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三国志~武幽電~  作者: 伏(龍)


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大河


「困ったな…」


 呟いた玄の視界には悪来に跨った関羽とその向こうに広がる海と見紛うかのような大河であった。


 結局あの日は、フィールドから戻った後は関羽がしばらく動けないこともあり、茜の部屋から再度フィールドに出ることはなかった。


 一連の戦いを傍で見ていた茜は、その光景に半ば興奮し、半ば自信喪失しつつも、プレイヤーにも出来ることがあることを理解したらしく日が沈んで玄が帰宅するまで玄を質問攻めにしていた。


 自宅に帰った玄は深夜になり、関羽との約束を果たすべく、再度フィールドへと出陣して小一時間程移動を続けた。


 効率よくエリアを踏破するため、玄の指示で隣のエリアとの境目まで移動して南下。


 下のエリアが近づいてきたら接点のポイントを円を描くように回ることで一つだったエリアが4つまで広がった。


 戦闘を避けるという約束だったため、マーカーがエリアをかすめることもあったが、あえて近づかず機動力の差で接触を避けた。


 しかし、やはり悪来の機動力は大きかった。


 目的の場所へ一直線に進める訳ではないが、多少の回り道をものともしない。


 この日はエリアを4つにしたところで終えたが、次の日の出陣ではさらにエリア丸々2つ分を南下して到達エリアは8つに増えていた。


 孫仁との合流までは、あとエリア二つ分を南下すればいいことになる。


 茜の話では、昨日は戦闘状態でマークを消しながら1時間程フィールドを散策したという話だった。


 待機時間を稼ぐにはいい方法である。


 今日も同じようにする予定だと言っていたことから考えれば孫仁の待機時間は約1日程度伸びている。


 なんとか、今日中にこの大河を渡りきれば明日には孫仁と合流できるはずである。


 

