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偉効のジンテーゼ  作者: 佐々木繰磨
第1章
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第4話


青年は船頭で海を眺めて居た。その表情には悔やみの様な、屈辱感の様な、そんないたたまれない感情が映っていた。

「悔しいですか?」

私は単刀直入過ぎる言葉をかけた。青年がそう思うのは明らかに解る。それでも、何故か聴かなければ行けない気がしてならなかった。

「…………あの男は、“神の星の国”の第二市族の武長だ。噂じゃ、市族長の座も狙ってるらしい。口も達者で武闘にも優れてる。まともに争って勝てる相手じゃない」

それに、と、青年は溜息と呆れ混じりに言った。

「“神の星の国”の奴等は、みんな俺等“離島の国”の国民を見下していやがる。この船に居る大半の奴は“神の星の国”の者だからな」

敢えて結論を言わなかったのは、青年の自責の念の表れだろうか。

「……私は、殺してやりたいと思いました」

「え?」

重い、苦い、とても掬い上げられない、泥の様な感情が、私の声に重石の如くのしかかる。

「強者がすべきなのは弱者を喰らうことじゃない。

恣意でも、弱者を保護する為に、強者は敬われるべきなのに」

何故、私がこんな苦しまなければならないのか。苦しいのは青年ではないのか。何故、青年は冷静でいられるのか。

「どうして、こんなに凶暴な心が覗くのか、自分でも解らないです。でも、貴方の思いは間違っていないと、確信できます」

青年は、黙って私の論説を聴いていた。優しさの中に、冷たい厳しさを混ぜた様な瞳で。

「…そうか。ありがとう。でも、俺は弱い。君みたいに強い人が、事を上手く大きく変えてくれるのを、ただ見ているだけの傍観者さ」

虚ろな眼で、彼は微笑んだ。

「君みたいな人がまだ国に居たとはね。嬉しいよ。大方、あっちに出稼ぎにでも行くんだろう?」

目にした時からだが、不思議な青年だと思った。妙に飄々としている様で、人を寄せ付け難い。

「“神の星の国”は“離島の国”を明らかに格下に見ている。気を付けてね」

「……あぁ…はい…………」

あなたも、と言おうとして、無意識に躊躇ってしまったのは、私の未熟さだろうか。

「想像以上にキツイねぇ……まぁ、獲物の正体を掴めていない時点で、既に鬼畜な計画かな」

成人の儀、なんてモノが形だけなのは解っている。昔の王様が遺言で残したのが、私が遂行すべき計画そのもの。新米でもない私には、重過ぎる荷だ。

「第一、“天使の王子様”なんて、本当に居る訳?今時の幼子でも信じないよ、そんな御伽噺みたいなの」

でも、そうまでしないと、急激な“神の星の国”の繁栄は説明がつかないのだろう。時の国の上層部の方々は、さぞ苦労しただろうに。……まぁ、そんな苦労なんて気にならない程、暮らしが豊かになっていったから、誰一人文句を言わず、皆がよく働くのだろう。

いつのまにか、風が弱まり始めていて、“神の星の国”は、もう目前に迫ってた。




つづく

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