です!私達はこの技で3人を殺しました!


 操者が気の済むまで私達の身体を敵に嬲らせた後、行為に夢中な敵に一撃を加えるのです!」


 大喬の目からも涙が溢れてくる。


「な、なんということ…を」


「これ以上伯符様や、公瑾様以外の方と…レン、私達を助けてください」


 どくん!


「はっ…周将軍」


 孫仁は自らの身に纏った衣が熱く脈打つのを感じる。


 どくん!


「孫策」


 関羽は握った偃月刀が赤く灼熱し自らの手を灼くのを感じる。


 そして敵の技の誘惑効果が抜けていくのが分かる。


「奥方」


「はい…わかっております。


 周将軍や兄上もそれを望んでいます」


 孫仁は目じりから流れる涙を拭きもせずに無造作に小喬に近づいていく。


「あは、レン姫様だぁ…あそぼ~」


 既に小喬の精神は限界に近づいているのだろう。


 周瑜を愛するが故に狂わずにはいれなかったのだ。


 そして、虚ろな目で孫仁を見つめ返しながら今最後の衣を脱ぎ捨てて全裸に…


 と、同時に孫仁が小喬を抱きしめた。

 

 ふわり…

 

 孫仁の衣が優しく包み込むように小喬を覆い隠す。


 関羽も偃月刀を握ったまま大喬へと近づいていく。


 大喬の目は関羽を警戒して睨み返してくるが、関羽は小さく頷いて自分が正気である旨を伝えるとその目は安堵に変わる。


 いっそ自分も狂えてしまえば楽だったのだろう。


 しかし、妹を少しでも守るためには自らは


 どんなに辛くても自我を放棄する訳にはいかなかったのだ。


「…大喬と言ったか、その戦いぶり見事であった」


 関羽は賞賛の言葉と共にその偃月刀の柄を大喬の首筋にそっとあてる。


「ああ!公瑾様…」


「これは…伯符様」


 二人が、孫仁の衣と関羽の偃月刀に愛しい人達の魂を感じ取り安堵の声を上げる。


 そんな本人達の意思とは無関係に二人の手が短剣を握り孫仁と関羽の急所へと突き刺そうとしている。


「今、助けてあげます」


 シュ!


「愛する者の下へ行け」


 ビュ!


 孫仁と関羽が同時に二人に背を向けた。


「ありがとう…レン。私も伯符様と共に」


「レン様…公瑾様、怒ってなかったよ…」


 二人の姿が白い粒子に変わっていく。


 そして大喬の粒子は関羽の偃月刀へと、小喬の粒子は孫仁の衣へと…


 関羽の偃月刀の虎の象嵌が鮮やかな青へと変わり刀身をも青みを帯びて輝きを増した。


 孫仁の衣に袖や裾に愛らしい桃色の花の刺繍とラインが浮き上がり心なしか艶を増した。


「悪来」


「おう」


 関羽は静かに悪来を呼び寄せると何も言わずに跨った。


 孫仁も涙乾かぬ頬をそのままに軽やかに騎乗する。


 それぞれが、抑え切れぬ怒りを胸に抱えて前を見据えた。


 悪来が走り出す。


 今は進むしかない…それがきっと彼女らのような悲しい犠牲を出さないことに繋がると信じて。


「…義姉上、小喬…もう2度とあなた達を引き裂かせはしないからね」


 呟いた孫仁の言葉は風を裂く悪来の走りの中で誰の耳にも届くことはなかった。


 それが、昨日までの出来事だった。


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同時連載中です。
スキルを交換する能力を持った主人公のお話です。
転生物ではないですが転生要素はあります。ケモミミの幼馴染やエルフ奴隷もでます^^
もしよければ読んでみてください
スキルトレーダー【技能交換】 ~辺境でわらしべ長者やってます~
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