「泳いで渡ることも出来なくはなかろうが…」


 馬上から髯をしごきながら関羽が言う。


「馬で泳いだことはないが俺も行けると思うぜ」


 悪来も軽く嘶きながら言うが、玄にはゴーサインは出せない。


「黄河の時みたいに、橋は架かってないのかな?」


 実を言えば関羽達はここに至るまでにも一つ大きな河を越えている。


 そのときは見える範囲に川幅が狭くなっているところがあり、浮橋が架かっていたため多少の遠回りにはなったがそこを渡ってきた。


 しかし、今回は見渡す限りの川であり、とても橋が架けられるようには見えない。


 であれば、どこかで舟を探して渡る必要がある。


 泳いで渡ることも関羽と悪来なら出来るのかもしれないが、もしそんなところを誰かに見つかればろくな反撃も出来ずに敗北をすることになる。


 舟の上でも危険度が高いことは間違いないが水中に居るときに舟から襲われるよりはいい。


 しかし、見える範囲にはそれらしい舟はない。


 作ることは道具や技術、時間の面から論外である。


 残る可能性は、どこかで誰かと戦闘して勝利した後に舟になってもらうことだが…


 そんなに都合よく、敵と遭遇できるわけでもないし、必ず勝てる訳でもない。


 なにより、川を渡ることにしか使わないものにしてしまうのはもったいない気がする。


「仕方がない…遠回りになるし、何もないかも知れないけど取り合えず東へ向かって移動しよう。


 ここはフィールドの東端のエリアだから東に行っても到達エリア拡大の利点はないんだけど…


 河口付近まで行けば何かあるかもしれないし、最悪泳いで渡ることになったとしても、フィールドの東端から行けば、北・南・西のどのエリアから敵

が来ても少しは時間に余裕があるはずだから」


「いいだろう…少しでも早く奥方と合流したいのはやまやまだが致し方ない。


 世界の端という玄の言葉…正直信じられぬが、そうであるならばその案は確かに無難であろう。


 奥方と合流するまでは無茶はできん」


 関羽が少し考えて賛意を示す。


 それを受けて悪来が静かに向きを変えて東へと走り出す。


 悪来と共に旅をするようになってから関羽はずっと轡も鐙も鞍すら置かずに走っている。


 意思の疎通はもちろん問題ないのだろうが、現代の常識から考えれば信じられないほどの技術である。


 エリアの端から端までは10キロ。


 川沿いを駆ける分には特に険しい道もなく、程なくして海が見えてくる。


「関羽、河口の手前に中州が…」


 海へと注がれる河口も、それなりの川幅がある。


 普通に泳いで渡るには厳しい。


 しかし、玄の視界に入ってきた中州は河口の手前に位置し、ちょうど川の中間地点。


 中州には対岸が見通せない程の木々も茂り、大きさ的にもかなりのものである。


「ふむ…中州があるということはあの辺はさほど深くないのかもしれん。


 それにあの位置にあれば、途中で立ち寄れる上に陸地の分だけ泳ぐ距離も減るな」


 関羽も同じものを見て同じことを考えたようである。


 更に付け加えれば河口付近であるため、流れも穏やかになっている。


「うん、ここを渡ろう。


 まずは中州まで行って、そこで一度周囲を確認してからもう半分…


 万全を期すならマーカーも消した方がいいんだけど…」


「やめた方がよかろう。


 お主の言うところによれば、既にこのえりあに我らは入っている。


 いまさらそのまぁかぁとやらを消したところで気づいている者は気づいている。


 なれば、我の体力を消耗するだけ損ではないのか」


「いや…そのとおりなんだけど…」


 玄は関羽の言葉に感心すると同時に思わず驚愕する。


「なんだ?」


「こんな短い間に、この世界のルール…あ、決まりとか法則?のことだけど、ルールを覚えてしかもそれを理解してきてることがさすがだなって」


「ふん、将たるもの最低限の知識は心得てなければなるまい。


 わが義弟のように直感と勇猛だけで軍を率いる者も居ないわけではないがな」


「ぷっ、やっぱり張飛って猪突猛進なんだ」


「うむ、否定は出来んな。だが、敵には回したくない。


 あいつはただの猪突猛進ではない、時折どんな知者でも読みきれないような策や行動を直感というか『なんとなく』で迷いなく取る。そして翼徳と翼徳が率いる兵は恐ろしく強いからな。


 孔明軍師も扱いには苦慮しておったようだぞ」


 昔を懐かしんでかいつもより雄弁に語る関羽。その表情はいつになく楽しそうでもあるようだ。


「ヘイヘイヘーイ!元気してるかーい」


 そんなほのぼの雰囲気をぶち壊すハイテンションな声は言うまでもなくヘルプである。


「なんで、呼んでないのに出て来るんだお前は!どんだけ自由なんだよ」


 せっかくの雰囲気を台無しにされた玄は不機嫌さを隠さず言う。


 関羽も表情には出さないが、先ほどまでの楽しげな雰囲気は霧消しているからやはり気分を害しているのだろう。


「ちちち、策ってのはな玄。


 相手を読む前に、味方が読めてなきゃ、くめないもんなんだぜ!」


「は?」


 唐突なヘルプ(今回は四ピン)の言葉に玄は首をかしげる。


「だから~味方にも読めないような行動をされると困るってことさ~」


「…さっき、関羽が言ってた張飛の話のことか?」


「ざっつ、ら~いと!!」


 ふんふんふんと腰?を振りながらヘルプが答える。


「だから~それを!なんで!お前がいちいち解説にくるんだって~の!」


「へ?……あ、あ~そりゃ、ほら俺ってヘルプだしぃ?


