幕間
平日の昼下がり…
リサイクルゲームショップ『芸夢』の店内は閑散としている。
もともとゲームショップなどは学生の客が多いもので平日の昼間などは客が少ない。
さらに加えてこの店の店主の方針で学校をさぼってくるような客に対しては商売をしないからである。
そんな芸夢の店内スペースは決して広いものではなかったが、ソフトの陳列棚付近にはゲームソフトの箱等が色あせない様に採光が計算され、カウンター付近や入口は十分な光が差し込むようになど言われなければ分らないようなこだわりの設計が各所にされている。
そのためここ数日の好天気とも相まって暖かな光に満たされている。
リサイクルゲームショップ『芸無』の店主はそんな日当たりの良いカウンターでのんびりとゲーム雑誌を眺めていた。
「VSの人気はうなぎのぼりだね…」
雑誌の評価欄を読みながら店主が呟く。
その特集ページでは辛口で有名なゲームコメンテーターが評価欄で大絶賛している。
『とにかく凄い!
これこそまさにロールプレイングと言える。
店頭で見かけたなら借金をしてでも購入する価値がある。
文句のつけようがない。』
本当に有名なコメンテーターなのかと疑うほど単純なコメントではあったが、裏を返せばもっともらしい理由をつけられないほどにVSを評価していると言える。
例えばとてもおいしい料理を食べた人がうまいとしか言えなくなるようなものである。
人はあまりにも感動したとき、美辞麗句を並べたてる余裕などなくなってしまうということだろう。
「なかなかの評判だろ?お・じ・さ・ん」
カランカラン
と、店の押し戸を開けて入ってきた白いスーツの30男が馴れ馴れしく歩み寄ってくる。
長身で整った顔立ちをしているが、細長い眼鏡と軽薄そうな笑いが嫌悪感を抱かせる。
「ま、あくまで表のVSの評価だけどね」
「お前におじさんと呼ばれる筋合いはないぞ。司」
さらにめくりかけた雑誌のページを戻して店主が不機嫌そうに顔を上げた。
「ククク…その呼び名は徳水 玄専用ということですか」
「な!お前、何故玄君の名前を!」
店主がカウンターを叩いて立ち上がる。
「やだなぁ、おじさん。
渡してくれたんでしょ、あのソフトをさ。
僕は説明したよ。霊体を使った特殊なソフトだって」
にやにやと薄笑いを浮かべながら司はカウンターの前に立つ。
「お前…何を企んでいる。
プレイヤーの個人情報まで調べるなんて…
ただのゲームじゃないのかあれは」
店主の厳しい眼差しを司は相変わらずの笑みで受け流す。
「どうかな?ククク…
僕はおじさんがプレイしてくれると思ってたんだけどね…残念だよ」
司は楽しくてたまらないというような笑みを浮かべながら店主の反応を窺っている。
「違法なことは承知の上か」
「あはははは、違法かどうかなんて言葉をあなたから聞くとは思いませんでしたよ」
司は文字通り腹を抱えて笑うとカウンターに両肘を付き店主の顔を下から覗き込む。
「笑わせて貰ったお礼に1つ忠告してあげましょう」
「なに?」
「私の計画は想像以上に面白いことになってきてます。
徳水 玄が可愛いのなら早めにリタイアを進めることですよ」
司はそう言うとくるりと身を翻す。
「なんだと?待て!どういうことだ!」
店主が立ち去ろうとする司を追いかけようとカウンターから出ようとする。
カランカラン
しかし、カウンターから出た時には既に司は店頭に横付けされていた黒塗りの車に乗り込んだ後だった。
「司…お前はまだ抜けだせないのか…」
苦渋の表情を浮かべる店主の胸中には言い様のない不安が湧き上がる。
「玄くん…」
あの明るく優しい少年に何事もなければいい…
店主はそう願うしかなかった。




