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偉効のジンテーゼ  作者: 佐々木繰磨
第1章
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第1話

蒼穹を切り裂くのは金色の閃光。

人は各々の想いを弓矢に託し、射手は人々の願いを天に解き放つ。

祖国では弦の音が其処ら中に響き渡り、民は神の救いを求め矢を放ち続けていた。


そう、あの時までは。





第一章<閃光の彼方>


桜の木が鮮やかな緑に包まれる頃。私は大人になろうとしていた。

十六歳とは云え、充分嫁げる様になった。だが、そう簡単に一人前だと民族の大人のみんなは認めてくれない。

馬小屋で愛馬の手入れをしながら、これから出る初仕事の事を考えていた。その時。

「出発の用意は出来たのか?」

心配そうな表情で幼馴染みのシラルが私の顔を覗き見た。

「大丈夫に決まってるでしょ。あんたも来年はやるんだから、私のお手本、ちゃーんと見ときなさい!」

面倒くさそうに分かったよと言い、シラルは自分の愛馬の側へ行った。

私達の愛馬は山道でも8日は持つ程に頑健で、身のこなしも素早く、足音も立てぬ、私達の職業柄にとても合った馬達だ。

中でも、私の愛馬の“スヒ”は、ずば抜けていい馬だと、民族の誰もが讚美した。スヒは、私達の民族の伝統的な言葉で、矢と云う意味だ。その名の通り、矢の様に素早くしなやかで、音無く敵に辿り着く…。正に最高の馬なのだ。

そんな馬と“成人の儀”を共にする事になるなんて、昔話に出てくる天才射手みたいでとてもわくわくする。

そんな高揚感にうち震える私に、民族の長である私の父が嬉しそうな口調で話しかけてきた。

「どうだ、ジン。初仕事はこなせそうか?」

冗談混じりに、髭を撫でながら笑いかける父上は、私の誇りだった。人々に世界一だと嘯かれても、大きい顔をせず、常に謙虚な人だ。

「大丈夫に決まってますよ。齢の近い者の中じゃ私がずば抜けて腕がいいんですから。それにスヒも附いてますし」

褒められたのが解ったのか、スヒが自慢気に頭を振った。

父はとても愉快そうに高らかに笑うと、笑顔のまま声を落とした。

「お前は次に我が民族の長となる身だ。呉々(くれぐれ)も死ぬんじゃないぞ」

そう言って、私に一挺(いっちょう)の弓を差し出した。

「こいつは俺の弓だ。まぁ正しくは我が民族の長に成る者が持つ弓だな。持っていけ」

「えっ、でも私はまだ……それにこれは父上にとって命にも代え難い大切な物の筈じゃ……」

父上は首を振ると、真剣な眼差しで、重い口調で(ささや)いた。

「いいんだ。お前は次期頭領となる者だ。成人の儀を終えたら、直ぐに皆を率いるんだ。だから、持っていけ。」

「で、ですが、その間の頭である父は………」

「私はもう長くない。お前が居ない間は“カルシ・ラファト<神の収束>”の体制を取る。心配するな」

カルシ・ラファトと言うのは、頭領の居ない間の統率者を、私達が崇める月神(カーラ)とする事だ。

「そうですか…。分かりました。私、しっかりと儀式を行い、必ずや生きて戻ってきます」

父上はとても嬉しそうに微笑んだ。

「あぁ。頑張るんだぞ」


夜になった。

出発まであと数分。船着き場でスヒを連れて海の小波(さざなみ)に耳を傾けていた。

「おい、娘。もう出すぞ」

船乗りのガッジはそう言って、貨物を船に運び込んでいる。

「はーい。スヒ、行こう」

スヒを連れて船に乗り込む。儀式の決まりで、民族のみんなは見送りに来ない。最初から最期まで、一人っきりの闘いだ。

怖い。でも、楽しい。

武者震いしながら握る弓に成功を誓い、揺れる船に身を託した。


つづく







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