 そう!いろいろプレイヤーに知識を供給する係な訳よ」


 ご丁寧に額?に汗を表示しながらヘルプが苦しい言い訳をする。


「はいはい、単なる暇潰しだろ。


 見ててもいいけど邪魔すんなよ。もちろん本来教えられないような極秘情報を教えてくれるってんなら別だけどな」


「な~に言ってやがんでぃ!そんなことできるわけねぇだろ!…っと、そんなこと言いに来たんじゃなかった」


「ん?本当に何か用事があったのか?」


 玄の言葉に、にやりとしたヘルプが虚空に黒板を出す。


「見な!とうとう残りが7割つまり70名になったぜぃ」


 ヘルプの示す数値が確かに70を表示している。


 つまり30名、いや未だに未登録が一人いるため29名が敗北をしたということだ。


 約5日で3割…多いと見るべきか、少ないと見るべきか微妙なところである。


「未登録の1名はここまできたら、あまり気にしない方がいいかもな!」


 ヘルプが黒板をしまいながら言う。


「聞いた?関羽」


「うむ、急がねばなるまい。


 兄者や翼徳がやすやすと負けるとは思わぬが人数が減ってくればおのずと強敵と当たる率も増えよう」


「うん、そうだよな…そのためにも早く孫仁と合流して本格的に動き出さないとね」


 玄と関羽は甘くない現状を改めて認識し気持ちを引き締める。


「では、渡渉するとしよう」


「っと、待て関羽」


 下馬して川へと入ろうとした関羽を悪来が呼び止める。


「どうした?」


 水際で立ち止まった関羽をそのままに悪来が川へと足を踏み入れて数歩ほど歩みを進める。


 水面は悪来の腹の中ほどまで来ている。


 悪来は軽く嘶いて、戻ってくる関羽へと鼻先を向ける。


「よし、関羽。お前は俺に跨っていけ」


「む…良いのか?」


「ああ、確かにそんなに深くはなさそうだしな。


 俺が泳いだ方がいいだろう。そうすればもし敵が来たとしてもお前は両手が使える」


 確かに、関羽が泳ぐとなれば武器は典韋に縛り付けるか自ら背負って運ぶこととなる。


 ただでさえ泳いでる最中は無防備になる。


 さらに武器すらもすぐに使えないとなれば不利は大きくなる。


 悪来に跨っていれば関羽は両手が使える。


 思いがけぬ奇襲があっても、いつでも武器を取り応戦することが出来る。


「わかった。お主の言葉に甘えるとしよう」


「へん!だから馬として扱えって言ってんだろう」


「ははは!悪来よ、私が自らが跨る馬に感謝もしないような漢に見えるのか?」


 そう言って素早く悪来に跨る。


「…なるほどな。じゃあ、遠慮なく恩に着せておくぜ」


 悪来は愉快そうにひと声高く嘶くと、大河へと踏み込んで行った。


 おそらく中州までは500メートル程、到着まではせいぜい数十分前後というところだろう。


 本物の揚子江はその川幅は数キロに及ぶところもあるという。


 そう考えればかわいいものなのかもしれないが…


 たった数十分、いまや70人となったこの世界でその数十分に誰かとあいまみえる可能性は低いはずだが、油断することは出来ない。


 玄は関羽達を見守りつつ、レーダーの反応を見逃さないように集中する。


 北東、東、東南の三方向に関してはエリアがない。 


 北と西、北西は既に到達エリアでありそこには反応はない。


 そちらに反応があったとしても川を渡りきるまでに遭遇することはないはずだと玄は考える。


 残りは南と南西のエリア。


 ここに関しては未到達エリアである。


 この二つのエリアに誰かがいたとしても、自分達には知る術がない。


 相手がこちらのエリアまでを到達エリアにしていたとしたら、こちらの動きは丸わかりになっているはず…


「エリアの境目はちょうど中州の真ん中付近か…」


 関羽達が川の中に居るため、自分の回りも水の映像で満たされ、落ち着かないものを感じながら、


「無事に着いてくれよ」


 祈るように呟いた。



 その頃、茜と孫仁もまたフィールドにいた。


 マーカーを消し、見晴らしの良い街道を歩いていた。


「どう、レン?今日で2回目だけど、この世界は?」


 茜の言葉に孫仁は、開けた街道を歩きながら周囲を見回す。


「そうですね…私がいたころとはどこも似ていません…ですが、どこか懐かしい雰囲気だけは残っています…


 例えて言うなら故郷のへたくそな絵を無理やり見せられている。


 そんな感じです」


 くすくすと楽しそうに笑いながら孫仁が答える。


「あははは、わかるわかる!なんの絵かは、なんとかわからなくもないけど~ってやつよね」


 レンの例えに明るく笑った茜が次の瞬間真顔になる。


「…でも、だからこそ腹立たしいわね」


 そんな茜の言葉に孫仁が今度こそ心からの微笑を浮かべる。


「ふふふ、それが分かってもらえるあなたと組める私は幸せ者よ」


 自分が笑顔の下に隠した細かい心情まで茜は自然と察してくれる。


 それがとても嬉しかった。


 自分が生きていた頃は身分の違いからか誰もが自分との付き合いに一線を

引き、そこまで心中を慮ってくれる人は召使はもとより、友人の中にも一人

もいなかった。


 だからこそ、最初に茜と出会った時に茜が言った言葉に魅かれたのである。


 『相棒』


 すなわち互いに対等の友人であり協力者。


 当時の孫仁には望んでも得られないものだ。


 女は政略結婚の道具にされ、戦うことなどない。


 ただ、愚鈍なまでに家で夫を待ち子を産む。


 あの世界ではそれが当然であり、孫仁も疑問を抱いたことはない。


 だが、あの人に嫁いでからは、あの人と周りに集う人々をいつも羨望の眼

差しで見ていた気がする。


 このような訳のわからないゲームに狩り出されてしまったことには怒りも感じるが、茜や玄に会えたことや、もう一度あの人に会えるかもしれないことを思えば正直悪くはないと思える。


「ちょ、何よレンいきなり。照れるじゃないの」


 顔を赤くした茜の言葉に(もちろん今は茜の顔は見えないのだが)レンは再び笑う。


「ふふ、本当のことですから」


「うぐっ!…む~…ありがと。私もあなたと組めて嬉しいわ」


 茜は諦めて素直に好意を受け取ることにし、自分の気持ちも伝える。


「それにしても…そろそろ緊張してこない?」


「こう見えても私は、敵に備えてある程度の緊張感は保ってるつもりよ」


「ああ、違う違う。そういう緊張感なら私だってあるってば」


 孫仁が疑問符を浮かべて立ち止まる。


「ほら、もうすぐ私達も今いるエリアを出るじゃない?


 でもそこは私達にとってはまだ行ったことないエリアな訳だからそこに誰かいたとしても相手のマーカーはわからないでしょ。


 隣のエリアに行った途端に誰かと遭遇することだってあるかもしれないじゃない」


 茜の説明を聞いていた孫仁は一瞬きょとんとした後…笑った。


「え、え?なんで笑うのよ~レン!」


「笑ったりして、ごめんなさいね茜。


 でも考えて御覧なさいな。あなたの目にも見えるのでしょうあの地平が」


 孫仁がぐるりと周囲を指差した先々には地平線や山の稜線、遠くにきらめく水面、青々と茂る木々等の自然の景色が見える。


「???見えるけど…」


 ぐるりと見回した綺麗な景色を見ても茜には孫仁が何を言いたいのかが分からない。


「茜、あなたはその道具に頼りすぎて私達にとっては当たり前のことに気づいてないのよ」


 くすくすと笑いながら孫仁は言う。


「えっ、私なんかおかしなことしてた?」


「いえ、あなたが少しでも私達の役に立とうと一生懸命にその道具を使いこなそうとしているのは分かっています。


 とっても嬉しいわ、でも私もあなたも人間でしょ。


 近くに誰かを探す時にそんな道具はいらないわ」


「あ…」


 孫仁の言葉に、ようやく自分の思い違いに気づいた茜の顔がみるみる赤くなる。


「気づいたようね、今のあなたの顔が見えないのはとても残念だわ」


 口元を手で隠し上品に笑う孫仁。


「きゃぁ…恥ずかしい私。


 確かにそうよね…私達には目があるんだもん。


 自分の周囲なんて目で確認すればいいだけじゃない。


 確かに道具に頼り過ぎてたわね、気をつけなきゃ。当たり前のことなんだけど、教えてくれてありがとう、レン」


「ふふ、どういたしまして。


 さて私の相棒さん、方向はこちらであってるのかしら?


 その道具で確認してちょうだい」


「も~!そんなこと言ってからかって~、それでも本当にお姫様だった訳?」


 茜が口を膨らませて抗議する。


「お姫様って言ってもね、お姫様なんて言われるようになったのは権兄さまが後を継がれてからだから、育ちが悪いのねきっと」


 ころころと笑う孫仁は本当に楽しそうだ。


「もうっ!」


 茜も口では怒ったふりをしているが、気兼ねのない会話を楽しんでいる。


 とはいっても、戦場にいるということも忘れてはいない。


 しっかりとVSを確認している。


「私達は昨日今日と、始まりの場所から北東に向かって歩いてきて…もうすぐ最初のエリアの北東の角に到達する。


 そこで玄から教わったとおりにくるりと動けば到達エリアが一気に4つに増えるはずよ。


 玄達がスムーズに川を渡って来てればエリアが繋がるかもってところ。


 方向は今のままで合ってるわ…えっと、ちょうどあの先に見える大きな岩のあたりが境目ね」


 孫仁はその岩を見て頷く。


「関将軍のことですから、きっともう近くまで来ていることでしょう。


 私も待っているだけではなく戦う、と決めたのですから少しでも進まなくてはなりませんものね」


「レン、体力もったいないから戦闘状態解除したよ。


 四方に見晴らしいいし、誰かが近づいてくるようならすぐ分かると思うから」


 先ほどの一件で、目視の重要さがわかった茜は自分達が相手を見つけられるということは、こちらがいくらマーカーを消していても視認されてしまえば結局見つかるということに気づいたからである。


 ならば、こんな見晴らしのいいところで体力を削るのは無駄である。


 見える範囲よりも遠くから位置を把握される恐れはあるが、そんなに長居するつもりはないしその辺は問題ないと判断したのである。


「今日はそこでエリアを拡大したら、一度戻ろうね。


 玄に連絡してどの辺にいるのか聞いて、合流地点とか聞いてみるから」


 茜の言葉に孫仁は微笑んで頷く。


「茜は本当に玄殿のことが好きなのですね。名前を呼ぶときの声でわかります」


「な!そそそそんなの分かる訳ないじゃない、ちょっとばかり長く生きてるからって適当なこと言わない!」


 楽しそうに笑いながら孫仁は再び歩き始めるのだった。




「悪来、大丈夫?」


「問題ねぇぜ、首が長いってのは結構便利なもんだ。多少身体がが沈んでも息継ぎには困らん」


 玄の心配そうな声に対して悪来の返答は軽い。


 無理をしてる様子はないので、どうやら本当にまだ余裕があるらしい。


 関羽達はようやく中州までの距離の半分を過ぎたところである。


 今のところ変わったことは何もない。


 VSへの反応もないし、川から何かが襲ってくる気配もない。


「このまま何もなければいいけど…」


「玄よ、それは楽観にすぎるな…」


 右手で手製の薙刀を持ち、左手で悪来のたてがみを軽く握りながら関羽が口を開く。


 腰まで水に漬かり、水の抵抗や波に晒されながらも全く危なげがない。


「関羽?」


「お主の言う、るぅるとやらを戦術の中に組み入れて策を練るならば…次のえりあとの境界は中州の中央付近」


 玄は関羽には見えないことは承知の上で頷く。


「そしてその辺は木々が繁っていてこちらからは見晴らしが悪い。


 ならば、そこへ兵を伏せておくならば、相手に存在を気取られぬのではないか?」


「…そっか、そうだね…


 新エリアに入る時はなるべく目視で安全を確認できるところから入るのが安全な方法だけど…


 今回はあの場所を迂回することは出来ない…中州を経由しないで渡河をするのはもっと危険が大きいから。


 でももし、襲撃者が渡河する人たちのそんな心理にまで考えが回る人物だとすれば…」


「この機会を逃すはずはなかろうな。


 おそらく悪来も無意識に危険を感じたからこそ、私を背に乗せたまま行こうとしたのだろう。


 どうやら悪来もわが義弟と同じタイプのようだな」


 関羽が悪来の首を軽く叩いて言う。


「ということは…


 もし、俺が逆の立場だったら…


 相手を渡りきらせるのは得策じゃない。


 余りに早く手を出して引き返されても意味がない。


 引き返すには進みすぎていて、岸にはまだ遠い。長い距離を泳いで疲弊し始める頃…


 そして弓の射程」


 玄がぶつぶつと呟きながら考えている様子を感じて関羽は少しだけ口角を上げる。


「…中州まで残り半分を切った今からが、徐々に危険区域ってことか?」


「まあ、そんなところだろうな。


 無論可能性の話だがな…


 この辺を根城に戦っている者がいるとすれば、ここは攻めるに難く、守るに易い。


 唯一の有効な手段である兵糧攻めがここでは通用しないことでもあるしな」


 戦闘をしなければ疲労も空腹もない武将達には補給は必要ない。


 ただし、水や火、岩など罠属性があるものによっては体力を消耗するものがある。


 水に潜ったり、泳いだりはこれに該当する。


 水の罠に嵌まり洪水に巻き込まれればダメージを受けるように同じような状況の場合はダメージを受けるのである。


 ヘルプの説明によれば、山道を登っててもダメージは受けないが、崖をよじ登ればダメージを受ける。


 水に浸かってもダメージは受けないが潜ったり、泳げばダメージを受ける。


 火に関してはそのまま、触ればダメージを受ける。


 今の関羽の状況は水に浸かっていても、泳いでも潜ってもいないためライフは全く減っていない状態である。


「そっか、周りが水に囲まれてることは不利にならないのか。


 補給は考えなくてもいいし、大人数の戦いじゃないから周りを取り囲まれて退路を失うこともない訳か…」

 

 そんなことを話しながらも悪来は力強く水をかき続け、中州まで数十メートルまで到達していた。


「ふむ…頃合だな」


「え?」

 

 カキンッ!


 呟いた関羽の言葉に玄が疑問符を返した瞬間甲高い音が鳴り響いた。


「むう!この弓勢(ゆんぜい)、ただごとではないな」


 中州の木々の間から放たれた矢を関羽が薙刀で撃ち落した音だったようだ。


 情けないことだが、玄には放たれた矢を視認することすら出来なかった。


「悪来!」


「おうよ!」


 関羽の声にこたえた悪来が泳ぐ速度をあげ、岸との距離をみるみる詰めていく。


 その間にも、鋭い弓なりの音と関羽が武器を振り回し矢を弾く音が繰り返されている。


 狙いは正確でほとんど全ての矢に関羽は対処をしている。


 50メートル以上離れた位置からの攻撃としては信じられない程の精度である。

 

 関羽は飛沫を上げながら薙刀を操り、悪来に当たる可能性のあるものまで叩き落しているが、やはり不自由な状態に加えて相手の力量の高さが関羽を苦しめている。


 典韋と戦っているときも、ここまで余裕のない表情はしていなかった。

 

 今の状況では玄に出来ることはない。


 少しでも早く水からあがり、自由に行動が取れるようになることを祈るのみである。

 

「よし、関羽。足が着き始めた、もう少し粘ってくれ」


「うむ、確かにただならぬ腕前だが、一矢ずつの攻撃にそうそう遅れはとらぬ」


 関羽と悪来の息のあった動きは、敵の攻撃を食い止めつつ確実に距離を稼いでいる。


 岸に上がりさえすれば悪来の機動力を活かして一気に距離を詰め、相手を見つけ出し接近戦に持ち込める。


 それが関羽達の作戦である。


「よし!行ける」


 悪来が自分の足が川底をしっかり踏みしめた感触に喜色の声をあげた。


 関羽もわずかに頷き、薙刀を構えなおす。


「?」


 悪来が川底を蹴り、一気に岸へと上がろうとした時だった。


「なんだ?関羽!波が!」


 いままで緩やかに流れるだけだった川面が激しく波打っていた。


 玄達は関羽や悪来が動き回っていたせいで気にしていなかったが、よくよく見てみれば全く関係のない離れた水面までもが大きくうねっている。


「悪来!」


「分かってる!だが、足に波が絡み付いてきやがる!進めねぇ!」


 関羽達が立ち往生している間にも波は高くなり、やがて大人の三倍ほどもあるような波が上流から関羽達に向かってくる。


「やばい!こんな波不自然だ!


 多分誰かの術!でも…川を氾濫させるなんて…」


「おいおいおい!どうするんだ関羽」


「むう」


 悪来の焦った声が響くが、さすがの関羽も川の水相手では戦いようが無い。


「悪来!」


 玄はとっさにVSを操作しながら悪来に指示を飛ばす。


「おい!そんなことしたら!」


「いいから!タイミングを見計らって一気に行くんだ、早くしないと間にあ…」


 玄の叫びが終わるか終わらないかの内に更に高さを増した大波が関羽達の真上から叩きつけるようにのしかかってきた。


 ドドドォォォ…


 関羽達はなすすべもなく波に飲み込まれていった…


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同時連載中です。
スキルを交換する能力を持った主人公のお話です。
転生物ではないですが転生要素はあります。ケモミミの幼馴染やエルフ奴隷もでます^^
もしよければ読んでみてください
スキルトレーダー【技能交換】 ~辺境でわらしべ長者やってます~
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